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蔦本 イメージから読み解く蔦

「蔦まみれのススメ vol.5」はテキストで更新いたします。
梅雨になり、雨で家にいる時間が増えますね。
そこで、蔦に関する書籍(蔦本)についてお話しします。

 蔦は植物としても興味深いものですが、その強靭な生命力と繁殖力から「再生」や「復活」「子孫繁栄」などのイメージとしても扱われてきました。また、かつては食べ物として嗜まれていました。
 この文化やイメージを紐解いていくと、古代より蔦と人間の生活は深い繋がりがあったことがわかります。
 今回は「再生と復活」「繁栄」「食」の3つに分けて、それらを知ることができる書籍をいくつかご紹介します。

1.再生と復活 ー古代の墓に描かれた蔦

 田辺勝美さんの論文「スルフ・コータル出土「カニシュカ 1 世像」の神格化について : 木蔦と再生復活と神格化」(創価大学シルクロード研究センター、2017年)によると、昔はアイビー(木蔦)は年中緑色なことから「再生」や「復活」の象徴とされました。古代の墓には死者の再生と復活を願ってアイビーの装飾が描かれたそうです。
 エトルリア文明を始めとした文化には、蔦をモチーフにした歴史的な工芸品や遺跡がよく見られます。

朝日新聞東京本社文化企画局
「エトルリア文明展 最新の発掘と研究による全体像」
(朝日新聞社、1990年)

 過去に行われたエトルリア文明展の図録です。墓や陶器などにアイビーが描かれています。展覧会図録なので手に入れるのは難しいかもしれないのですが、「エトルリア文化」で探せば他の本でも見れると思います。

↓この本にも一部載ってます。

古代オリエント博物館
「シルクロード 華麗なる植物文様の世界」
(山川出版社、2006年)

版元ドットコムより

田中久美子
「世界でもっとも美しい装飾写本」
(エムディーエヌコーポレーション、2019年)

 中世ヨーロッパの写本を見ると、アイビーの装飾が描かれています。アイビーは酩酊の神“ディオニューソス”の聖樹だったり、キリスト教とも関わりがあるのでよく描かれたのかもしれません。


2.繁栄 ー繁栄の願いを込められた「蔦紋」

 日本の家紋には、蔦があしらわれた「蔦紋」があります。蔦紋には「繁栄」の願いが込められていました。
 また、季節によって色が変わるナツヅタは日本画でもモチーフとしてよく扱われていたので、日本において蔦は「美しいもの」という認識だったのかもしれません。

安達史人
「新版 面白いほどよくわかる 家紋のすべて(学校で教えない教科書)」
(日本文芸社、2012年)

 読むと蔦紋の奥深さを知ることができます。蔦紋は商売繁盛や徳川家など色々なことと繋がっています。

https://honto.jp/netstore/pd-book_25195521.html


3.食事 ーいにしえの高級甘味料 甘葛

 かつて蔦の樹液は「甘葛(あまづら)」という甘味料として使われていました。太くなった蔦のツルから樹液を集め、煮詰めてシロップにして食べたそうです。たくさん作ることができないので貴族だけが食べられる高級甘味料でした。

山辺規子
「甘葛煎再現プロジェクト “よみがえる古代の甘味料”」
(かもがわ出版、2018年)

 現在甘葛は市販用に製造されていないですが、大学などの研究で甘葛を再現していることがあります。この本は奈良女子大学が行った「甘葛煎再現プロジェクト」について書かれています。


虎屋文庫
「和菓子を愛した人たち」
(山川出版社、2017年)

 羊羹で有名な虎屋が編集した、歴史的な偉人や作家と和菓子にまつわるエピソードをまとめた本です。甘葛についても載っていて、清少納言も食べたとか。


4.そのほかの蔦本

そのほかにも蔦まみれ建築に関する本をご紹介します。

都市緑化機構特殊緑化共同研究会
「新版 知っておきたい壁面緑化のQ&A」
(鹿島出版会、2012年)

 壁面緑化についての情報がQ&A形式で載っています。まず壁面緑化や蔦まみれ建築について知りたいならこの本です。


村田あやこ
「たのしい路上園芸観察」
(グラフィック社、2020年)

版元ドットコムより

 植木鉢や増殖するアロエ、など路上園芸についての本です。どれも「本当にこんな成長の仕方するの?!」と思うような見た目のものばかりで、読んでると植物が愛おしくなります。蔦まみれ建築も載っています。

エイミー・スチュワート(監訳:山形浩生 訳:守岡桜)
「邪惡な植物 リンカーンの母殺し!植物のさまざまな蛮行」
(朝日出版社、2012年)

版元ドットコムより

 人間の生活を脅かす植物について書かれた本です。植物というのは音もなく知らぬ間に色々なものを飲み込んでいくから怖い。蔦については載ってないのですが、クズについて知ることができます。クズはアメリカでは極悪な外来種として扱われているそうです。

ワンダーJAPON編集部
「ワンダーJAPON」(vol.1〜6)
(standards、2020年〜)

版元ドットコムより

 珍スポットから廃墟、宗教建築などなどのワンダーなものを紹介する雑誌です。時々蔦まみれ建築も登場します(vol.6には載ってました!)。初めて読んだ時は「私の好きなものばかり載ってて最高の雑誌だ!!」と衝撃を受けました。このようなワンダーなものの魅力に私が目覚めるきっかけとなった本です。

以上蔦本特集でした。
流行りのシェア型書店とかに並べてみたいですね。
手に入りにくいものもあるのですが、もし機会があれば読んでみてください!