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【月刊ポップ・カルチャーの未来から/23年8月号】 「新しい世代の書き手が減っている?」件について。

「自分のこと」について書き記すために始めた月次連載、その第5回目です。これまでは、僕が音楽ライターになったきっかけや、ポップ・カルチャーについて言葉を綴り続ける理由について書いてきました。後から読み返すと、これまでの4回は僕の自己紹介に近い内容になっていることに気付きました。そろそろ今回あたりから、当初この連載を始める時に想定していたように、僕が日々のライター生活の中で考えていること、思っていること、悩んでいること、目指していることなどを、その月ごとに書いていこうと思います。

おこがましいですが、根底には、ライターを目指す(もしくは、ライターという仕事に興味を持つ)次の世代の方たちにとって、何かしらの思考や行動のきっかけを提供したいという思いがあります。僕自身、上の世代の方たちから学びや経験の機会をたくさんもらってきましたし、今もそうです。いつまでも受け取ってばかりではいけないので、そろそろ自分もギブする側にならなければと思っています。

とはいえ、音楽ライターを目指す10代、20代の方がどれくらいいるのか、という疑問もあります。最近、音楽業界のいろいろな方たちと話す中で、「新しい世代の書き手が減っている」という話をよく耳にします。僕自身としては、近年、ブログやSNSでカジュアルに音楽について発信している人が増えていると感じていたのですが、たくさんの人の話を聞く限り、ライティングの仕事を担う新しい世代の人が減っているのは間違いなさそうです。

僕は今年の10月で32歳になりますが、レコード会社や事務所の方たち、音楽メディアの方たちからは、「若い」ライターとして認識されています。もちろん、40代、50代の名だたるベテランライターの方たちに比べたら若いのは間違いないのですが、本来であれば、僕よりもさらに若い10代、20代のライターがどんどん台頭しているべきだし、そのほうが音楽業界全体にとって健全なのだと思います。

僕が一人で嘆いたところで仕方がないのですが、多少の切なさを感じています。僕が一人でどうこうできる話でもないのですが、音楽ライターを志す人が一人でも増えたら、そして、このシーンが今以上に盛り上がっていったら嬉しいですし、そうした流れを作るために微力ながら何かしたいとも思っています。そうは言っても、今のところ何か明確なプランがあるわけではありません。影響力は小さいかもしれませんが、僕自身が日々の一つひとつの発信を通して、音楽ライターの仕事は意義深いものであることを世に伝えていくしかないのだと思います。偉そうに思われるかもしれませんが、まずはできることを愚直にやっていきます。


僕自身、音楽メディアを運営しているわけではありませんが、音楽メディアの方たちが、引いては音楽業界の方たちが、新しい世代の書き手の台頭を待ち望んでいる理由は、なんとなく分かるような気がします。あるアーティストやバンドについてリアリティのある言葉を綴ることができるのは、多くの場合、その音楽をど真ん中の世代として聴いている(聴いてきた)人たちなのだと思います。もちろん、真に優れた書き手であれば、世代なんて関係なく、そのアーティストの表現の本質や核心にシャープに迫ることができるかもしれません。ただ、やっぱり、90年代のUKシーンの狂騒をリアルタイムで体験してきた世代のライターが書くノエルやリアム、ブラーの記事には熱いリアリティが宿っているように感じます。逆もしかりで、小さい時から息を吸って吐くようにボカロ文化に触れてきた世代のライターが書くネット発アーティストの記事には、同じ時代を生きてきた者ならではの高い解像度に基づくリアリティが宿るはずです。

もちろん、1991年生まれの僕だからこそリアリティをもって書くことができるアーティストはたくさんいますし、そうした案件を担当することには、一種の使命感、そして誇りを感じます。ただ、自分の担当ゾーンを固定し続けるわけにはいかないので、音楽シーンの新しい潮流にキャッチアップしたり、時に、自分がリアルタイムで聴くことが叶わなかった上の世代の作品などを遡って聴いたりしていく必要があります。そのようにして守備範囲を広げていく努力を怠ってはいけないと思っていますが、ただやはり、例えば、40代、50代のライターの方こそが書くことができる素晴らしいエレファントカシマシの原稿があるのは間違いないと思いますし、また、今まさに青春の季節を過ごす10代、20代の方たちにしか書けない新世代バンドの熱量の高い記事もきっとあるはずです。

僕自身、「若い」ライターとして、新しい世代のアーティストの案件をどんどん担当していきたいですし、そのために努力を重ねていきますが、これから先、もっともっと「若い」ライターの方たちが台頭してくることを楽しみにしています。



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