【月刊ポップ・カルチャーの未来から/23年11月号】 過去5年分の年間ベストランキングの内容を振り返る。
僕は、ポップ・カルチャーを巡るリアリティ、もしくは本質は、いつだって、今この瞬間にこそ宿ると思っています。ポップ・カルチャーのシーンの最前線の様相は、次々と絶え間なくアップデートされ続けていきます。今この瞬間に、音楽シーンや映画シーンで何が起きているのか。どのような革新的な作品が生まれて、それらがどのような熱量をもって受け手に受容されているのか。日々、目まぐるしく変化し続けるシーンの最前線におけるリアリティを立ち止まることなく追いかけ続けることこそが、ポップ・カルチャーを語る者としての僕自身の大切なテーマです。
そして、そうした活動の各年ごとの自分なりの集大成が、この連載の前回(月刊ポップ・カルチャーの未来から/ 23年10月号)でも取り上げた、僕が各年末に発表している年間ベストランキングです。ライター活動を始めた2018年の年末から、「僕の心を震わせた〜ベスト10」と題した「邦楽」「映画」の年間ランキングを発表し始め、2019年の年末からは「洋楽」を含めた3つのランキングを継続的に発表しています。音楽&映画ライターとして活動する僕にとって、今や年間ランキングを作成することはライフワークのようなものになっています。絶対に後からランキングの中身は変えないという決まりを自分に課しているので、セレクトする際は常に非常に真剣です。
先ほども述べたように、ポップ・カルチャーのシーンの流れは、まるで激流のようです。次から次へと新しい作品やアーティストが登場するからこそ、シーンの最前線にキャッチアップするのに毎日せいいっぱいで、それ故に、僕は基本的に過去の作品を何度も振り返ることはあまりしません。ただ時々、自分の過去の年間ランキングを振り返って、その年ごとに厳選に厳選を重ねた作品を聴き直したり、鑑賞し直したりします。「邦楽」も「洋楽」も「映画」も、特に上位5作品は、その年における非常に思い入れ深い作品で、今後の人生において何度も繰り返して聴いたり観たりすることになるであろう作品です。今回は、過去5年分のリストをまとめて振り返ります。
邦楽
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
洋楽
2019年
2020年
2021年
2022年
映画
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
振り返ると言っておきながら、過去5年分の記憶が一気に脳内に溢れ返ってしまい、なかなか冷静に振り返れないのですが、改めて、その時々の自分が後から悔いることのないように懸命にセレクトしていたことを再確認することができました。僕にとって、渾身のリストです。
また、普段はあまり意識することはありませんが、僕自身として、どのような作品に惹かれるのか/心を動かされるのか、について、自分の中の傾向が非常に色濃く浮き彫りになっているリストだと感じました。対外的に発表しているランキングですが、あくまでも自分が好きなように自由に選んでいますし、もちろん、誰かに迎合したり忖度したりなどは一切していません。音楽&映画ライターとして、自分のスタンスや価値観をしっかりと打ち出しておくことは非常に大事なことだと思っているので、このような形でそれを表現できることは改めてとても意義があることだと感じました。
邦楽について細かく振り返ると、まず、ランキングを発表し始めた2018年に、しっかりとKing Gnuの"Prayer X"を選出していた自分を褒めてあげたいです。(とはいえ、これでも遅すぎたかもしれませんが。)毎年そうですが、その年に頭角を現した新人アーティストについては、特に気合いを入れてセレクトしています。なぜなら、少し嫌らしい言い方になりますが、それが自分の先見の明を打ち出す機会になり得るからで、これは単なる自己満足に過ぎませんが、ここで選出したアーティストたちがその後に大躍進を果たしていく姿を見ると、まるで自分ごとのように嬉しくなります。
また、2020年にVaundyの"怪獣の花唄"がリリースされた直後にこの曲にしっかり反応できたことも、非常に勝手ながら誇らしい気持ちです。(その年の上半期ベストのランキングでは、この曲を1位に選びました。)ただ当時は、まさかこの曲が「紅白」で歌われて、リリースから3年半が経った後も継続的に聴かれる特大ヒット曲になるとは全く予想していませんでした。改めて、本当に凄い曲だと思います。
毎年、自分の中では、「5位以上は全て1位!」という気分でセレクトしていて、上位5作品にはとても深い思い入れがあるのですが、特にコロナ1年目の2020年は、今から振り返っても胸が熱くなるような非常に素晴らしい楽曲にたくさん出会うことができました。5位以上どころか、この年は7位以上は全て1位というテンションです。星野源の"うちで踊ろう"はもちろん、嵐の"カイト"も、米津玄師の"カナリヤ"も、Vaundyの"怪獣の花唄"も、Official髭男dismの"I LOVE..."も、藤井風の"帰ろう"も、乃木坂46 の4期生楽曲"I see..."も、全て1位です。(乱暴)
洋楽については、全世界の音楽に満遍なくアクセスした上で、かつ、それらを一つの軸で評価することは無謀すぎる試みなので、邦楽よりも割り切って自分の嗜好を全開にしてセレクトしています。2020年、2022年はThe 1975の楽曲を、2021年はColdplayの楽曲を1位に選出して、幸いなことに、今年、2組のワンマンライブを観ることができました。2019年に選出したBillie Eilishのライブもいつか観られたらいいなと思っています。(来年の「サマソニ」のヘッドライナー説が濃厚か......?)また、僕自身、普段は洋楽について執筆する機会は決して多くないですが、洋楽へのアンテナを常に張り続けておくことは、邦楽を語る上でも非常に重要なことだと思っています。この点については、追ってどこかのタイミングでこの連載で書きたいと思います。
最後に、映画について。2018年に1位に選出した『ちはやふる ー結びー』は、その翌年以降も繰り返して観直しています。小泉徳宏監督の次回作『線は、僕を描く』も大傑作で、2022年の4位に選ばさせて頂きました。このように、映画作品のセレクトにおいては、洋邦を問わず、僕が心から信頼する監督の作品を年を跨いで選び続ける傾向が少なからずあります。例えば、新海誠監督の『天気の子』(2019年2位)、『すずめの戸締まり』(2022年1位)や、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年5位)、『ベイビー・ブローカー』(2022年2位)などです。なお、映画のランキングにおいても、5位以上は全て1位です。(暴論)どれも僕にとって本当に大切な作品で、特に『すずめの戸締まり』は、僕のオールタイムベストの一つになりました。こうした素晴らしい作品たちと出会えることこそが、日々、ポップ・カルチャーのシーンの最前線を追い続ける僕にとって最高の歓びです。
今年も、あっという間に年間ランキング発表の準備を始める季節がやってきました。いつものように、ランキングとセットで、選出した各作品の短評を公開するつもりですので、年末年始に聴いたり観たりする作品選びの参考にして頂けたらとても嬉しいです。
それでは!
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