ショートショート『スーヴェニア』

中庭にはにかっと笑った人たちが駆け回り、周りを照らし始めている。
それに対して、暖かな澄んだ空気を吸う力がだんだんと弱くなっていく姿が窓際に映る。
そろそろ、シロツメクサの茂る季節だ。
心なしか点滴の落ちる速度は増して、サッカーボールが知らないところへスキップしている。

今見える景色は箱型で、小さな植物と、一番星たちが見えるくらいだ。
私は一生懸命生きる彼らにもう追い付けはしないと覚悟はしていた。
日差しや月の光、蛍光灯がないと目が輝くことすら求めなくなっている現実に、強い抱擁で消えてしまいそうな気分になる。
決して、退行というわけではないし薬の味も苦くない。
けれどもう少ししたら、片道切符の知らせがやってくるのだろう。

決して今のあまりにも穏やかな生活も悪くはないと知ってから
諦めなども自然に消えていくのだろう、と思ったのが正解だとたどり着いた。
ずっと前の過ちやいたずらも、名前だけが消えればすべて無くなるもので
他人になることへの恐怖にもいつの間にか別れを告げられそうだ。

今日の晩御飯は、優しい味のする、具沢山のコンソメスープだといいな。

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