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イタリアンバール、ミラノ

ミラノの最初の宿泊先は、中央駅から25分ほど歩いたところにある。
ここから50mも歩けばバールが何軒かある。
というより、ミラノ市街地には50mも歩けば最低一軒はバールがある。他の都市もそうなんだろうか。
驚いたのはそれらがチェーン店ではなく、それぞれ個人店(だと思われる)だからだ。
日本のように大手チェーン店が都心部を占有していない。
地価が違うのか、代々続くお店が多いのか、土地持ちが多いのか、はたまた。

イタリアのバール文化、カフェ文化に浸りたい、というのが、旅先にイタリアを選んだ大きな理由のひとつ。
しかし実は、到着初日は朝7時にミラノに到着していたにもかかわらずバールには寄れなかった。日本的な「カフェ」には二軒寄ったけれど。日本的なカフェとはつまり、テーブルでのイートインスペースがしっかりあるお店だ。
長時間のフライト後で疲れていた、スケジュール的に寄れなかった、など理由はあるけれど、まあやっぱり一歩そこに踏み入る勇気がなかったんだろうなあ。
わかってはいたけれど、バールのローカル感といったらない。
みんなサクッと飲んで、バカでかい声で雑談をしてサッと帰る。イタリア人は、みな声がバカでかいのだ。
日本でもコミュニケーションを大事にしているお店にはハードルを感じてなかなか近寄れないんだから。
するっと入って必要最低最小限の声を発して終始影を潜めて静かに佇んでお支払いをしてするっと帰りたいんだ、私は。

でも郷に入れば郷に従うのが礼儀ですから。
宿の近くにあるバールの扉をおずおずと開けた。
ブォンジョルノ。
お店に入ったらちゃんと挨拶を交わすのも礼儀だ。
チャオチャオチャオ。
イタリア人は「チャオ」をたいてい繰り返す。「チャオ」って響き、日本人的には愛嬌がある。
朝にバールで注文するのはもっぱらカプチーノとクロワッサンらしいので、真似してみる。ツレはカプチーノとプレーンのビスコッティ。
店主からテーブル?と言われたので、テーブル席に着いてみる。バンコで常連に混じって「なんだこいつ」と空気を壊すのも忍びない。店主もきっとそれを避けるためにテーブルを勧めたんだ、きっとそうだ。
でも意外とテーブル席に着く人もいるらしい。私たちが座っていた20分程度で他にも3組ほど利用していた。
旅が終わるまでにはバンコで飲んでみたいなあ。

まさに入れ替わり立ち替わりといった様相でお客さんが出入りしていく。しかしなんの違和感も滞りもなく流れていく朝の時間が、実に居心地が良い。
店主は60代くらいか、陽気な男性で、常に口と手を、ごくごく自然に動かしながら立ち回っている。
いつものチョコクロワッサンか?いや、今日はプレーンにしとくよ、太ってきたんだ。
なんてことなくて気安いおしゃべり。
お客さんも普通。普通だ。何が普通って、いつものお店に立ち寄って、いつものように適当に言葉を交わして、サッと立ち去る。
「普通」に感激する。なんだろう。

ミラノで一番心が動いたのが、この朝のバールのひとときだった。
とびきり美味しい何かとか、綺麗な何かとかいうわけではなかったけど(クロワッサンもカプチーノも美味しかったが)、ちゃんと会話を交わしてくれたこと、その日常に少しでもお邪魔できたことが嬉しかったんだと思う。

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