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トイレに行きたい、機内

成田を出て、アラブ首長国連邦アブダビで乗り換え後のミラノ行き機内。
窓際3列席の窓側2席。
私の通路側の隣はアラブ系の男性。
出発して30分ほど、初めは落ち着く姿勢を探っていたのか、大きな身体をもぞもぞと動かしていたが、その後微動だにしなくなった。
それから30分後、CAさんが間食のプレートを配膳し始めた。

どうしよう。まだ少し我慢できるけど、トイレに行きたくなってきた。
アラビアンは寝ている。
寝ているところを声をかけて起こすのは気が引ける。嫌な顔をされると嫌な気分になる。
しかもCAさんに折り畳み式のテーブルを開けられて間食のプレートを置かれても全く気づかないほど寝入っている。
もう少し我慢しよう。ひとまず自分のプレートを完食するまでは我慢しよう。
イタリア風の半カット程度のパニーニ(そら豆らしきものの入った生地にチーズとトマトが挟まれていた)と、アップルクランブルのようなカップデザート、水。
美味しい美味しい、うん、美味しい。そろそろかな。うん、美味しい。そろそろ。トイレ。トイレ。そろそろ。
まだアラビアンは寝ている。

CAさんがプレートの回収をし始めた。
ああ、回収作業の拍子にアラビアンに触れて目を覚まさないかな。
自分たちのものは回収された。
揺れた機内であろうとカートを操り乗客に触れず安定したバランスを保つ技量はさすがといわざるを得ない。
まだアラビアンは寝ている。
ああ、もう本当に無理だ、声をかけて起こしてどいてもらうか。
その時、アラビアンが動いた。
起きた!今しかない!
アラビアンの折り畳み式テーブルは開かれて完食プレートは乗ったままだけど仕方がない。
食べ始めてしまえばそれこそパニーニやビニール袋が落ちたりして一層のストレスを与えかねない。今しかない!
" sorry, toilet ? "
事なきを得た。
(嫌な顔ひとつしないお優しい方だった)

※その後また2時間後にトイレに行きたくなってしまい、その時はもう余裕がなかったので「sorry?」と形だけ小さく呟いて断りを入れてから、全力で脚を伸ばして寝ているアラビアンの太もも上を触れることなく跨いだ。脚を長く産んでくれた両親に感謝しつつ空港で珈琲を飲んでしまったことを悔いた。

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