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郊外のワイナリーへ、フリウリ

ヴェネツィアを出て向かったのは、その東、スロベニアに隣接したフリウリ郊外の街コルモンズ。
フリウリはワインの名産地らしく、このあたりはワイナリーがたくさんある。列車の車窓からも葡萄畑がいくつも広がっていた。季節が違えば低木に葉がついて一面に緑の絨毯が敷かれていただろうなあ。
ツレはワインが好きだけれど、私はお酒が弱い。
しかしヴェネツィアのバーカロで良いお酒時間を過ごしてワインが美味しく感じたし、日本でもたまに美味しいワインに出合うこともあった。
だから少し楽しみ。

宿の最寄駅、フリウリ県のコルモンズ駅で列車を降りると、駅員もおらず、売店もなく、寂しさを感じる。
その宿へ行くにはバスに乗らなければならない。
本数が少なくて、次を逃すとその次は3時間後の17時過ぎ。田舎の暗さで路頭に迷うのは避けたい。絶対に乗り逃してはならない。
駅の停留所は一ヶ所、駅前のみ。たまに止まるバスの表示を確認しても、目当ての路線が来ない。662とか、路線系統が表示されていなかったりすることもある。
バスの時刻表にはQRコードが付いていてバスの現在地が確認できるようになっていて、スマホ画面でそれを見てみると、系統番号や行き先は表示されていないものの、バスはもうすぐそこまで来ているようである。
でもそれがとある地点から一向に動かなくなった。この駅のすぐ近くの曲がり角。予定時刻になっても動かない。
おかしいな。
まあ遅延なんて日常茶飯事なのだから少し待てば良い。あるいはGPSがうまく機能していないか、運転手がちょっと道端でタバコを一服しているかのいずれかで、たいした問題ではない。
5分、10分、20分、30分。
…来ない。
GPSを確認してみると、先ほどまで表示されていたバスのGPS表示が消えてなくなっている。
えええ……なんで?
たまに路線系統や行き先の表示がないバスが通っていたけど、それだったのか?
なんにせよバスが無いのであれば歩く以外の選択肢はない。

しかし幸いバスや車であれば10分程度のところなので、歩けば1時間半で辿り着けるはず。1時間半、20kgのスーツケースと8kgのリュックを手にして歩けばいいだけだ。
旅行に出てから鳴りを潜めていた肩こり由来と思われる頭痛も、脳内で準備運動を始めたかのようにギュッ、ギュッと響いてくる。
さらにイタリアは冬でも日差しがけっこう強くて、紫外線が露出した顔に痛いくらいに振りかかる。ダウンコートを脱いでしまいたいが、それすらもめんどくさくてただひたすらに歩き続ける。
ああしんどい。しんどい。
これがこの旅行中最大の苦難になると思いたい。「疲れないように適度に休息を」なんて思っていても、そうなかなかうまくいくものじゃない。それも旅なのだ。

街を抜けて、ようやく葡萄畑のなだらかな斜面が目の前に広がる。陽光は既にオレンジに色づき始めていて、地平線から鋭角15度の高さにある。
何軒かワイナリー風の素敵なカントリー調の建物を通り過ぎると、見晴らしの良さそうな2階建の建物が見えてきた。
ようやく着いた。時間は17時半頃。ぎりぎり暗くなる前に到着できた。危なかった。暗さというより疲れが。

葡萄畑

チェックインを済ませて案内されたシンプルだけど木の温もりが落ち着く部屋。
綺麗に正方形の窓からは地平線に沈む夕陽。
静けさ。
イタリアに来てからというもの、本当に騒々しかった。
イタリア人は本当に声が大きくて。宿は基本的に安めのところに泊まっているので、宿内も、外の通りの声も、そこそこ聞こえたりする。移動の電車や道端、飲食店内でも、「声を抑える」ということを一切しない。こういうところに自分が日本人であるという強烈なアイデンティティを感じざるを得ない。そしてそんな日本人で良かったというか、日本で良かったというか、日本が好きだ。海外旅行中は何度も思う。
しかしここは葡萄畑のど真ん中。人がいなければ当然声は聞こえない。車の音もごくたまに行き来する近隣のワイナリーの車のみ。

夜、夕食はないので少し歩いて街に出なければならない。「街」といってもほとんど近くに飲食店などはない。宿の方に伺うと、親切にも何軒も飲食店に電話をかけて探してくれたのだが営業しているところはないようで、ようやく見つけたピッツェリア1軒のみだった。ナポリピッツァのようにやけに大きいピッツァ。なかなかどうして、うまいじゃないか。部屋に帰ってからはこのワイナリー生産の白ワインを。こちらは期待して、期待以上にうまかった。美味しいワインは美味しく飲めるようになってきたかもしれない。

星空も、綺麗であった。
そうだ、ここは田舎だったな。

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