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変革期のリテール業界。スタートアップ参入のチャンスは?

2022年1月22日、成長産業カンファレンス『FUSE』で行われたWebセッション「変革期を迎えるリテール業界の未来と、スタートアップ企業のビジネスチャンス」から内容の一部をピックアップしつつ、セッション中に語りきれなかった内容も合わせてお伝えしたいと思います。

登壇者は当社執行役員 新規事業戦略部長の平等弘二とCVC推進室長の鳥井敦、DNX Ventures Chief Partnership Officer兼Partnerの中垣徹二郎氏。そして、流通業界向け専門誌5誌「販売革新・食品商業・コンビニ・ファッション販売・飲食店経営」の編集長である株式会社アール・アイ・シー代表取締役の毛利英昭氏に進行役を務めていただきました。

フューチャーストアは社会的意義の高い取り組み

毛利氏:日本は2025年に団塊の世代の平均年齢が75歳になります。消費への影響はもちろんのこと、生産年齢人口の減少による人手不足にも流通大手のトップは危機感を持っています。さらに、リテール業界は世界の主要国と比較して生産性に大きな遅れをとっています。

長年にわたってリテール業界をウォッチしてきた毛利氏の現状課題からスタートしたWebセッション。生産性の向上とともに新しい顧客体験の創造も求められる中、リテール業界ではどのような変革が始まっているのでしょうか?

中垣氏:アメリカではAmazon Goの登場以来、セルフチェックや無人店舗を実現するスタートアップ企業(Standard Cognition・Caper・Zippin・AiFiなど)が活躍しています。数十億円〜数百億円規模の調達を実施し、様々な小売店舗の中で試されていて、実際に製品・サービスを販売しています。一方、日本ではPoCの事例がいくつか出てきていますが、まだ海外のスタートアップ企業が本格的な導入には至ったニュースは聞いていません。

逆に、トライアルやTOUCH TO GOのようなリテールの立場の方々が、ジョイントベンチャーや内製化の中で実行してスケールしようとしているのは面白い流れですね。とはいえ自社でできる会社は多くないと思いますので、おそらく今後は日本のマーケットに合ったサードパーティのソリューションがスタートアップ企業から出てくるのではないかと期待しています。

平等:TOUCH TO GOと東芝テックは2021年に資本業務提携を結びましたが、例えばTOUCH TO GOの無人店舗を郵便局の空きスペースに設置すれば、郵便局に寄ったついでにワンストップで買い物も済ませられます。マイクロマーケットですと他にも病院やオフィス、タワーマンションのスペース、銀行のATM跡地や地方の有休地における無人店舗も生活者ニーズが高いと考えられます。今後増えることが予想される介護施設での活用も有効でしょう。

このように、移動が大変な高齢者の方々や地域の買い物難民といった課題の解決に寄与し得る点においても、無人店舗は社会的意義の高い取り組みだと思います。

無人店舗以外にも、OMOやBOPIS、ショールーミングなどの新しいテーマが生まれ、将来的にはメタバースも課題解決に貢献する可能性を秘めているリテール業界。企業や業種の垣根を超えた共創が求められるようになってきています。

毛利氏:小売業は仕入れて陳列して売るだけではダメな時代です。いろんなチャネルと連携して新しい買い物体験を追求していく対応が求められています。さらにメタバースが注目されている中、我々はリアルな社会と仮想空間という2つの生活空間をもって過ごすということが起きるかもしれない。

小売企業もメーカーもそうですが、自分たちの技術だけで事業を広げて競争優位性を高めるのが難しくなってきています。

中垣氏:リテールの在り方が変わってきて、今までとは違うUXが求められる中で、スタートアップ企業と大手リテール業界のコラボレーションも色々と起こっています。今まではいかに便利に買ってもらうかという視点が多かったところに加え、店舗運営の方法やUX改善などの領域でもコラボレーションが生まれています。

そして、WalmartがWalmart Labsをつくりテックカンパニーを次々と買収しているように、協業を経て買収に発展するケースも増えています。例えば、CB4(Context-Based 4 Casting Ltd.)という店舗改善系のAIスタートアップ企業をGapが買収したり、ECスタートアップ企業のHEROをスウェーデンの決済大手Klarnaが買収する事例がありました。

DNX VenturesのSeed投資先でもあったFlow Solutionsはまさにお店の中で人の導線をファネル化しコンバージョン改善するようなソリューションを展開していて、大手企業とのリテールの協業を進めていたりしますので、日本でも同様の兆しが出てきていると思います

鳥井:日本国内の人口動態を考えると今後は小売企業の統廃合が進むと思っています。その中で生き残るために、顧客ロイヤリティを高める取り組みは必須。顧客ロイヤリティとはただポイントを付与するといった単純な話ではなくて、品揃えだったり、楽しい買い物体験だったり、新しい気付きだったりを提供することも重要です。実際それを実現するために小売店舗では様々なことをまだ人的に行なっているのですが、それを人の手ではなくDXで実現しようとする動きが出てくるだろうと思っています。先ほど中垣さんにご紹介いただいたCB4もその取り組みの一つですね。

世界最大級のリテールカンファレンス「NRF 2022: Retail’s Big Show」でWalmartのCEOも「お客さまは変化しており、小売業者はその変化を理解し、対応することが不可欠」と言及しているとおり、今後は顧客ロイヤリティの向上が一つのポイントになりそうです。

先行する海外のラストワンマイル。国内のスタートアップ企業に期待する所は?

毛利氏:この5年から7年くらいでしょうか。大きな課題となっている「ラストワンマイル」ですが、東芝テックとしてはスタートアップ企業と今後どのような取り組みをお考えでしょうか?

鳥井:CVCでは買い物代行サービスのダブルフロンティアやドローン管制システム(UTM)のトラジェクトリーというスタートアップ企業に出資しています。他にも店舗の裏側で必要とされるLogisticsやピッキングエリアのようなところで言うとマイクロフルフィルメントやSCMなどにも注目しており、今後スタートアップさんと取り組んでいきたい領域の一つです。MFC(マイクロフルフィルメントセンター)などの領域は海外と比べると日本国内の投資規模も小さくスタートアップ企業の数も少ない印象ですが、アメリカではロボティクスやマイクロフルフィルメント領域の投資が進んでいることもありますので、今後成長するのではないかと期待しています。このあたりUSの動向など中垣さんからも少しコメントいただけますでしょうか?

中垣氏:鳥井さんもおっしゃる通り、欧米ではこの分野はハード ソフトそれぞれの分野で多額の投資が実行されています。ラストワンマイル輸送に関しては、自動運転ロボによる無人配送も中国や欧米ではコストも現実的になり、実用化までもう少しというところまで来ています。日本でも実証実験は始まってきていますので、行政のルール整備、また海外勢 国内勢のスタートアップ企業の切磋琢磨で面白いサービスが出てくることを期待しています。マイクロフルフィルメントの分野はDNXの投資先のROMSがそれに該当しますが、国内では物流会社のクオリティの高さもあり、プレーヤーがまだまだ少ないので今後に期待しています。

リテール業界へ参入するスタートアップ企業のみなさまへ

毛利氏:最後にリテール分野に参入しようとしているスタートアップ企業の皆様に向けて、メッセージを頂きたいと思います。

中垣氏:DNX Venturesとしては日米の両方を見て活動しており、だからこそ実感していることがあります。例えばラストワンマイルの領域はハードウェアを伴うので大きな投資金額が必要です。量産化の技術等の部分で海外が先行しているかもしれませんが、日本に持って来ようとすると日本のルールに合わせることにすごく苦労するケースがある。また、リテール業界でアメリカだとオフラインマーケットがいまだに伸びていますが、日本はオーバーストアと言われる状況なので、出店を増やして売上を上げるより、効率化をしていくことが重要になります。このように、アメリカと日本ではリテール業界が抱える課題も違ったりするので、そこをちゃんとローカライズしないとマーケットに入っていけません。そういう意味で、日本のマーケットをよく知る国内スタートアップ企業に非常にチャンスがあると思っています。

場合によっては東芝テックさんのようにスタートアップ企業との協業を積極的に取り組んでいる会社さんもあるので、関係性を作りながらマーケットにPMF(プロダクトマーケットフィット)させていくチャンスがあると思いますし、私たちも日本のスタートアップ企業へ投資をしていきたいと思っています。

鳥井:東芝テックCVCはシナジーありきではなく、幅広くリテールの未来を一緒に切り拓いていくスタートアップ企業の皆様を探しています。成長のためのサポートもしていきますので、ぜひお声がけください。

平等:スタートアップ企業の皆様がお持ちの様々な尖った技術やアイデアは、小売企業にとって非常に魅力的です。一方、それをサービス化・事業化・収益化するためにはブレークスルーすべき壁もたくさんあります。例えば、先方のキーマンにアポイントを取ることもそうですし、PoCの資金確保や、部分最適ではなく全体最適する際のオペレーション最適化、あるいは店舗に何かあった時にすぐ駆けつけて対応する体制も求められたりします。

東芝テックはPOS事業を通して全国各地の小売企業様と数多くのタッチポイントを持ち、現場を熟知している営業やエンジニアが多数います。これらのアセットを活用していただくことでスタートアップ企業の皆様の事業成長を大きく支援できると考えています。ぜひ、一緒にリテール業界の新しい未来を作っていきましょう。

大きな変革期を迎えているリテール業界。従来のプレイヤーだけでは解決が難しい課題もある中で、スタートアップ企業との共創に大きな可能性が示されたWebセッションとなりました。

東芝テックCVCではリテール業界の課題解決に一緒に取り組んでいただける仲間を探しています。興味のある方はぜひお気軽にお声がけください。



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