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実店舗の変化とこれからの店舗接客のポイント

これまでも海外動向を中心に実店舗の未来に関する記事をいくつか書いてきましたが、今回はECシフトや人口減少が進む中で、店舗はどうやって売上を確保していくのか?店舗での接客はどうあるべきか?といった、小売における「実店舗」というチャネルの役割やあり方について、小売業のDXに関する有識者である郡司昇氏にインタビューを行いました。

OMOで変化する、接客の役割

――ここ数年で買い物スタイルに変化があった人もいるかと思います。お店に買い物に行く機会が減った人もいる中、最近はお店の入れ替わりも目立つように感じます。今、実店舗にはどのような変化や課題が起きているのでしょうか?

郡司氏:ECシフトが進んだことと、コロナ禍での購買行動変化で、お客さんは実店舗に行く頻度が下がり、1回当たりの購入単価が上がっています。その結果、店舗在庫の欠品を減らすことの重要性がさらに高まりました。週3回来店していたお客さんが週1回しか来店しなくなれば、当然ながら販売チャンスは減るわけですから、いかにお客さんが欲しい商品を欠品なく店舗に揃えられるかという、在庫最適化が求められるでしょう。そこはテクノロジーで解決できる部分も大きいと思います。

もう一つの観点として、ECの売上が上がらないと全体の売上が上がらないので、自社ECチャネルの認知度を高める必要があります。実店舗はよく利用するけれど、そのお店のECは使ったことがない、というお客さんはたくさんいますよね。

――最近は店頭で見た商品をECで購入する「ショールーミング」という購買行動も増えていると聞きます。

郡司氏:はい。ショールーミングに関しては、実店舗で「今買わなくてもECで購入できますよ」といったアナウンスをすることが大切ですよね。案内するだけでなく、その場で自社のECサイトに登録するところまでサポートできるとベストです。

もう一方の流れとして、ECサイトで気になった商品を実店舗で確認してから購入する「ウェブルーミング」も増えています。洗剤など日用品の分野はあまり関係ないのですが、画面上で見ただけで購入するのが怖い高額商品などがよく対象になりますよね。

ウェブルーミングへの対応として、お客さんが目星を付けた商品に関して、いかにウェブサイトで説明できないことを接客で案内できるかが重要です。また、一番基本的なこととして、実店舗で在庫が切れているならECで必ず買えるようにするという、補完関係をしっかりと作ることです。

――ウェブサイトで説明できないことをいかに接客で説明できるかという話は、実店舗でのスタッフ教育にも関わってくると思いますが、どのようなことに気をつけるべきなのでしょうか?

郡司氏:まず前提として、今後はますます事前知識のある来店客が増えるということ。何も知らない人であれば基本的な情報を接客で伝える必要がありますが、事前知識のある人はウェブサイトでは分からなかったことを知りたくて来店するわけです。

さらに、事前知識のある来店客の中には、自分で商品を触ったり、確かめたりして、勝手に買っていく人もいます。極論、その人たちには接客は必要ありません。

でも、その人たちでも “あと一押し”が欲しいパターンもあります。例えば、「似合っている」の一言が欲しいとか、この商品に合うコーディネートを教えて欲しいなど。

お客さんによってニーズは異なるので、一概にこれを学ぶべきとは言えないのですが、少なくともウェブルーミングで事前情報を持っているお客さんとそうでないお客さんとでは、接客の役割が変わることは間違いありません。極端に言えば、ウェブルーミングのお客さんにとって、ウェブサイト以上の情報を提供できない接客は必要ないのです。

人口減少が進む地方こそ、One to Oneマーケティングが重要!

――もう一つの切り口としてお聞きしたいのは、これから人口減少が続く中、どうやって売上を確保していけばいいのか?ということ。実際に苦労されている店舗も多いと思います。

郡司氏:人口減少は主に地方の課題になりますが、小売店舗に関しては「新規顧客に期待してはいけない」ということが、まず言えると思います。今後、人口は減っていく一方なので、広告費をかけて新規顧客を獲得するのではなく、今来てくれているお客さんに、いかに繰り返し来ていただくかを考えることが大切です。

いわゆるライフタイムバリュー(LTV)の向上ですが、LTVを左右するカギになると考えているのが、One to One マーケティングです。

例えば、ドラッグストアやホームセンターは取り扱う商品が多岐にわたります。その中で、ペットを飼っている人であればペットフードの品揃えが重要ですよね。もし愛用しているペットフードの取り扱いがなくなったら、そのお客さんはたとえ不便でも他のお店に通う可能性だってあります。一人ひとりのお客さんを大切にすることが、長期的な利益につながるのです。

そして、その人にとってもっとオススメなペットフードがある時は、パーソナライズしてオススメすることが重要です。なぜなら、ペットを飼っていない人にとってその情報は無価値だからです。無価値な情報ばかりを案内されたお客さんは、その企業からの情報発信を見なくなります。

――店舗が新規顧客を集める方法としてよくやるのが、店頭キャンペーンとかイベント集客ですが、その施策はもう通用しないのでしょうか?

郡司氏:もちろん、体験の深さが異なるのでなくなることはありませんが、今までとは役割が変わっていくのでしょう。人口が減ると費用対効果が厳しくなるので、その施策だけをやっているのは危険です。予算配分を減らして、それをLTV向上のための施策に充てるとか、広告費に使っていたお金をお客さんに還元するといった対応が必要になると思います。

――いかに今のお客さんを大切にできるかが重要になるのですね。

郡司氏:実際、地方の過疎地では次々と店舗が閉店したり、商店街自体がなくなったり、地元密着型のスーパーですら潰れてしまうこともあります。そうなると、今までスーパーで買っていたものと同じものは買えないとしても、自宅から10キロも離れた食料品を置いているようなドラッグストアまで、わざわざ行くしかなくなるわけです。

そこの拠点まで行くことになるのであれば、今後はそのドラッグストアで宅配を受け取るようなサービスが出てきたり、あるいは、宅配業者が自宅に荷物を届けた後、ついでに最寄りのお店まで連れていってくれるサービスとかが出てくるかもしれませんね。

地方はバスの路線も減ってきていますが、バスの停留所にスマートロッカーを置いて配達サービスを展開することもできると思います。宅配も郵便も、現在の送料で人が少ない地域への配達を続けていると、きっと採算が合わなくなります。その時に、モノと人を共同で運ぶような動きが出てくる可能性はありますよね。

人事評価制度が、OMOの成果を激変させる!?

――今回のお話には、2つのポイントがあったと思います。一つは在庫最適化。もう一つはECサイトの認知向上。前者はテクノロジーである程度解決できそうな気もするのですが、後者のECの存在を知ってもらうためにはどのような工夫をすれば良いのでしょうか?

郡司氏:一番簡単でROIが高くなるのは、店舗でECを紹介することですよね。そのためには、店舗やスタッフの評価制度に「店舗売上」ではない評価軸を持ってくることが極めて重要です。冒頭に述べたショールーミングもそうですが、スタッフが「店舗の売上をECに奪われる」というマインドだったら、ECを案内するわけがないですよね。単純に店舗で購入させたかどうかだけでなく、きちんと接客できたかどうかも評価指標に加えるべきですし、ECに案内できたかどうかが評価につながる制度も作るべきです。

例えば、店舗や店員ごとに発行される二次元バーコードでECサイトを案内し、そこからECサイトを利用したお客さんの年間購入額が50,000円であれば、そのうち店舗では3,000円しか購入していなかったとしても、50,000円で評価すべきです。

その結果、OMOの成果が劇的に変わる可能性もあるので、人事評価制度は非常に重要な観点だと思います。

――テクノロジーで解決できる領域のほかに、人事評価制度など仕組みで改善できる話もお聞きできて、とても勉強になりました。また他のテーマでも、是非いろいろとお伺いできればと思います。本日はありがとうございました!


なお、郡司氏には小売業の課題をテーマとした社内セミナーにもご登壇いただいたことがあり、一部の内容をnoteに掲載しております。よろしければ、こちらもご覧ください。

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【プロフィール】
郡司 昇(ぐんじ のぼる)
店舗のICT活用研究所 代表

ドラッグストア大手ココカラファインでEC事業会社社長として事業黒字化の後、全社マーケティング戦略を策定。マーケティングとECの責任者兼任。現職は小売業のデジタルトランスフォーメーションにおける小売業、ベンダー、顧客の三方良しを支援するコンサルタント。新著に『小売業の本質: 小売業5.0

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