見出し画像

『パニッシャー』極右アイコンになったきかっけは『アメリカン・スナイパー』

 マーベルの『パニッシャー』が話題にあがっています。2020年1月6日の米国議会乱入において、結束バンドを持っていた人物が同作のスカルロゴを装着していたのです。ディズニー社の対応を求める声もあがっていますが、Inverseによると、こうした非公認アイテムに使われているスカルロゴのほとんどが2004年映画『パニッシャー』、つまり同社が買収する前の商標のようです。

 実は、元々アメリカでは『パニッシャー』のスカルロゴが軍人や警官、さらにBlue Lives MatterやQアノンなど、保守派とされがちな運動のアイコンになっていました。元海兵隊の自警団的な私刑執行である主人公の生みの親、ジェリー・コンウェイは2020年6月に苦言を呈し、パニッシャーがBlack Lives Matterを支持するキャンペーンを開始しています。彼いわく、パニッシャーは法と秩序の失敗を表すキャラクター。それなのに何故、Blue Lives Matterなどの法執行官とその支持界隈で使われたのか??

 どうやら、大きなきっかけは、クリント・イーストウッド監督映画『アメリカン・スナイパー』でも描かれた軍人クリス・カイルのようです。4度イラクに派遣され150人以上の敵を射殺したとされる射撃手は、米国、とくに保守派や銃所持権利派で英雄視される一方、政治的議論も巻き起こしました。それは映画版も原作著作『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』も同様。

 この米軍の英雄クリス・カイルは、戦地で自分たちを「パニッシャー」と呼び合い、いたるところに改造したスカルロゴを纏っていたのです。著作ではハマーやボディアーマー、ヘルメットや銃にスプレーペイントしていたと語っています。それどころか、派遣先のイラクの壁や扉にスカルをスプレーで描いていったというのです。理由は威嚇。「俺たちが来た、お前らとヤりあいたい」「我々を恐れろ。お前らを殺すのだから。マザーファッカー。お前たちは悪人だが、俺たちは更に悪い」。元々『パニッシャー』ロゴは中東に派遣された米兵のなかで流行っていたらしいのですが、上記Instagram登校のテキサス州モニュメントの胸部にもきちんと『パニッシャー』スカルが彫刻されていることを見れば、クリス・カイルこそインフルエンサーだったことが伺えます。

 帰還兵たちの多くは、米国で法執行機関に入りました。こうして『パニッシャー』スカルが警官を筆頭とする法執行機関のシンボルになっていったと言われています。

パニッシャーロゴをつけるBLMプロテスターを押さえつけるデトロイト市警

 大きな問題は、法執行官の当事者たちを超えて思想アイコンとしての『パニッシャー』が広まったことです。なにせクリス・カイルの生涯を描くクリント・イーストウッド監督映画『アメリカン・スナイパー』は、2014年、戦争映画としてアメリカ史上最大の興行収入を記録したのですから(ちなみに、映画にも『パニッシャー』の書籍がちょっと登場します)。同作が大ヒットした2014年といえば、エリック・ガーナー射殺事件が起きた年、つまりBlack Lives Matterが拡大した頃でもあった。12月にニューヨーク市警官が殺害されたことで、法執行官の人権を訴えるBlue Lives Matterが開始。そして、多くの保守派が支持したBlueLMのアイコンには『パニッシャー』スカルロゴがあります。こうした流れで、反BLM、反民主党など重なるところがある白人至上主義、プラウドボーイズ、Qアノン界隈でもスカルロゴが普及していったと報じられています。『パニッシャー』は、軍や法執行官を超えて、人種主義や陰謀論のシンボルになってしまったのです。クリエイター側が反対運動を展開しているところも含め、ファンアクティビズム記事で紹介した『カエルのぺぺ』と似た現象と言えます(この「カエルのぺぺ」事件を追うドキュメンタリー映画『フィール・グット・マン』が3月12日日本公開予定)。

スカルピンをつけてTV出演するFox Newsのショーン・ハニティ
Qアノンラリーで配布されたチラシ
原作者ゲリー・コンウェイによる『パニッシャー』Black Lives Matterキャンペーン 

関連記事


よろこびます