見出し画像

捜査員青柳美香の黒歴史11

 三時間後、助手と僕は新幹線に乗っていた。それまでに話したことは以下の通り。
「それでは、まず、自己紹介から。えへんえへん。あたくし、婦人警官の青柳美香と申します。年は二十六歳。所属部署は故あって申せませんが、ただいま憑神教の捜査に専従いたしております。特技は空手を少々。小娘だと思って舐めた真似しでかすと痛い目を見ますわよ。おほほほほ。星座は乙女座。学生時代のあだ名は、あだ名はついてませんが、みんなミカリンって呼んでくれてました。よろしかったら、以後、ミカリンでーー」
「断る」
「そうですか。それは残念です。出身は修羅の国、福岡。好きな食べものはバナナ。性格はそうですね、こう見えても、ちょっぴり恥ずかしがり屋のオマセさん。趣味は音楽鑑賞で好きな歌手はーー」
「もういい」
「えー、もういいんですかあ。じゃ、先生どうぞ」
「お前の先生じゃない」
「どうぞ」
「えー、そのなんだ、名前は大石司。妻の名は静恵。娘はアカリ。義母は江田紀子」
「はい、知ってます。年齢は五十一歳。中学校教師。担当は国語科。現在中学校三年生担任。休職中。奥様は司さんと同学年。アカリさんはこの春女子大を卒業する予定で、就職情報誌の営業に内定。お義母様は、五年前に旦那様を亡くされ、現在一人暮らし。以上」
「なんだ、じゃ、話すことないな」
「えー、趣味とか星座とか、まだ聞いてないんですけど」
「断る」
「もう。蔵サンって恥ずかしがり屋さんなんだから」
「蔵サン? 蔵サンってだれだ」
「いやだ、先生に決まってるじゃないですか」
「俺は司だ!」
「だって大石でしょ。赤穂浪士の討ち入りみたいじゃないですか」
「司だ」
「いやだ。蔵サンとミカリン。うまくやって行けそうだわ」
「お前をミカリンなんて呼ばん」
「あっ、ミカリンって覚えてくれたんですね。早速お使いいただき、ありがとうございます」
「うるさい。青柳!」
「えー、呼び捨てですかあ。呼び捨てなら、せめて下の名前で」
「うるさい。青柳!」
 そんなすったもんだがあって、青柳は今、隣でグーグー眠っている。ウナギ弁当とカツサンドとアイスを食って満足したらしい。静かなうちに、と僕は鞄から一通目の手紙のコピーと二通目の封書を取り出す。
 差しだし人はいずれも「十四夜」。
 確かに三人が伊勢参りに出かけたのは、一月十四日。二通目の手紙が届いたのが昨日、二月十四日。
日にちはあってる。でも「日」じゃなくて、「夜」とわざわざ書いてあるのはどうしてか。
 十四夜。十五夜なら満月、お月見。十六夜なら、いざよい。十四夜はなんだろう。なんと呼ぶのか。スマホで調べてみた。
 小望月。
 ああ、なるほどね。十五夜は満月、望月だから、その前で小望月。こもちづき。他に「幾望、きぼう」とも言うらしい。「幾」は「近い」の意味。望月に近いということなんだろう。幾。「いくつ」とも読むな。

 お月さんいくつ
 十三ひとつ

昨日、来た「紀伊バージョン」の手紙にはこうあった。

 お月さんいくつ
 十三ななつ

今日、青柳が歌った「東京バージョン」ではこうだった。「十三ひとつ」と「十三ななつ」。「ななつ」の方が一般的なんだろう。なぜ、「ひとつ」なんだろう。そうか、もしかして足すのか。十三足すひとつは十四。十三足すななつは二十。「十四夜」なら「ひとつ」か。でも、それが何なのだろう。言葉遊びか。それとも、謎かけか。でも、その謎ってなんなのだろう。
 一通目のコピーを見る。

 みなかみに こと夜のしもは ふらねども 七日七日の 月といわれじ

 「みなかみ」って地名だろうか。「水上」か。水上温泉か。検索をかけても、手がかりになるようなことはなかった。ただ「月夜野」という地名があった。今は水上町に合併されているらしいが。
 「憑く・神」を検索する。だいたい動物霊に憑依されるようなことが書いてある。憑神教の御神体は狐か狸かはたまた山犬か。
 似た言葉で「月読命」というのもある。「ツクヨミ」「ツキヨミ」と読むようで、天照大御神とか須佐之男命と一緒に生まれたらしい。だが、記紀神話の中で「月読命」の存在は極めて薄い。どれも関係なさそうで関係ありそうでわからない。
 まあ、行くしかないな。諦めて手紙をしまい目を閉じた。

※参考文献は連載終了後に提示します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?