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藤沢周平のこと


 テレビの「必殺シリーズ」とか「木枯らし紋次郎」「座頭市」とかで育った世代なんで、時代劇では、アウトロー的な主人公が好きである。大人になってからは「鬼平犯科帳」もなかなかよいなと思うようになった。中村吉右衛門の所作や台詞まわしに痺れたのだ。歌舞伎役者は基礎が違う、とひとり納得した。

 じゃ、本でそれを求めるかと言うと、これが求めない。アウトローものはあまり読まない。座頭市は子母沢寛の短編しかないから仕方ないが、笹沢佐保も池波正太郎も数冊しか読んでない。
 じゃ、時代小説は嫌いなのかと言うと、嫌いとは言わないが、好きな方ではない。
 じゃ、全然読まないかと言うと、これが時々は読む。「蜩ノ記」など、とても面白かった。あと、圧倒的に読むのは、藤沢周平である。

 池波正太郎と藤沢周平のどこが違うかというと、江戸と庄内と舞台も違うが、一番違うのは、藤沢周平は武士を描く、というところだ。勿論鬼平も武士だが、ここで言う武士とは、"武士道"をわきまえ、尚且つ武家社会に生きる武士のことである。城詰め、宮仕え前提なのだ。鬼平は城に行かない。
 私はテレビでアウトローを好むのに、本では道徳と秩序を求めてしまう。それを支えるストイックな美意識が好きなのだ。壊すのではなく、支えようとする一途な思いにやられるのである。
 だからお家騒動的な話は大好物である。個人の思いより"お家大切"なのだ。自分のことしか考えない今の人間より、余程上等だ。"上意討ち"なんか出てくれば堪らん展開である。だから、その流れなので、決闘は泥臭くてはいけない。長年培った剣術の冴えを見せて欲しい。家伝の必殺剣などあればナオよろしい。
 以上、鑑みた結果、藤沢周平のナンバー1は「蝉しぐれ」ですかな。えっ、みんな言うって? 新味がないって? 仕方ないじゃん、No1なんだもの。名作なんだもの。

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