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アイスネルワイゼン三木三奈1

三木三奈さんの「アイスネルワイゼン」冒頭から追っていきます。
未読の方は、まず「アイスネルワイゼン」をお読みください。


第一場面 ピアノレッスン

主人公の琴音は、子供にピアノの出張レッスンをしている。
ピアノの上には写真立てが四つ並んでいる。一つは家族の写真で三つは子供の写真だ。本来そこにあるべきメトロノームは食器棚の中にしまってある。子供はレッスン中なのにうとうとしている。琴音は時計を見てため息をつく。
 この描写で、この場面の登場人物を説明し終えている。映像的であり象徴的な出だしだ。

 琴音は目をさました子供と、レッスンを再開する。子供はもたもたと音符を追う。やがて母親がケーキを持って入ってくる。母親は、次の発表会は欠席したいと言う。前の発表会で、自分より小さい子が自分より上手く弾いたことを恥ずかしがっているからだと理由を言う。
琴音は、まだ時間はあるから弾きたい曲を練習しようと励ますが、子供は弾きたい曲はないと言う。代わりに自分の描いた漫画を持ち出してきて、琴音に見てくれと言う。
子供ではなく母親がそう言う。
子供はまるでやる気がない。
ピアノより漫画に興味がある。
母親は子供に甘々で言いなりだ。その我儘を受け入れることが愛情だと思っている。
そして、琴音が発表会を勧めるのは、子供のことを思ってのことではない。おそらく子供にピアノをやめさせないためである。
発表会はピアノを続けるモチベーションになる。発表会に出ないような生徒は早晩ピアノをやめてしまう。琴音は生徒を失うこととなる。琴音がしているのは、ただの営業努力である。
つまり、この場面の登場人物は、誰も音楽を愛してはいない。
「アイスネルワイゼン」というピアノ曲のような題名がついているこの小説は、音楽を愛していない人々の描写から始まる。

          つづく

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