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アイスネルワイゼン三木三奈7

第7場面 優の家(木屋の話)

小林と話して、あにはからんや琴音は上機嫌だ。小林と縁を切ったこと、言いたいことが言えたことに満足できたのだ。高校時代の自分への反省は微塵もない。

優夫婦との会話は、それから夫の知り合いの木屋という男の話になっていく。
木屋は奥さんが流産した時、ひとりでお遍路に行く。家に帰ると、奥さんが浮気していた。
木屋という男をどう評価するかで話は盛り上がる。
優は木戸が、「ひろくん(夫)は偉い。おれが障碍者になったら、誰も相手にしてくれない」などと全くデリカシーのない話をしたことに憤る。また、自分だけお遍路に行ってスッキリするのはどうよ、と真っ当な批判をする。
夫は、お遍路は供養のためだし、毎日絵葉書出してたし、そう悪く言うなよ、みたいなことを言い、何より浮気が、とか言う。
どっちが悪い? と振られた琴音は、
「その浮気相手は、奥さんが既婚者ってこと、知ってたのかな」と答える。
たぶん知ってたんじゃないかな、ということで落ち着くが、このエピソードは何を意味するのだろう。
 ここまで読んできた読者は、ハハンと気づく。優夫婦は、木屋とその奥さんと、どっちが悪いか訊いたのに、琴音は浮気相手に関心がある。これは、琴音が自分と引き比べているのではないのか、と。つまり、T市にいる彼氏は既婚者で、一年前、琴音と関係を持ち、それで琴音は会社を辞めざるをえず、彼氏は転勤となったのではないか。その彼氏にクリスマスに会いに行く。そうではないのか。木屋は離婚した。彼氏は離婚したのだろうか。何も書かれてはいないが、読者は想像する。
優もそれに気づいたのだろうか、ここで琴音になぜ会社を辞めたのか訊いてくる。読者としては、緊張の一瞬だ。
琴音は、
「横領した」
と言い、また、
「生徒と不倫した」
と答える。勿論、嘘だが、この嘘は決定的な告白である。

琴音は彼氏を「横領」したのだ。それは「不倫」であったのだ。

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