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「打ち切り」ではなく、作家のネームバリューが上がる可能性というお話 ~ラノベ打ち切り騒動

先日の『このライトノベルがすごい!2023』の発表で様々な点で大きな反響があった。

その一つに新作部門8位の作品が作者から打ち切られた報であろう。他の作品も打ち切られているが、詳細が語られている8位の方が話題性があったと思う。

ただし、これに関しては「打ち切り」というワードが先行しすぎて、ほとんどの人は大事な点を見過ごしている。下手をするとライトノベル作家も編集者もここを把握できていないかもしれない。
でなければ、この件は「打ち切り」よりも業界を壊しかねないことが書かれているからだ。

ただ、それも仕方がない話。ライトノベルだけを追っている人には、ここに気がつける人は少ないだろうから。様々な業界の今を見ていくことで、この問題の輪郭がハッキリとしてくる。それについて、今回は語っていきたい。

■実は、先駆者がいた

先にも述べたように「このライトノベルがすごい!」にランキングしても打ち切り作品はいくつかあったようだが、この「打ち切り」に対して、大きく反響を与えたのが、この逢縁奇演氏が書かれた文章だろう。

後で語るが、この文章が書かれたところというのも、多くの人が見逃し所の1つでもある。ここで説明しても話がごっちゃになると思いますので今はブログ等の固有名詞ではなく、「書かれたところ」と曖昧にさせて頂きます。

さて、この文章を読んで、先日も同じようなことを語ったクリエイターがいたことにお気づきになっただろうか?

そう、赤坂アカ氏の漫画家引退発表である。とはいっても、これだけで何処が同様なのか分からない人は多いとは思いますので、逢縁奇演氏が書かれた文章を引用しながら説明してきたいと思います。

ただ、ここまで一字一句引用して説明するのは、逢縁奇演氏にも様々な面でご迷惑なこととは思います。

だけど、多くの人がかなりこの文章、内容を読み違い、誤解をされているのでどのような形であれ説明は必要と思っています。
また、この文章を理解した上でないと、次のステップである業界を壊しかねない部分を語れないので、文章の説明から入って来ます。

■まずは文章を読み解く

冒頭で『このライトノベルがすごい! 2023』での結果、氏の作品『運命の人は、嫁の妹でした。』が新作部門8位と語っています。ここまで当然、誰もが分かる話と思います。
そして、話題になった「打ち切り」へと話は変わっていく。

しかし、多くの人はここで文章を読み終えているのか、「打ち切り」だけが話題として語られている。だが、実際の文章ではこのように続いている。

一応電撃文庫さんから、2作目の打診はされてます。

ただね、どうもね……。

『ライトノベルの新作は難しい』

ここで大事なのは「2作目の打診」の部分。『運命の人は、嫁の妹でした。』は打ち切りであっても、電撃文庫からは作家として新作を望まれていたことになる。
実際、このラノで8位を取るだけに、打ち切るにしても評判の良さは分かっていれば、その判断も納得できる。ただ、ここも後で語る部分ではあるがラノベの出来の良さとは別の理由もあったのではと思える。

ともあれ、「打ち切り」は「打ち切り」であるが、作家として新作を出す機会を失っていないのでは真の意味での「打ち切り」として語るのは、難しいであろう。
話題に上がっている内容を見ていても、この点は注目されない印象があった。

そして、これに続く文章がこれになる。

という話を編集さんにして、
今も『次回作をやるのか?』『やるとしたらどんな事をするのか?』
を一緒に考えている最中です。

負けっぱなしは悔しいので、やりたい気持ちはあるんだけどね。

小説作る時間、ゲームとかの作業が滞るし、
勝率が低い状態で戦うのはなるだけ避けたいんだよね。

何かしらの手段を講じてから、何かしたいなとは思ってます。

この文章の中では逢縁奇演氏のプロフィール、実績を分かっていないと勘違いするポイントがある。
「ゲームとかの作業が滞る」、これはゲームでの遊び時間を指しているわけではない。ここでの意味は「ゲーム製作」である。

そう、逢縁奇演氏は「ゲーム製作」も行っている。

そして、「勝率が低い状態で戦うのはなるだけ避けたい」が意味するのは、売れるラノベを書くか、ゲームの新作を作るのかの選択を考えていることになる。

文章内でも「うさみみボウケンタン」、「MECHANICA」と製作実績を上げている。しかし、ラノベだけを追っている人にはこのタイトルでピンとこないかも知れない。
だが、私は逆にこの話題を知ったときにラノベの方でなく「MECHANICA」の人だったのかと気が付いたぐらいであった。

何度も申し訳ないが、「MECHANICA」に関してまた後で語りますが、ここではSteamでも販売され、ローカライズもされ、海外人気も高いようである。「MECHANICA」は未プレイの私であっても、以前から耳に入ってきたほどであるから。

それだけに「勝率が低い状態で戦うのはなるだけ避けたい」という言葉の意味はシンプルなモノでなくなってくる。

ここの解説は後回しにして、ひとまずは文章の解説を続ける。
ここまでは氏がTwitterの方でも語っている様に「このラノの結果について」の部分である。

ここからの内容は「新作の画面を作ってるよ~」になっていく。とはいっても、内容はそれだけで『藍の月夜の機械人形』の製作開始発表と幾つかのサンプル画面である。
あと、重要な点としては、このゲームはエロゲーと成年向けであることか。

さて、こう文章を説明してきたが、この内容を赤坂アカ氏と照らし合わせると同様ということが分かるだろう。

赤坂アカ氏は漫画家は引退するとしつつも、『推しの子』のように漫画原作を引き続き行っていくと語っている。
逢縁奇演氏は今はラノベの新作を出すのではなく、ゲームのシナリオに専念すると語っている。
確かに切っ掛けは「打ち切り」と「完結」という明確な違いはあるが、本質の部分ではどちらも職業としての方向転換が計っている。

それが様々な点でベストと判断したのだろう。特に逢縁奇演氏は「勝率が低い状態で戦うのはなるだけ避けたい」と書いている。

この文章から「打ち切り」だけを話題にするには如何に論点がずれていることが分かって頂けただろう。そして、次からは内容を元にして業界を壊しかねない部分を語っていく。
既にそのポイントは後回しにすると語った部分であるのだが。

■読み解いた上での、作家の実績

まず、逢縁奇演氏が書かれたところから説明していこう。同人ゲームを追っている人なら、見慣れているため説明は不要だろうが。

書かれている場所は「Ci-en」というクリエイター支援サイトである。
他ではpixivFANBOX、Fantiaなどが有名だろう。ただ、「Ci-en」の場合は同人系ダウンロードサイト「DLsite」が運営しているので、同人などに触れない人には馴染みがないかもしれない。

それだけに「Ci-en」で書かれている以上、話のメインはラノベの「打ち切り」ではなく、同人ゲームの「新作」の情報である事は文章を読まなくても明白であった。ここが勘違いポイントの1つでもあっただろう。

そして、新作の『藍の月夜の機械人形』にしても、「MECHANICA」にしてもエロゲーだけに、このページは「R18」に分類されている。
本来、未成年はご遠慮な点も話題性のせいから見過ごされている。

次に語らないといけないのはクリエイター支援サイトで書かれた、この部分。

問題は、部数が出てないの一点に尽きます。

このラノの今回のランキングでも、かなり下位の部数なんじゃないか。

どのぐらいかというと詳しく言ったら怒られるのですが、
MECHANICAの足元に及ばないぐらいです。

ここで『運命の人は、嫁の妹でした。』と「MECHANICA」の販売数に触れられている。部数、販売数は本来、関係者でなければ分からない話である。
だが、「DLsite」での「MECHANICA」の売上本数に関しては、我々であっても確認ができる。販売実績が可視化され、購入の判断材料になっているからだ。

現在セール中もあり、売上本数は書かれたときより変動はあるとはいえ、今現在で2万5千超えである。
また、先も触れた通り、Steamでも販売され、ローカライズもされている。そのため、総売上本数はハッキリと分からないが、2万5千以上なのは確かである。
そして、『運命の人は、嫁の妹でした。』はその足下に及ばないとある。

2万5千という数字とこの言葉を照らし合わせると、部数は何となく見えてくるモノがある。

それだけに先にも触れた「勝率が低い状態で戦うのはなるだけ避けたい」の言葉の意味がハッキリとしてくる。

また、「DLsite」で逢縁奇演氏の名前を検索すると分かることだが、ゲームのシナリオ以外にも一般、成人向けのASMRの脚本を多く手かげている。
それらASMRは昨今の人気もあり、1タイトルでも数万も販売して、それが何タイトルもある状況である。

逢縁奇演氏は、ライトノベルだけでなく、クリエイターとして多くの実績、知名度、収益性を持っていたのである。

先も少しだけ触れたが、出版社サイドもこのラノ8位の実績だけでなく、これらの実績も踏まえて、新シリーズを打診していたのかも知れない。

それだけに心情的なモノを抜きにして、数字だけで見れば勝率が高い方とはライトノベルでないことは明白。

確かにライトノベルであっても、数千万部の売り上げる作品もある。それらのほとんどはメディア展開した作品であり、ほんの一握りだ。
一握りしか選択する術がないのなら別であるが、少しの方向転換で勝ちを得られるのなら、どちらを選択するであろうか?

ここまで情報を読み取ると、本来の「打ち切り」という話題だけで語れないことが皆さん分かって頂けたでしょう。

■対照的な「打ち切り」

ライトノベルにとって「打ち切り」は死活問題とされる場合がある。それはそうだ、仕事がなくなるからだ。

しかし、先に語った通り、逢縁奇演氏にとっては収益面だけで見れば、ライトノベルだけの「打ち切り」では死活問題と言えないだろう。それだけ収入面でも多岐にわたっているからだ。そして、そこには実績もプラスされている。

そもそも、ライトノベルの執筆はシナリオライターとして軌道が乗ってからのことらしい。

ただし、これは逢縁奇演氏から見た場合であり、別のこのラノ入賞作家さんは、この「打ち切り」を死活問題としている感じがある。

失礼な話かも知れないが、桜目禅斗氏の名前で検索しても他の活動がなく、この「打ち切り」は純粋な仕事を失う話なのだろう。

今回は逢縁奇演氏の文章を軸に見てきたが、あくまで見てきただけである。それでも逢縁奇演氏を例に、この「打ち切り」に対する解決策、対処方を考えるのなら複数の仕事を持つことになる。

実際、『ようこそ実力至上主義の教室へ』の作者、衣笠彰梧氏もエロゲーのシナリオライターからラノベ参入である。また、近年でもゲームのシナリオを手がけている。こういったシナリオライターは彼らだけではない。

ただ、これはあくまで作家個人だけの解決策である。

もう少し視点を変えて考えれば、逢縁奇演氏もライトノベルでは売れないが、シナリオライターとしての需要はあると新作ゲーム製作に舵を取った。

そして、最近の出版社もASMRなど新規事業に参入している。

「打ち切り」に対する作家の対処法とはシナリオライターとしての別の仕事を斡旋、方向転換の仲介も一つの手ではないだろうか。
斡旋かどうかは別にしても、そういったASMRに小説家を起用している。

ライトノベル作家として実力を正当に評価されながら、打ち切りでライトノベル業界から去ってしまえば、人材の流失と言える。
しかも、その活躍の場が出版社とは別であれば、流失した人材は出版社に牙をむくことにもなりかねない。まあ、今風に、マイルドにいえば、追放系だろうか。

ここらに関しては私がいつも語っている、出版社などに頼らない個人コンテンツとも話がリンクしてくる。
それに「MECHANICA」はインディーズゲームである。それだけに、今の商業の構図とは企業とアマチュアが同じ土俵、更には同じ規模で戦っているのである。
売り上げ本数は同じ作家であっても、商業よりインディーズゲームが上になる事もあるのだから。

ともあれ、作家単体なら「打ち切り」になっても、収入があれば生きていける。だが、出版社は人材の流失の結果、様々なシナリオ媒体に収益を奪われ、長い目で見ればライトノベル自体が「打ち切り」にいたる可能性もなくはない。
確かに極論と言える話ではあるが、それでも近年は歴史ある雑誌自体が廃刊になっている。

最後はまとまりに欠けていたが、先日からの「打ち切り」について見ていく話が軸ではありましたので、まとめに関してはご容赦頂けると幸いであります。

ただ、今回の件を別角度ながら簡潔に語った切り抜き動画あるのですが、これもこれで多方面での知識がない方には解説しないとご理解頂けないかなとは思っております。
しかし、今回の私が書いた内容で理解して頂いた方ならこちらの方が簡潔で分かりやすい話とは、合わせてご覧になって頂けると助かります。

こちらに関しては、老舗エロゲーメーカーの活動停止した今、エロゲを作るのならという話になります。この内容から赤坂アカ氏の漫画家引退発言に近いモノがあると思います。


最後に逢縁奇演様、並びloser/s様にはこのような形で文章を引用してしまい、詳細では色々と違っている部分もあるかとは思います。ご迷惑をおかけしていないかと思っております。何かありましたら、誠実に対応させて頂きたいと思っております。
また、同時に多くのクリエイター様の話題にも触れ、ご迷惑にならない文章を心がけておりますが、こちらも何かありましたら同様に誠実に対応させて頂きたいと思っております。

■期待の新作にも打ち切りの影 追記(2022/12/11)

ラノベ界隈で「打ち切り」の話題が完全に癒えきっていない中、このようなTweetがされた。

これは私だけが偏った考えで違和感を覚えたわけでなく、思ったよりも多くの人がこのTweet文面に違和感を覚えていた。
そう、「売上絶好調&2巻制作中!」の文にあるように売り上げで続巻が決まったとあるからだ。

ただ、それが普通のライトノベル作品であれば、それほど違和感のない話だが、『我が焔炎にひれ伏せ世界』に関しては12年ぶりのスニーカー大賞の大賞受賞作ある。それも発売前から大きない宣伝もされていた。

そもそも、企業としては大賞での賞金300万円をコンテンツ化して回収する見込みだったはず。その前提すら壊しかねない話である。
確かに既定路線だったかも知れない。しかし、大賞受賞作であっても売り上げが数千部だったら、今の現状、打ち切りも納得はする。売れない、爆死の可能性は編集部も捨てきれなかったのだろうか…

どちらにしろ、続巻とおめでたいTweetでありながら、「打ち切り」の話題に対しては油を注いだ感じになってしまったのは残念な話である。

■コメント返し 追記(2022/12/11)

コメントの方で、びえんさんより桜目禅斗氏に関しては別名義での実績があると情報を頂きました。この件に関してはTwitterプロフィールでも書かれていましたが、詳細な実績として上げられていなかったので「桜目禅斗氏の名前で検索しても他の活動がなく」と曖昧な記載としていました。

ただ、別名義での活動ということ、同一人物として語るのは避けた方が良さそうとも分かりました。

しかし、コメントを読む限り、情報の訂正だけが、びえんさんの望む形ではないと思いますので更に追記をします。

恐らく本心は、桜目禅斗氏への正当な評価を求められていることと思いますが、私が如何にその認識を改め、訂正しても、出版社からは氏のライトノベルは売れないから、「打ち切り」された評価は絶対的な事実であります。

桜目禅斗氏への情報不正確さは私の非でありますが、別名義での活動を加味したところで、今回の件に対しては「打ち切り」されたという事実を上書きされることではありません。もちろん、このラノ入賞した実績も事実ではあります。しかし、それでもなお「打ち切り」はされた。
また、別名義で「打ち切り」を上回る実績があれば、より別業界への人材流失へと繋がる話となってきます。

今回の記事の主題は「打ち切り」からライトノベル業界の崩壊が見えてきたという事になる為、ご意見には感謝しますが、びえんさんの望む形での返答にならなかった事はご理解頂ければと思います。

■方向転換はクリエイターだけではない 追記(2022/12/17)

ライトノベルの編集担当もされた方が、新たな職場に就いたとTwitterで報告をなされた。

これはライトノベルの編集に限らず、様々な編集が他の業種に行くことは昨今珍しくはない。そもそも似た話は過去に触れていたが、今回の赤坂アカ氏の漫画家引退発表に関連付けられることは抜け落ちていた。

実際、この土屋智之氏のTweetでも編集とは違うけど、編集での業務が活かされる仕事と書かれている。これもキャリアの方向転換であろう。

また個人だけでなく先日、DMMがマンガ編集者を100名も採用すると報じられた。編集個人でなくとも、出版社だけでなく様々な企業自体が漫画、小説などの編集という仕事は求めている時代へとなっている。

個人に再度、目を向ければ転職であったり、退職エントリというのはnote内での記事で多く見受けることができる。それだけにクリエイターよりも編集が先にとなって方向転換していた事実を、今回抜け落ちていた。ここは反省点ではある。

それだけに本文内で「長い目で見ればライトノベル自体が「打ち切り」にいたる可能性もなくはない」と語ったが、これは作家の人材流失からの考えであった。だが、編集自体が抜けていく中では、その可能性は深まったと考えを見直す必要がある。

そういった視点で、三木一馬氏のこちらの記事を読み直すと予言というか、予測めいた部分があったのだろう。そして、このタイトルでありながら、記事内では編集者を募集も行っている。

ただ、今回の「打ち切り」からは少し脱線した見方ではあるかも知れないが、「ライトノベル業界の崩壊」という点では関連性が強いと感じたので再度追記させて頂いた次第であります。

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