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廃墟となった街を巡る少女達。彼女達の目的は?そして何者か? SF小説「素敵な世界と3人組の少女」

『重機兵少女 ホラィ・ト・スフィ』
遠い、遠い未来でのお話。大昔、人類の敵〈バーピック〉に地上を奪われ、人類を守る基地へと配属された少年と、少女を模した人工生命体『ファミネイ』との出会いをメインに綴られる連作短編集。

こちらの本文は『重機兵少女ホラィ・ト・スフィ』に掲載されたエピソード「素敵な世界と3人組の少女」の公開したものになります。

時折、影を射す、『モラトリアムの終末』での一幕とは。

――――――――――――――――――――――――

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 身の丈に合わない武器を担いだ少女達が、かつての街の中を進行していた。
 かつてというだけあって、街は崩壊して、住んでいた住人達はとうの昔に出て行った場所、なのだが……。
 それを調査するために少女達は、ここに来ている。そんな少女達はこの街の繁栄も住んでいた頃の住人達も知らない。
 街の中でも天にそびえて建つ高い建造物は、少女達にはさらに太古にあったとされる巨大な塔とその街々と同じに見えた。
 かつての住人達は少なくなった、今、ここは地上。
 少女達の知らない別世界であった。

 1

 少女達、3人は廃墟となった街を歩いている。
 そのうちの1人は退屈そうに歩いていた。この廃墟がどうして、こうなったのかも知らないし、興味もない。ただ、言われて、ここへとやってきただけだ。
 だから、退屈なのだ。

「ねぇ、疲れない」

 そう、少女はだるそうにつぶやく。つぶやくといっても、周囲に漏らす程度には大きく、誰もいない静寂の街では意外にもその声は響いていた。

「まだ、歩き始めたばかりじゃない。それに敵がいるかもしれないのに」

 逆に別の少女は小声で話しかける。周りに気をつけているからこそ。
 確かに、少女達は身の丈に合わない巨大な武器を担いでいる。それはいるかもしれない敵に対して使うためのモノだ。

「そろそろ、休憩しない」

 再度、そうつぶやいた少女は今度は周りではなく、ある種、別の方向を向いてつぶやいていた。

「レモア。そう、彼を困らせないの」

 レモアと呼ばれた少女はフライトジャケットをファスナーも閉めずに羽織っているだけで、担いでいた長物の銃のようなモノの銃身を持ち手にして、杖のように地面へと突き当てて立ち止まっていた。

 フライトジャケットの下は全身を包む純白のボディスーツを着ているだけである。そのため、体のラインがもろに出ている。その凹凸したラインを見せるかのようにフライトジャケットは開放していた。
 別に誰に見せるわけでもないのだが。
 そして、そのシンプルな出で立ちをさらに引き立てる長く、くせのあるウェーブがかった金髪と3人の中では一番背の高さ。
 この廃墟と対比して、異質な美しさ、かわいさである。

「まあ、基地から出て時間は経っていることだし……」

 ここで、もう1人の少女が間に入って、場の雰囲気をなだめようとするが、どこか空回りがしていた。

「そうそう、そうだよね。君もそう思うでしょう」

 再度、レモアは2人とは違う方向を見て、『彼』、『君』といった少女とは違う別の形容を語っていた。

  * * *

 その光景を別の所で眺めている者達がいた。
 中心には男性が2人、そして、周囲にはこれまた少女達が空中に映し出されたモニターで状況を監視している。
 ここは空からの光が入らない部屋で、映し出されたモニターなどの人工の灯りが主に部屋を照らしているせいもあり、少し薄暗くなっている。

「まったく、敵地で休憩とは……」

 1人の男性がレモアの発言を聞いてあきれ顔をしている。男は大柄で顔には年を感じさせ、さらに顎や口に無精ヒゲを生やしている。
 名前はハヤミといい、そのヒゲの生えた顔だけでなく、だらしなくよれた、明るい茶系のスーツを着込んでいる。

「もっとも、敵地といっても敵がいるかわからないから、偵察に行かしているのだが」
「やはり、駄目ですか」

 もう1人の男性、アキラはハヤミに対してそう訪ねた。
 アキラは小柄で青年と呼ぶにはいささか年が足りない感じである。こちらも明るい茶系のスーツをしっかりと着てはいるが、スーツ姿がどこか身の丈にあっていないせいで不自然に感じてしまう。完全に少年である。

「……いや、あいつらは甘い物、香りのある物、それに綺麗なモノを好む。休憩というより、退屈なことをやめて、それらを楽しみたいだけだ。それを否定しては機嫌を損ねるだけだ」

 周りの少女達も同様で様々な情報が映し出された無機質な機器の中でも、違和感のある甘い匂いが漂ってくる。そして、薄暗い部屋の中であっても色映えのあるお菓子が並べられていた。

「特にレモアの性格なら敵がいる中でも機嫌を損ねていれば、意地でも休憩をして、それでなおかつ敵まで倒すだろうな」
「……本当ですか」

 明らかに冗談とも思える内容だが、ハヤミは見てきたかのように語るだけにアキラは確認のため、恐る恐る訪ねた。

「ああ。昔、近いことをしたヤツはいるからな」

 ハヤミは昔のことを思い出して語っていた。そして、アキラはそのことを事実と受け止め、今後のために胸に刻み込んだ。

「……まだ敵がいない状態だが、お前に判断は任す」
「分かりました」

 周りの少女達はアキラの方を向いていた。その発言が気になったからだ。

「休憩は構わない。気をつけるように」

 アキラはその場にいない彼女達に命令をする。周りの少女達に向けた訳ではないが、喜んだ顔をさせている。

「……こちらも甘いな」

 ハヤミは聞こえないようにつぶやく。

「ああ、お前達は気を抜かないように。あいつらの休憩をサポートするのだからな」

 気の緩んでいる周囲にハヤミは言い聞かせる。
 少女達は小さく不平を漏らすが、ハヤミの知ったことではない。それでもアキラはそのことに小さく申し訳ないと思う。

「しかし、この街をどうやって運んだのか」

 モニターの1つには上空より撮られた、街の映像が映し出されていた。
 だが、この街は元々そこにはなかった。それを示すようにほぼ円に切り取られていた街が何もない平地に置かれている。
 そして、この置かれた街以外に周囲には高い建物はなく、ほぼ平面の大地が続くだけであった。

  * * *

 レモアはアキラからの声を確認すると、待っていましたと表情を明るくする。
 それでも大きな声を上げないのは、多少なりとも状況を把握しているからだ。
 そもそも、アキラとレモア達の場所は離れている。それでも少女達にはその空間の差を埋める通信機器らしき物は見て取れない。
 物騒な武器以外は身軽なモノで、ほとんど物を身に付けていない。

 ただ、少女達の首の付け根には握りこぶし程度の球体状の機械部品らしきモノが体にフィットとするように身に付けられている。
 通称、『コア』と呼ばれる機器で、エネルギー源でもあり、あらゆる情報を観測、収集する観測機器、その上、送受信する通信機器でもあり、それらの情報を管理する処理装置でもある。
 つまりは万能なツール。
 これによって、アキラと離れた場所であっても、通信でやりとりしている。

「許可も出たことだし、一杯やりましょう」

 レモアはどこからか水筒を取り出した。

「まったく、用意がいいわね。どこにしまっていたの」
「ほい、ルリカ」

 その問いに答えることはなくレモアはルリカと呼んだ方へと水筒から出した飲み物を渡した。

「ああ、ありがとう」

 ルリカは襟のついたレザージャケットを着込んで、その手には自分の背よりも長い、斧のついた槍、ハルバードと半身を隠すに十分な長方形の盾を持っていた。

 顔立ちはクールな印象で、それを引き立てるように髪は黒髪で流れるようなストレートで、肩にかかるくらいのセミロング。
 レモアからの飲み物をもらうのに、盾は地面へ置き、ハルバードは左手に持って、空いた右手で受け取った。

「はい、カレンも」

 もう1人の少女、カレンはボディスーツから出る、平坦な体のラインを隠すように大きめな紺のトレンチコートを着つつ、腰にはきっちりとベルトで締めている。

 背は一番低く、レモアとは目線を合わせるには上目遣いになってしまう。
 幼さが残る顔立ちで、ショートヘヤーのせいもあって中性的な印象が受ける。その髪にはわずかに赤みかがっている。

「ありがとう」

 カレンは飲み物を受け取ると、街の残骸に腰をかけて座り込んだ。そんなカレンにも武器を手にしている。
 ただ、その大きさはカレン自身と同じぐらいの銃で、さらにその口径は彼女の腕の太さと同じくらいか少し大きいくらい。携帯していることからその武器を銃と形容したが、文字通りの大砲というべきモノを彼女は手にしている。

「……おいしいわね」

 カレンはコップの中身を飲みながら、その色も味わっていた。味は甘く、それでいて香りがあり、酸味があり、そして薄い色だが存在感のある透明であった。

「……レモネードかな」
「そう聞いているわ。他の子からもらってきたから詳しくは知らないけれど」

 レモアはそうつぶやきながら、ルリカは誰が作ったのかしらと思いながら、おいしく味わっていた。

「……しかし、いないわね」

 物音一つしない廃墟を眺めながら、ルリカはつぶやいた。
 廃墟とはいえ昔、人が住んでいた住み家。
 だが、この廃墟は何処にあったのかも分からず、一夜にしてここまで運ばれてきた。しかも、それまで気づかれることなく、朝日ともに視覚によって発見された。

「こんな街をまるごと持ってくるとは……」

 街は巨大な高層ビル群で構成されており、少女達にはこれを作った人間にもすごいと思っていたが、それ以上に無傷で運んだ、何者かの存在にも驚愕している。

「基地からも近いことだし、前線基地にでもするつもりかしら」

 レモアは眺めながら、思っていた言葉にした。

「この程度の建物では隠れるには十分でも、砲撃から身を守ることはできないわね」

 ルリカはその問いに現実的に答えた。

「なら、余計に何のために持ってきたのでしょうか」

 カレンは問いに対して再度、話題を疑問へと戻した。そして、理由も分からない荒唐無稽なことにカレンは疑問を抱く。

「本当に彼らの仕業なのでしょうか」
「この静かな世界で奴ら以外にこんな滑稽なことをするとでも」

 この世界には敵がいる。
 それは少女達、ここに住んでいたかつての住人とはまた別物の存在である。むしろ、住人はその存在から逃げて、街を捨てた。

「昔、宇宙人は畑に巨大な落書きしたり、よく分からないけれど牛とか、さらったりしていたそうよ。多分、この程度のことは宇宙人なら簡単にできるわよ」

 カレンはそんな敵とは違う、別の存在の可能性を話し出した。
 その話のネタにレモアとルリカはお互い顔を見合わせて、一斉につぶやいた。

「「ないわ」」

 彼女達にはカレンが言う、宇宙人という存在が知らないから特に奇妙奇天烈な話にしか聞こえず、ジョークにもならないホラに近いモノであった。
 その言葉にカレンは少し落ち込みを見せた。
 元々、カレン自体そういったお話が好きで、普通の会話からもそれらの存在が出てくることがあった。

「でも、それはそれで愉快な存在ね」

 それでも、ルリカは一応のフォローは入れる。
 だけれども、レモアは逆に真顔で持論を語りだした。

「敵というのは私たちよりも巨大で、愉快で、馬鹿げていて、いかれていて、それでいて知性的。そんな存在が、瓦礫の街に潜んでいても、姿形を見せないどころか、お尻や尻尾すら見せていないなんて、ありえないわ。きっと、何かをたくらんでこちらを見ているはずよ」

 レモアは先ほどまでの退屈さを顔には出していない。どこか、敵に何かを求めているような感じも受けた。
 答えの出ない会話も途絶え、しばらくの静寂の後、ルリカから話を再開させた。

「休憩も終わりにして、行きましょう」
「え、まだ――!」

 当然のようにレモアは抗議してきた。

「さっさと敵がいるか、いないか、はっきりさせないと、基地の仲間は心配で昼寝もできないわよ」

 偵察である以上、敵の大群が隠れていれば、仲間が駆けつける段取りになっている。
 ここでまったりしていては、そのことを待っている仲間から恨まれるだけである。

「まあ、それをいわれると仕方がないか」

 レモアは決して自分本位というわけでないが、ただ自分に正直なだけである。

「目的地までは大した距離ではないわ。さっさと済ませましょう」

 再び、3人は静かな廃墟を歩き始めた。
 その静けさは街の中心部へ歩き続けても、変わることはなかった。

「中心部まで来たけれど、本当に何もないわね」

 事前に空中撮影をした映像と同じように、瓦礫の山があるだけ。ただ、周りの高層建物は無事であるのに、中心部だけはあったはずの建物が崩壊して、この有様である。

「敵が隠れているなら、出てきても良さそうなものを」
「この街を持ってくるだけ持ってきたので、撤退したのでしょうか」
「多分、そうでしょうね。特に観測機器類に反応もないし」

 カレンとルリカは周囲の状況を見聞きするだけでなく、コアにある観測機器も使いつつ調査もしている。
 敵がいれば、当然、観測機器に反応はするが、ここまで接近する必要はない。

 元より、基地を出る前から様々な観測機器で敵がいないことは分かってはいたが、正体が分からないからこうやって偵察、調査に来ている。
 それでも、この街を持ってきた何かヒントぐらいはあってもいいモノなのだが、それすら見当たらない。
 レモアは中心部を見ながら、黙り込んでいる。その様子にルリカはレモアに話しかける。

「まだ休憩が足りないなら、あなたは休んでいてもいいわよ」

 だが、レモアから返事がない。普通なら、うれしいそうに返事をするはずなのに。

「……この瓦礫が意味するモノは」

 その代わり、全然別の言葉を小声でつぶやいていた。
 どうやら、レモアは調査というよりは、何か違和感を感じ取っているようだった。

 だが、ルリカはそんなレモアを余所にカレンとともに調査を続けている。

「いや、そこはもう少し絡んでほしいのだけれど」

 レモアはたまらず突っ込みを入れる。

「分かっているわよ。勝手に話していれば、聞いていてあげるから」

 ルリカもルリカでそのノリに一応、答えて見せた。

「まあ、いいわ。1つ推理をすると、なぜ中心部だけ瓦礫なのか、そして、運ばれた街はほぼ円の形であるのか。その点から考えるに、中心部から何らかの力が働いたから」
「それはまあ、普通のことね」

 ルリカはそう、つぶやく。レモアからすれば、違和感の正体をつかんだというのに。
 これ自体は普通に考えれば分かることで、中心を目指していたのもそれが理由だ。
 それでもレモアは仕切り直して、話を続ける。

「なら、力の中心部に何もないというのはおかしい訳よね」
「確かに何かしらの装置等があると思って、来ているのだから、それはおかしいわね」
「それに建物は無事なのに、中心部だけ壊れている。もし、力が働いたにしてももう少し周囲にも見られるはず。それでも、その様子ない。中心部だけ極端な力が働いた訳にしては、この状況も異質だわ」

「それで、その結論は」
「つまり、この瓦礫の山は恐らく、偽装」

 レモアは瓦礫の山に指を指している。

「ようするに、この中に何かある」

 レモアは得意げな顔で答えた。
 カレンはレモアの話す、その口調にわくわくさせていた。
 ルリカは多少、納得しているが、どこか合点がいかなかった。

「理屈としては納得はいくのだけれど。何か、あなたの直感に取りあえず後付けした感じるのだけれど」
「失礼ね」

 反射的にレモアは悪態をつく。

「ついでに聞くと、この街を持ってきた理由は。それ次第では話も変わるでしょう」
「こんだけの質量なら、十分な凶器でしょ」
「なるほど、その発想はなかったわ」

 確かに、誰もが街が突如、現れるという不思議な現象で捕らわれていたが、ただ重たいモノを持ってきたと考えると、凶器とするその答えは意外にすっきりとするモノであった。

「それだと爆弾代わりにしても、それを実現するための護衛の敵はいない。逆に、隠密でやってきたにしても、こうして見つかってしまった。その考えは破綻しているのじゃないかな」

 カレンは的確な反論を述べた。別にレモアとルリカのやりとりのようにケンカとまでいかない、じゃれ合いのような口論とは違い、ただ、自然な疑問から口にしていた。

「それでも、爆弾という線は理屈に合っているし、奴らの性格からすれば単純に詰めが甘かっただけともいえる」

 ルリカもそう語り考え込む。なら、この場面どうするべきか。
 それは一応、レモアも同じではある。ただ、深くは考えていないが。

「とにかく、ここを何かあるのは間違いないだろうから、派手に吹き飛ばしてみれば分かることじゃないかしら」

 レモアは含み笑いする。

「そういうことよ」

 レモアはまた、あらぬ方向を向いて語りかける。これは見えていないアキラに向けての会話だ。そして、アキラに対して提案の同意を求めている。

  * * *

 アキラだけでなく、その会話はハヤミにも筒抜けである。

「まったく……」

 レモアの推理よりも、思いつきの発想にはいささか頭が痛くなる。
 とはいえ、それを無視するほど荒唐無稽な話でもない。

「この中心に何かあるというのは思っていた。だが、反応もないから何もないと判断するのは確かに短絡的だ。楽観的なレモアに否定されては余計に疑うべきかもしれない」

 このハヤミの発言もレモアにも届いていた。

「では、瓦礫を取り除いてみますか」

 アキラは冷静だ。
 レモアのノリノリな吹き飛ばそうという提案ではなく、きちんと瓦礫を取り除く案として理解しているからだ。

「いや、悠長に掘りおこすわけにも行かないだろう。先手としても、ここはレモアの提案を受け入れるのも有りだろう」
「それでは敵に気づかれる可能性もあります。それに何かあるにしても破壊してしまっては見つけられないことも考えられます」
「確かに吹き飛ばせば、相手の手札まで壊す可能性もあるが、相手が訳も分からない切り札を出される前にこちらがカードを切る必要もある」
「それもそうですが」

 アキラは慎重に考えている。まだ、大胆さと大雑把さが持ち合わせていないから、単純な考えでは決断をできずにいた。

「レモアの考えにしても、推測でしかない。しかし、奴らは我々の想像を超えて、行動をしてくるかもしれない。奴らとはそういったことを平気でしてくるからな。ここは出し抜く意味でも、先手を打つことは悪いことではない」

 それでもアキラは決めかねている。

「自分の常識で通用するような敵なら、慎重さは悪いことではない。だが、常識の欠けたモノ同士、レモアの意見も参考にすることも、この場面では悪いことではない」

 通信越しでも、レモアはこちらに悪態をついてきた。そして、その様子にアキラは決断をする。

「分かりました。ここは砲撃でいきましょう」

 そして、それに加えて命令を続ける。

「それと敵の襲撃にも備え。各自、武器の展開を」

 その言葉に少女達は従う。彼の言葉は少女達には絶対だから。だが、絶対とはいえ自由な意見で、その言葉を引き出そうとはしているが。

  * * *

 コアにはエネルギーを原子レベルで構築して、様々な形へと変化させる、まるで太古の錬金術のような機能も持っている。
 少女達はコア内部に構築された情報の設計図を展開させる。その瞬間に手にしていた、巨大な武器は構造を書き換えられ、武器はさらに巨大化をする。
 その長さ各自バラバラではあるが3メートル強、少女達の背丈の倍以上だ。

 ルリカは接近武器だけに手に持っているが、カレンとレモアは手にすることなく、銃は宙に浮いている。
 特殊な力場によって、浮遊させている。また、それはか弱い肉体を保護するためのバリアとしても使われる。
 それに加えルリカの持つ盾はもちろん、レモアもカレンもそれぞれのスタイルに合った盾が展開されている。攻撃を防ぐ防具というよりは力場と併用して、攻撃をそらし、回避するための道具として使われる。

 先ほどまで着ていた上着も収納されボディスーツのみとなるが、首元のコアもその大きさを握りこぶし程度から、競技用のボール程度に肥大化した。
 そのせいもあり首元から背中の方へと球体は移動していた。
 そして、脚部には排出口が付けられた、四角い機関が展開されて、足にまとっていた。高速移動、跳躍のための推進装置である。
 これら少女の姿に似つかわしい、重兵装、機動力の装備は敵を倒すためのモノ。これでも敵には過剰な武器ではない。

 そして、この姿こそ少女達、『ファミネイ』としての本来の姿。
 敵によって疲弊した人類が作り出した人工生命体、新たな『親しき隣人』である。

 大半は小柄な女性であるが、今となってはその理由は分からない。ただ、そういうモノだとして、今となっては少なくなった人類とともに共存しあっている。

 2

 カレンは展開された武器を構えていた。
 展開により巨大化したカレンの武器は自身の身長の倍以上、口径も胴体と等しくなっていた。もはや、大砲自身が本体といってもいいぐらいの姿である。
 その大きさだけでも瓦礫の山ぐらい軽く粉砕しそうな見た目であるが、コアによる制御で威力も管理することができる。
 狙うまでもない目標だけに、ただ撃つだけではあるがカレンはどこか緊張を覚えていた。
 その気配を察したのか、今まで誰にも気づかれることのなかった敵の方から瓦礫の山より出てきた。

 敵の名は俗称、『バカピック』。
 本来は「いかれた愉快な奴(知性体?)」を意味していた『バーピック』だったが、スラング化した俗称の方が今では正式名となっている。

 そして、目の前にいるのは『ゴーレム』と呼ばれる、典型的なバカピックの1体。
 構造は球体に蛇腹で繋がった両手だけの単純な構成。足がない代わり、浮遊をしているが、推進力となるものは見えていない。
 その球体には顔といえる、釣り上がった半円で怒りを現しているような目、サメの口を模したシャークマウスが付けられている。ただ、それが実際の目、口に相当するのか不明。
 ただ、たまにこれらが動くから、単なるペイントでないのはハッキリしている。
 球体の直径だけでも5メートルを超える図体のでかさ。少女達の武装であっても、直撃を耐えられる防御力を持つ。
 その中身に関して、そんな外観とは裏腹にいまだ解明できないほどの技術力で作られた機械である。

 どうであれ、この廃墟を持ち出してきた元凶であることには間違いなさそうだ。
 それと同時にカレンの宇宙人説はむなしく否定された。
 だが、そのゴーレムの姿は他のゴーレムとほぼ同じであるが、一部で違いが見られる。
 手には指がなく、ただ平べったい円盤上であり、背中には何か四角いモノを背負っている。そして、勢いよく出た際に巻き上がった瓦礫はいまだ地面に落ちることなく、宙を浮いていた。

「……岩を浮かしている」
「ユニークか」

 ゴーレム自体にはいろいろなバリエーションがあり、その中でもワンオーダーで作られたのか、ユニークと呼んでいる個体もある。
 それらは他のゴーレムにはない特殊な機能を備えて、戦闘などで苦しめられてきたが、その個体限定で以降に出現することは、ほとんどなかった。あったとしても、忘れるほど年数が経ってからである。

  * * *

 その様子はハヤミ達も見ていたが、やはり困惑していた。

「岩を浮かすとは奴自身がこの街を運んできたとでもいうのか……いや、疑問は後だ。まずは撃破を」
「みんな気をつけて、敵を撃破せよ」

 アキラは号令をかけた。

  * * *

 その言葉に先に動いたのレモアだった。

「出てきた頭を叩くのは得意よ」

 構えたままのカレンは砲撃はできずにいたが、レモアが先行してたことで余計に機会を失ってしまった。
 レモアの銃は光学兵器、レーザーライフルである。
 ゴーレムは浮かばせていた岩の大群をレモアの向けて放つ。このゴーレムの能力は浮かすだけでなく、自在に動かすこともできるようだ。
 レモアもその程度はひるむことなく、レーザーを放つ。
 ゴーレムは点であるレーザーをいとも簡単によけるが、レモアは点の集合体である岩の大群を回避と盾を用いても、避けきれずにその攻撃の一部を食らってしまう。
 体周辺に展開する力場で威力を軽減していても、ゴーレムからどういう原理で放たれたのか分からない、岩の推進力は体まで到達した。

「意外に痛いわね」

 レモアの顔に苦痛が見られるが、コアから出されたデータではその影響はほぼ無しと表示されている。痛いモノは痛いのだが、レモア自身もそんなことを気にしてもいられない。
 この状況はレモア、1人ではいとも簡単にゴーレムに弄(もてあそ)ばれている。

「ルリカさん、援護とチャンスを」
「分かった」

 カレンはルリカに頼む。カレンの武器は見た目通り威力で、反面、近くにいる味方でさえも攻撃に巻き込まれてしまうほどである。
 また建造物で囲まれている、この場所でもカレンのアドバンテージはさらに薄れてしまう。
 本来は遠距離にいるときに初手で使うのが、セオリーではある。また、障害物のない広い場所で味方に影響のないようにするのも鉄則ではある。

 ゆえにルリカにレモアを敵から引き離すこともお願いしていた。
 ルリカは足に展開した推進装置から吹き出されたエネルギーが機動力を作りだし、ゴーレムに対し、高速での接近。その速度から繰り出す巨大なハルバードはさらなる破壊力を生みだす。
 それでもルリカのハルバードも巨大なゴーレムの前では手斧のようなモノ。しかも、本人が小さくて、ゴーレムから見れば手斧だけが飛んでいるにすぎない。

 まさに投げ斧、トマホークである。

 それでも威力は確か。ゴーレムとの力比べでも負けてはいない。
 レモアもルリカのサポートから一定の距離を取り、自身の間合いでレーザーを放つ。
 ルリカも手数で攻撃を仕掛ける。レモアもその合間を狙って攻撃しかける。
 そして、ルリカとレモアの距離がゴーレムから離れた隙を見て、カレンは砲撃を繰り出す。
 このゴーレムは物を浮かす特殊な能力を持っていても、スペック自体は他と変わってはいなかった。

 2対1を基本とするバカピック戦では、3対1では優位に戦いを持って行ける。
 ゴーレムもそれには気づいている。それでも自身の特殊能力をうまく駆使して対応もしているが、数の優位性を覆すほどではない。
 バカピックは単純な機械ではない。知的と見た目同様の愉快さを持った存在。

 状況の打破を狙ってなのか 攻撃を避けようと思ったのか、ビルの中へとそのまま突入した。少女達よりも巨大であるゴーレムすらも、小さくするビルの中に隠れてしまったのだ。
 だが、元は人間用の建物、巨大なゴーレムをかくまうモノでもない。そのため、中へ入るのに構造物ごと破壊して侵入している。
 辺りにはその影響で粉塵が舞っている。しかも、中からはすごい物音が聞こえている。さらにビル内部で暴れ回っているのか。

「……自滅か」
「気をつけて、そこまで奴らは馬鹿じゃないはずだ」

 ルリカはそういうが、この状況では説得力はない。だが、敵であるバカピックにとっては、この程度の奇行は奇行の内に入らない。
 理由があるのか、ないのかなど結果を見るまで分からない。

「とはいっても、この状態で何に気をつければいいのか」

 現状、ビルは崩壊を始めている。このまま出てこなければ、本当に瓦礫の下敷きである。

「面倒だ。このまま手当たり次第、撃ってみるか」

 レモアは武器を構える。ビルに隠れていてもコアの観測機器で振動、音などを解析すればおおよそ場所は分かる。
 だが、そう考えている内に先手を打ったのはゴーレムの方だった。
 しかも、ビルの中から出てきたのではなく、自身が隠れていた廃ビルを宙に浮かしながらだ。
 ゴーレムでも体格差があるのに、持ち上げられた廃ビルは優に百メートルは超えているだろう。

 中で暴れていたのも、地面に固定させていた支柱の破壊だったようだ。先ほどまで奇行と思われた行為には、明確な意思と目的が存在していた。

「まあ、この街を持ち上げてきたのなら、このぐらいは楽勝よね」

 レモアは余裕はあるだが、恐怖というよりも予測不能な事態に対処に困って、その場に固まっていた。それはカレンもルリカも同じである。

  * * *

「とにかく、撃ってビルを壊せ」

 突如として聞こえていたアキラの声に一同は次の行動を移す。
 それを直に隣で聞いていたハヤミも命令が遅れた。

「……いい判断だ」
 と、つぶやき、フォローとした。それはアキラに対しても、自身に対してもだった。

  * * *

 カレンはビルに対してすぐさま3度、砲撃をする。巨大な大砲は強力で、旧世代の建物の構造ぐらいたやすく粉砕する。
 それでも、その大きさに1発で破壊できる範囲は限られている。3発の砲弾でビルを大まかに瓦礫と化した。

 レモアのレーザーは点ではある。だが、持続させれば、線となり、その熱量はビルを容易に切断をするのに十分である。
 ルリカの重厚なハルバードを使えば、ビル程度は豆腐のように破壊は可能である。
 だが、そんなことはだるま落とし程度の遊びでならやっていられるが、今はそんな悠長な状況ではないから、ルリカは宙に浮く残骸を盾で防ぎながら、ゴーレムの懐に入り込む。

 ゴーレムは腕でルリカの攻撃を防ぐが、相も変わらず力の差は拮抗。
 その差を補うのにもゴーレムは、ビルの残骸をルリカへと雨として降り注いだ。しかし、それでも気にせずルリカはゴーレムとの距離を保つ。
 逆にゴーレムの近くの方が、自身が壁となって安全であるからだ。

 ビルは粉砕して、破壊されている。それでも全体の質量は変わっていない。ただ、武器としての脅威は少しは軽減している。少女達の砲撃もやまない、攻撃の手も緩まない。ゴーレムも打開する状況を探っているようだった。

 だが、それ以上に状況の打破を狙っていたのはレモアだった。
 レモアは自慢の推進装置から生み出されるスピードと跳躍力を生かし、ビルの壁を駆け上がり、宙に浮くゴーレムよりも高い、頭上へと位置していた。

「お互い派手に暴れ回ったから、気がつかなかったのか、手が回らなかったのか」

 既にレーザーはいつでも最大出力で撃てるよう、チャージ済み。

「まあ、返事ができない以上、どちらでもいいけれど」

 ゴーレムはしゃべらない。バカピックは意思を持っているのだろうが、自身の死を目の前にしてもおびえも命乞いもない。そして、断末魔もない。
 頭上から放たれたレーザーによって、ゴーレムは貫通された。
 レーザーによる攻撃で動力を断たれたのか、ゴーレムは糸が切れた操り人形のように自由落下をする。

 また、それはゴーレムによって宙に浮かしていた岩も同じであった。
 そして、ゴーレムは爆発をした。ただ、爆発といっても、火柱や派手に煙をあげるわけではない。動力より放出された巨大なエネルギーがそこを基点に収束する。
 本来は爆発というよりは、空間を削り取ったようなモノ。
 原理はブラックホールと同じらしいが、詳しいことはいまだ分かってはいない。
 何せ、破壊すると消えてなくなる。その上、生け捕りも無理で、調べるデータが限られているからだ。

 ひとまず、タキオンと呼ばれる虚数のエネルギーが空間に穴を開けて収束すると推測されている。
 実際、ゴーレムの本体はわずかな残骸だけとして、腕とあのよく分からないバックパックだけが残れていた。
 当然、動力部は爆発の中心だけあって、真っ先に跡形もなく消えてなくなっている。

 周囲は再び、静けさを取り戻そうとしているが、先ほどまで飛んでいた岩が地面へと落ちて、定まった場所へと移動する音がいささか賑やかではある。
 また、岩だけでなく辺りは瓦礫の粉塵混じりで、視界を遮っている。それでも、視界に頼らなくとも観測機器からは周囲に敵がいないことは明らかであった。

  * * *

 事の決着が見ていた、ハヤミとアキラの2人はようやく安堵がつけた。もちろん、周囲の少女達もそうだが、だからといって仕事が完全に終わったわけではない。

「奴、1体しかいなかったのだろうな。あれで仲間を見殺しにするほど薄情な奴らではないからな」

 ハヤミ自身、そう漏らしながら奴ら、バカピックを分かったつもりでいるが、結局の所はあの街に隠れていた敵を倒しただけであった。
 その敵が何をしようと隠れていたのか、おおよそ推測で考えることしかできない。

「ひとまず、回収を兼ねて、部隊を向かわせましょう」
「……そうだな」
「それにしても、奴らは何をしようとしていたかは、まだ調べる必要がありますね」

 アキラが言うように、それでも調べれば分かることもある。また、分からないことも出てくるだろうが。
 それと、ふと思い出し事をハヤミは口にした。

「レモアに命令をしてやれ、敵が来るまでは休憩をしていいと」
「甘いですね」

 皮肉だというのに、アキラは素直にその言葉を受け取っていた。

 エピローグ

 格納庫の一角に様々なバカピックの残骸が置かれていた。そこはバカピックを解体、解析するための場所である。
 未知の敵とはいえ解体すれば、資源でもある。それも含めて解析のために、ここで調べられている。

 今、その中央にはあのときの物を浮かすゴーレムが置かれている。

 とはいっても、その残骸だけで、ゴーレム特有の球体の部分はほとんどが爆発で消えてなくなっている。
 当然、それを調べるのも少女達、ファミネイだ。
 今、あのゴーレムについて、解析結果を報告している際、ハヤミは聞き慣れない言葉に念のため聞き直した。

「……バッテリー」

 アキラにすれば、初め聞くような単語である。
 この世界にとって、バッテリーは数世代前以前の技術。小型核融合炉を基本としたコアと保存可能となったエネルギー源が成立している中ではバッテリーなどは必要とされず、失われた技術である。

「ええ、私たちも初め見たときは未知の技術と勘違いしましたが、人類がゴミとして捨てられたモノも使われていましたから解析をするのに手間はかかりませんでした。それでも、大半はバカピックによって作られたモノはありましたが」
「……ゴミを拾った。しかも、作った。相変わらず、馬鹿を言っているようにしか聞こえないな」

 死んでなお、そのユニークさに馬鹿と罵倒されるのは、よくあることであった。

「それでも、奴らには魅力的なモノだったのでは。そのバッテリーは」

 アキラはバッテリーを報告の説明だけでしか理解していない。そのため、敵が拾ってまで使うほどの価値あるモノと感じていた。
 ハヤミはバッテリーへのいくらか知識があるため、時代遅れで使えないモノの認識だ。

「そもそも、奴らのエネルギー源は理論上、無限ともされるタキオンエンジンだ。わざわざ、バッテリーなどという、効率の悪い蓄電池を使う必要があったのか」
「そのタキオンエンジンはこの地上であれば、ほぼどこにいても探知できます。それが今回それができなかった点とバッテリーを結びつければ……」
「まさか、探知からエネルギー源を隠すために、ゴミまで拾ってやったとでもいうのか」

 そう考えることは素直ではあるが、やはり馬鹿げているとハヤミは一蹴する。そして、その話に冷静に突っ込みを入れれば、この点だろう。

「だが、そのバッテリーで街を持ち上げるほどのエネルギーがあるのか」
「そこが分かりません。そもそも、バッテリーは動力は電力です。奴らのエネルギーとは恐らく違うでしょうから変換ロスも含めれば、無理といった方が早いです」

 だけれども、少女は言葉を続ける。

「それでも、奴らの無限のエネルギーは、街ぐらい軽々と持ち上げることは可能だと見せつけました。また、それを探知できないように見せかけることも。それはバッテリー単体と考えれば無理だとしても、攪乱する目的でなら、何か抜け道があったのかもしれません」

 調べて分かったことは、ほとんどない。それでも、何とか事実の裏付けだけはできた。それが今回の結論であった。

「まあ、いくら否定しても、事実である以上、そうなるか」

 何度となく、理解しようと調べているが、そのたびに答えの出ない結論にいつもながらハヤミは脱力を覚えてしまう。そして、ネタの尽きない行動の愉快さにも頭をさらに悩ませる。

「実際、ビル自体を武器としたように、目的はその質量を武器にすることで間違いないでしょう」

 アキラは話を変えようと、別の話題を振った。

「確かに爆弾ではなくとも、この質量は確かに強力だ。だが、基地を目の前にして実行しなかった点を考えれば、ここは本命じゃなかった」

 その話題にはハヤミも素直に自分の考えを述べた。

「それは……」

 アキラはおおよそ本命に目星は付いていたが、間を置くことでハヤミの口から聞き出そうとした。

「とりあえず、都市の意見を聞きいてからだが、あの街は廃墟から完全な瓦礫に変える必要があるだろうな」

 その答えを明確にはハヤミは明かさなかったが、それでも口にはしていた。

「それに今後は、周囲の探索には地形の変化を見る必要があるな。奴らのユニークさはオンリーだが、単一だからとそれを見逃すほど我らは豪快ではない」

 バカピックが馬鹿だのといっていても、やることはやる。いまだ、彼らは人類の敵なのだから。この状況下でも確実に対策を行うのが、ハヤミの生きる術であった。

「まあ、奴らは科学的ではなく、少し不思議な存在に思っておくべきだな。むしろ、空想の怪物だと思うぐらいで問題ない。ファンタジーだよ」
「幻想ですか」
「それのせいかは知らないが、奴らには基本、幻獣の名を付けられるのが慣例となっている」

 バカピックにはゴーレムを始めとして、基本系のワイバーン、ドラゴンなどの名前が付けられている。さらにボス級と呼ばれる強力なモノ達は神話上のユニークな名前を持つことになる。

「せっかくだ。今回のゴーレムに名前を付けてみるか。アキラ、何かいい候補はあるか」
「……そうですね。街を持ってきたことにちなんで、アトラースではどうでしょうか」

 それは昔の神話に出てくる巨人の名であった。アキラはそういうことに興味があって会得した知識である。

「天球を支える巨人か。いささか、立派だな」

 ハヤミはバカピックの名の由来から、そういった知識があり、また何体かのバカピックにもハヤミ自身付けたことから予備知識として知っていた。

「……いや、切り取られた水平の街を地図と見立てれば『地図帳(アトラース)』か。それなら、皮肉が効いているな」

 そんな馬鹿みたいな話をしながら、この場の話は終えるのであった。
 それでも多くの謎を残しつつも、いつもこんな風に話を終えなければ、結論が出ないまま議論しなければならない。だから、こうやって終える。


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著者 ツカモト シュン
サブカルコラムニスト、作家等のマルチクリエイター。20年近くネットを見続け、HNタングでも勝手気ままにサブカルチャーを軸としたコラムを書いてきた。「重機兵少女」シリーズの著書がある。

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