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親としてできることはもうないのだけれど

10月の三連休に長男が久しぶりに帰ってきた。学生の頃は3か月に1回くらいは帰省していたものだけれど、就職してからは実家に帰って来る回数はずいぶん少なくなってしまった。そして気がつくと、長男の顔を見るのはお盆とお正月だけになっていた。
今年のお盆は直前の金土日が三連休で月曜日が盆の入りだった。休日の並びとしては、お盆前に三連休というのはあまり良くない。会社によっては休みはカレンダー通りで、特別にお盆休みなどないということもあるだろう。既に7月に帰省した次男からは「お盆には休めないから、、、」と言われていた。末っ子の三男は学生だからお盆になる前に帰省してゆっくり実家で過ごすようだ。

長男からは連絡がない。いつ帰って来るのか、、もしくは帰ってこないのか、と思っていたところ、三連休初日の金曜日の夜に電話が来た。
「ゴメン、今日帰ろうと思っていたのに寝ちゃって、、、帰るの明日(土曜日)になる。月曜日休めないから、一晩だけ泊まって日曜の夜には帰るよ。」
詳しく話を聞いてみると、仕事が忙しく残業続きで、8月いっぱいはそれが続くのだと言う。そんな会社の状況でお盆だから、と言うことでは休みがもらえなかったらしい。
TVでは連休を楽しむ人々で観光地が大混雑しているというニュースが流れていた。高速道路も大渋滞、コロナの五類移行後ということで交通機関は大変な混みようだ。そんな人でごった返しの中を電車で帰って来る長男のことを考えたらいたたまれなかった。「無理して帰ってこなくてもいいんだよ。電車座れないかもしれないし、秋になってからゆっくり帰ってきたらどう?」そんなやりとりをして、長男はお盆の帰省を見送ったのだった。

忙しいと言っていた8月も、9月も終わったが、長男はいつ帰って来るのだろう。結局次はお正月ということになるのかな、そう思っていた時だった。
久しぶりに帰ってきた長男はいつもと変わらないように見えた。やつれて元気がない姿を想像していたからホッとした。お盆やお正月並みに精一杯のご馳走を用意して一緒に食べた。TVでお笑いの番組を見て大笑いしたり、ラグビー日本代表の試合を観たりした。
元気そうに見える、見えるけれど、本当はどうなのだろう。聞きたいことはいろいろある。最近仕事はどう?あいかわらず大変?何度も言葉を飲み込んだ。楽しい家族の時間が流れていることが今は嬉しかったから。

2日目の夕食、夜のニュースでイスラエルのガザへの攻撃でたくさんの人が亡くなったのを見た。逃げ惑い泣き叫ぶ人々の、親を失って泣きじゃくる幼い子供の映像に、胸が痛んだ。家族の会話も重苦しくなった。
そんな時だったろうか。長男が仕事のことを語り始めた。直接の上司に仕事をたくさん振られて残業しないと終わらないこと。他の人と比べても残業時間が多いこと。もっとアイデアを出せと言われるけれど、こなすだけの仕事が多くて時間がないこと。「毎日のように何かと怒られるんだ。」息子の直接の上司はかなり性格もキツいらしいことは以前から聞いていたが、あいかわらず厳しい環境のようだ。
働くということは大変なことだ。社会に出てもうすぐ3年、良く頑張っているな、とは思うけれど、このまま息子が心をすり減らすようなことになったらと心配になる。性格がきつい、尊敬できない人の下で働くというのも悪影響もあるのではないか。
誰か他の部署の先輩に相談してみたら、転職も視野に入れて行動に移しては、とか考えられる限りのことを言ってはみたが、息子は「まあ、、ね」と口ごもるばかりだった。そんな簡単なものではないのだろう。本当に親であっても何もできないことがもどかしい。近くにいられないことがつらい。でも、一番耐えているのは息子なのだ。
いつものように、帰っていく息子を私と夫で駅まで送った。

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