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読書記録 伊藤比呂美『道行きや』~人生の先を歩く人

女きょうだいがいたらよかったなぁと思うことがある。家族の愚痴を言い合ったり、親の介護も一人で抱え込まずにすむ。深刻なプライベートの相談も姉妹なら遠慮することもない。姉なら尚のこといい。甘えてみたい。

そんな人生の先を行く、相談できそうな人を見つけた。伊藤比呂美さん、以前から友人が好きで読んでいるのは知っていた。『たそがれてゆく子さん』のエッセイの中で夫の死について書かれていたのを読んだ。岩波文庫の『石垣りん詩集』の解説もとてもよかった。石牟礼道子さんが亡くなった時の特集でも、親しくしていたという、伊藤比呂美さんの追悼文を読んでいるはずだ。私が関心を持って来たことのすぐ近くにいたはずの、伊藤さん本人の作品になぜか、これまで目が向かなかった。それは、カリフォルニアで暮らす彼女の生活とここに暮らす自分があまりにかけ離れていて、接点を見出だせなかったからだと思う。

それなのに、今年になって、なぜか縁があるのだ。高橋源一郎さんのラジオ番組にゲスト出演している伊藤さんの話を聞いた。緊急事態宣言下で『夜と霧』を再読したら、以前と全く違った感覚があったと。そうか、と思って私も『夜と霧』を再読した。

そして、7月にブレイディみかこさんと伊藤比呂美さんのオンライン対談があると知り、申し込んだ。ブレイディみかこさんの本も何冊も読んでいる。Zoomを使って英国のみかこさんと伊藤さんが今お住まいの熊本をつなぐ対談だという。楽しみだった。当日は少しおしゃれをしてパソコンの前に早くから座って待った。Zoomを使うので双方向かと思っていたけれど、画面にはお二人のみが表示され、参加者はテキストで質問できるという仕組みだった。

伊藤さんの最新刊『道行きや』の話題になり、みかこさんが「この本はミスする、ということを書いた本ではないか」日本語では表せないニュアンスを持った「あなたをミスする」という言葉がこの本には出てくる。私はミスすることを恐れている。家族と離れることも喪うこともこわくてたまらない。たくさんの「ミスする」を経験して来た伊藤さんに尋ねてみたくなった。テキストを送信したら、答えてもらえてなんだか、画面ごしの伊藤さんが目の前にいて人生相談してくれているような気分になったひとときだった。不思議な感覚だった。

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早速注文して読み始めた『道行きや』は老いと別れが傍らに離れない年齢を迎えた人の、しかし、それを詩人の目で少し離れたところから観察しているような文章で、私もまた、この後に続くのだと思った。人生の先に先に伊藤さんの言葉に森のなかを照らしてもらいながらなら歩いて行けるような気がした。





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