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純粋だったあの頃【音声と文章】

山田ゆり
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※鼻が詰まりお聞き苦しくて申し訳ございません。


防音設備が万全のその部屋は、グランドピアノが置かれた全体の部屋と、その奥にはアルト、メゾソプラノ、ソプラノの各パートの練習室があった。

それぞれの部屋にはアップライトピアノがあり、入り口のドアはとても厚くて重かった。

コンサート会場でよくみられる、縦に木が何本もある壁になっていて、完璧に近い防音設備の為に隣の部屋の音はほぼ聞こえない。


メゾソプラノののり子たちは真ん中の部屋に入った。
まずはコンコーネ。最初の音をピアノで出す。
パート長が右手を胸のあたりにあげ、「ハイッ」と言うと一斉にピアノ無しで歌い始める。ピアノの上に置いてあるメトロノームがカチカチと規則的に動くだけで、生徒たちはそれを目安に歌う。


途中、パート長が止める。
「ソード-のドーをあと3分の1程度上に。ハイッ!」

また歌い出す。

その後、課題曲を練習する。
何度か同じところで止められ繰り返す。



予定の時間になり、各パートの人たちは全体の部屋に集まった。
この部屋は防音の他に、良い響きの空間になるように特別に作られていた。


のり子たちは白いシャツに赤い棒ネクタイ。
紺色のスーツ。
左胸のポケットから赤色の生徒手帳が数ミリだけ見えている。
崩れた格好の人はいない。

そんな学生服を着た女子高生達がグランドピアノを前に並ぶ。

先生の指揮棒が振り落とされる。

「さぁぁぁい~」
「さぁぁぁい~」

まずは発声練習から。
その音は半音ずつ上がってゆく。

一通り終わったところで先生が指揮棒を構える。
いつ見ても怖い。

先生はいつも完璧を求めている。
音が外れるとこちらをギロリと睨む。
のり子は先生に睨まれると胃の後ろのあたりがヒヤリとした。
握っている手に汗を感じた。


60数名の中で誰の音程が外れたかはすぐに分かってしまうのだ。
それは先生だけではなく隣の人にもバレバレだ。


先生は県内はもちろん、全国的にも一目置かれている方だった。
音楽に対して厳しい方で自分が納得しない事には絶対意見を曲げない強い方だった。

けがれのない女子高生にとって独身のその先生は憧れであり、神であり、誇りだった。
この合唱団に入りたいために県内でも有名なこの進学校に入学してくる生徒が毎年何人もいる。


その先生の指導の下、この高校の合唱団は2~3年に一度くらいの確率で全国大会に出場している。
全国大会ではダメ金で何度か涙を流した。


地域大会、県大会、地方大会を全て金賞で飾り、その年も全国大会の出場が決まった。

今年こそは金賞の歌声を会場いっぱいに響かせたい。

指揮棒が振られピアノの演奏が始まった。
その年、のり子達は「吹奏楽甲子園」と言われる、東京の普門館で行われた全国大会に出場した。



普門館はその後、2018年に耐震問題でその歴史の幕を閉じた。






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純粋だったあの頃

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