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2022/08/10 陽ちゃんの手紙

月ちゃんへ

2022年8月10日
月ちゃん、「強心剤取って来て」って言ってから意識を失って もう3日、眠り続けてるんだよ。
手を握ってるのに握り返してくれないけど ずっと頑張って闘っているんだよね。
今ね、月ちゃんと一緒に写ってるスマホの写真を色々見ながら お手紙を書いてます。
お医者様は、後、3、4日したら目覚めるだろうと仰ってくれたけど、私、不安だよ。
でもこんな時なのにずっと手を取ってると体温が少し上がったのかなって思えて信じて安心してる私も居るよ。

勝手にお部屋、少し模様替えしたんだ。
だって月ちゃんの部屋って本当に病室みたいに壁も天井も白色で リノリウムの床。
月ちゃんが目覚めたら 絶対にリフォームしちゃうからね、覚悟しておいてね。

二階の部屋から大きな椅子を引っ張り出し、引き摺ってたらお手伝いさんが手伝ってくれた。
大き目の椅子とサイドテーブルをベットの横に。
小さな客間用のベットも置いて 私の寝床に。

いつもの様に月ちゃんの隣で寝たいんだけど体からいっぱい出てるホースや電線で無理っぽいものね。
月ちゃんの寝てるベットの枕元近くに色々な医療機器が並んでるのが少し怖いけど、体に繋がってるチューブや電線はもっと怖いよ。

こんなに大きな家なのにこの部屋から2人共、もう3日も動いて無いのがなんか変だよ。

私の食事は お手伝いさんがこの部屋に運んでくれてるから大丈夫だよ。
ちゃんと食べてるからね。

公爵家からもお見舞いの花束届いてるよ。
他の伯爵様、市長、もう色々な方々。
公爵様っておしゃべりなの?
公爵様にしか連絡して無いのに、、、
とにかくいっぱい届いてる。
こんなに慕われ大切にされて居たんだね。
凄い人脈。
全部廊下に並べて飾ってあるから起きたら一緒に観て欲しいな。

月ちゃんから大きな家って聞いてたけど こんなに大きな家だって思わなかった。
本当、びっくりしたよ。
庭もすごく綺麗で広いし、週末は子供達や家族で呼び合う声が聞こえて 楽しくなるね。
これも其れも全部、月ちゃんが1人で この国に来てから積み上げて来たんだね。
凄いよ、凄すぎるよ。

「リスク、そんなのはどんな生き方したってあるんだよ」って言ってたね。
こっちに来てからその言葉の重みがわかった。

一目惚れって言うのかな,,,言うんだよね。
初めて月ちゃんを見つけた時から14年
長かったけど 今 思えばあっという間。
私、諦めないで良かった。
だってこの14年間、
ずっと月ちゃんだけを見てきたんだ。

って、これじゃあ ストーカーだね。

月ちゃんにならストーカーって思われても良いかな。きっと気にしないと思うけど、笑。
今まで会った人や紹介された人も何人も居たよ
中には何処かの社長、会長とかも居た。
結婚を申し込まれた方々も居たんだ。
でもね、
月ちゃんの存在を知ってからは比べてしまう。
オーラって言うのかな 雰囲気の次元が違うんだよ。だから全員、却下してやった。
やっぱり月ちゃんしか私は無理、
月ちゃん以外の人の傍に居たく無い。

当然、周りからいっぱい非難されたよ。
お陰でモデルの仕事もあっさり辞める覚悟も出来たけどね。
周りの月ちゃんへの評価も酷かったんだよ
殆ど嫉妬だって笑ってやったんだ。
「月詠さんは 人に全く興味持ってない」
「月詠さんって本当に人なの」
「近寄り難い」とか
「何考えてるか分かんない」
月ちゃんの耳にも入ってるよね、でも月ちゃんは
全然、気にして無かった様に見えたよ。
実際、全く気にして無かったね、笑。
本当に強い人だね。

初めて話したのは、パーティだったよね。
覚えてるのかな。
パーティで2人のピアニストが演奏してから
最後に月ちゃんの演奏聴いて
初めてピアニストだって知ったのも驚いたけど
其れ以上に ピアノってこんなに感情的で情状的で切ない音なんだって感動もした。
他の2人の演奏者と全然違って聴こえたんだよ。忘れられない音になったよ。
一緒に住む様になってからの練習や一緒に行った日本でのライブ、録音スタジオ どれも凄くて圧倒される音。

心の奥を掻きむしられた感じがして
お祝いのパーティ会場なのに 私ね、涙が止まらなくって 泣いちゃったんだよ。
それにね、話しててすっごく素直になれて穏やかな気持ちで過ごせたのは 月ちゃんだけだった。
ますます月ちゃんが好きになったんだ。

でもね
何度か、友達数人で遊びに行った時があったよね
バーで端に座ってグラス片手に笑っているのに
目が笑って無い事に気付いたんだ。
この人ってちゃんと笑えないんだ。
どうしたらちゃんと笑ってくれるんだろう。
一体 何がこの人をこんな風にしたんだろ。
ってずっと考えてたけどわからなかった。

月ちゃんが過去話を話してくれて嬉しかったんだけど、人の傲慢さと残酷さに寒気がしたよ。
其れに言いようの無い悔しさと怒りが込み上げて来たんだ。あの時 無口になったのはそれ。
なんで、どうして月ちゃんがそんな目に。
普通に生まれて来ただけなのにね。
自分達と違う体のどこがダメなの?って

それでも自分を失わずに生きて来たんだよね。
だから成功したのかなって私なりに理解した。
ごめんね、きっとこんな陳腐な言葉で表現出来ないよね。私だったら絶対に潰れてしまってる。
凄く苦しくて寂しくて辛かったって想像しか出来ないけど、想像以上だったんだろうね。
1人で凄く頑張って来たんだね。

モデルを辞めて2年程経ったある日
皆んなで久しぶりに集まろうって事になった時
にね思わず 月詠さんも来るの?って友達に聞いて回ったら、
「陽、まだ月詠さん、諦めて無いの?」
「あんたねぇ、絶対無理だから、諦めたら」
とか 色々、言われてたんだよ。
あの時、本当に来てくれて良かった。
だってあの時にお話が出来たから 当時、月ちゃんの大阪にあったお家に行く決心が出来たんだよ。

家からスーツケース持ってタクシー乗って
ドキドキしながら
インターホンの前で深呼吸してから押したんだ
月ちゃん、泊めて だっけかな、
以外にあっさり 良いよ、入って
って言われた時、心の中でガッツポーズ。
あれから一緒に暮らす様になってからも戸惑いを感じちゃった。
家に来た理由も何も聞か無い。
自由にしてても何も言わない。
不思議だけど
これが人に興味が無いって事なんだって
勝手に思ってた。
嫌な顔もせずに毎日、美味しいご飯を作って 掃除、洗濯も全部粉して いつも家の中を綺麗にしてくれて 当然、仕事もしてた。
1日1食しか食べないのに いつも私の3食分まで作ってくれて おまけに夜食も。でも3ケ月程は、会話もなかったよね。不思議だった。

面白かったのは 月ちゃんが動く度にねこちゃん達がゾロゾロ付いて行く事。
月ちゃんが床で寝そべったら 直ぐ横に。
ねこちゃん達も月ちゃんが大好きなんだって
本当に思えたよ。

だからね
ちゃんと目覚めてね。
私もねこちゃん達も待ってます。
ハウスキーパーさんやお手伝いさん達、庭師さんも待ってるよ。沢山の人が待ってるよ。
寝顔、可愛いし、素敵だけど やっぱり 起きてくれないと 寂しいよ。
体をタオルで拭いてても脱力状態で されるがまま。

もっといっぱい私とお話しして下さい。
もっといっぱいピアノを聴かせて。
もっといっぱい私と出かけようよ。
いっぱい一緒にしたい事があるんだよ。
起きてからも月ちゃんのこの手を離さないよ。
ずっとずっと一緒に居ようね。
目覚めたら精一杯の笑顔で
お帰りって言うからね。
世界一、大好きだよ。愛しています。

           陽より

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