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一汁一菜の風景

小さい頃の
学校からの帰り道

ぐうぐう鳴るお腹を抱え
アリの行列や野良猫のお尻、
真っ赤に染まった夕焼け空に
なん度も気をとられながら
やっとの思いで家に着いたっけ

家のドアを開けるなり
靴をほっぽり出したまま
「今日の夕ごはん何ですか」
と叫ぶ、赤ら顔ひとつ

何度その道を歩いたか
子供はあっという間に大人になって
わけもわからず忙殺の日々
やれ進路だ、やれ就職だ、やれ請求書だ
たえず時計と睨めっこしていて
もう、うかうかと道草なんて食ってはいられない

いつからだろう
朝目覚めるのが憂鬱になってしまったのは
いつからだろう
あまたの行為が喜びから義務になったのは
いつからだろう
空を見上げることを忘れてしまったのは

ある日出会った一汁一菜の膳の写真
飾ることなく、押し付けることなく
野に咲く花のように
さりげなく美しいたたずまいでした

「日常の食事は素朴でよろしい」
そんな一言にはっと目覚める

そう、人間は野の花に過ぎないのかもしれない
おもいのままに吹く風に身を預け
働きもしなければ
倉に納めもしない

ただ大空の下で
静かに身をそよがせる

そんな風に生きられたら

せめて、忙しい日々の中で
一膳の食事、一碗の味噌汁に
生かされている喜びを
感じられたのなら

私たちは大切な何かを思い出せるのかもしれない

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