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口は悪いが景気は良い。『マイル22』

 皆さん薄々感づいておられるとは思いますが、私はバトルシッパーでして、定期的にあの映画を観ながらコンビニで買ってきたお手軽ブリトーを食べないと死んでしまう類の人間なんですね。そんな狂人をいくつも輩出したカルト教会(映画『バトルシップ』を指す)を撮った男ピーター・バーグ氏の最新作がいよいよ上陸。あいにく劇場の売店にブリトーの取り扱いはなかったため、ホッドドッグとコーラを抱えての鑑賞と相成った。

6つの大都市を破壊するほどの核物質が、何者かに盗まれた。その行方を知る謎の男リー・ノアーがアメリカ大使館に現れ、核物質の居所の情報と引き換えに亡命を希望。リーの護送には、優秀なCIAエージェントのジェームズ・シルヴァ率いる「オーバーウォッチ」部隊が任務に当たる。リーを抹殺するための武装勢力が現れ街は混乱の渦に陥る中、22マイル(約35.4キロ)の護送は地獄の任務と化していく。

 『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』『パトリオット・デイ』と実話をベースにしたアクションを連続で手掛け、どれも高い評価を得てきたピーター・バーグ監督。『バトルシップ』の興行的失敗からの名誉挽回を果たした彼だが、何かしら鬱憤でも溜まっていたのだろうか、せっかく好調だった実話路線を捨てFワードが飛び交うマジギレアクションムービーを突然世に放ってきた。

 冒頭から驚かされるのが、主人公の常軌を逸したキャラクター造形。監督の盟友マーク・ウォールバーグ演じるジェームズ・シルヴァは、優秀なエージェントだが同時に人格破綻者。口を開けば「ファ○ク」を連発し、部下の誕生日ケーキを床に落としたり女性シャワー室に堂々と入ってきたりと、パワハラという言葉では収まりきらないくらい傍若無人。本作は94分とタイトな尺になっているのだが、シルヴァがキレてない場面は1カットさえ無いと言っていいほど。近年は『トランスフォーマー』俳優としてスターダムに登りつめた彼だが、本作では倫理観も思いやりもないサイコパスを嬉々と演じており、今後のキャリアが心配になるほどだ(本人的には原点回帰だろうが)。

 公式が認める”情緒不安定すぎる上司”の下に、『ウォーキング・デッド』のローレン・コーハン、『エクスペンダブルズ3』のロンダ・ラウジー、チームの司令塔役としてジョン・マルコヴィッチなど豪華キャストが揃う中で、一際輝くのはやはりイコ・ウワイス。先日スカイライン星人を撃退して地球を守ったばかりのこの男、本作ではパンイチでベッドに繋がれたまま大の男二人を撃退する活躍を見せ、「この男に護衛が必要なのか…?」と至極当然の疑問を観客に抱かせてくれる。元警官という設定なのだが、シラットが扱えて、しかも銃の腕前も一撃必中という、もうオーバースペックすぎるウワイス様、どうやったらコイツを殺せるのか教えて欲しいとさえ思えてくる。終始キレてるマークとは対照に、平時は抑えた演技でミステリアスに物語を導引し、いざアクションになれば鬼のように強い。イコ・ウワイス目当てで劇場に足を運んだ方なら、かなり早い段階で入場料金以上の満足感が得られるだろう。

 上述の通り、本作は94分と上映時間が短いのだが、その密度はとても濃い。何せ一度護送作戦が動き出したらアクションシーンが止まることなく、作戦開始から終了までがイッキに描かれていく。その間、画面でどこかしら爆発しているし、銃声が鳴りっ放し。屋内に移動してもずっと格闘シーンが続くため、キャラクターの肉体が軋み、痛みに悶える表情をずっと眺めることになる。話が早く景気が良い、全編見せ場のサービス精神旺盛すぎるアクション映画なのだ。

 そして何より、アクションの緊迫感が凄まじい。熾烈な銃撃戦が「白昼堂々と」「市内で」行われる様はそれだけで恐ろしく、観客の緊張感を損なわないようテンポを落とさずノンストップで描いていく編集の切れ味が飽きさせない。『ローン・サバイバー』のロケハンから得た情報が元になったという特殊部隊や銃器に関するリアリティも追及されており、実録モノの経験が本作にも活かされている。『パトリオット・デイ』の中盤の銃撃戦のシーンが90分ずっと続く感じと言えば、琴線に触れる人もいるかもしれない。

 終始キレてるマークと、キレのいいシラットを繰り出すイコ、そして何かが吹っキレたらしいピーター・バーグ監督。これがどのように受け入れられたのかはトマトの腐り具合を見ればお察しの状態だが、バトルシッパーなら応援したくなるのが人情というもの。続編も企画中とのことで、いっそのこと『ワイルドスピード』のようにマークとイコがファミリー化してシリーズが続いていけばいいのに、と妄想してしまう。何はともあれ、監督はキャリアのことを考えて次は堅実に実話モノ撮った方がいい。続編はそれからだ。

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