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『劇場版グレンラガン』のアツさが真夏の猛暑を上回っている。

 突然ですが、「初めて」って大事ですよね。人間どんな事でも経験してしまえば「知らない」には戻れないし、初めての〇〇は期待だとか緊張だとか、エモーショナルな展開とも結びつきやすい。初出し、初任給、初体験…。なんだかワクワクしてきますよね。

 んで、お盆にもかかわらず帰省を自粛しなければならない特別な夏に行った、特別な初体験のお話をします。かいつまんで言うと、「『天元突破グレンラガン』劇場版のBDを買ったはいいものの自宅のしょっぱい視聴環境ではじめて♡を捧げる気になれなかったのでカラオケのホームシアタールームを借りた」というお話になります。

 ちょうど一年前、『天元突破グレンラガン』のTVシリーズを長期連休に鑑賞し、自室にいながら軽い脱水症状をやらかすレベルで泣かされ、いざ劇場版の存在を知っても「体調が整ってから観よう」と思い鑑賞そのものから敬遠。今年5月に開催された『プロメア』公開1周年を祝う同時視聴企画〈StayHome with PROMARE〉中にテンションが高まりBDを注文し、いざ届いても「まだあわてるような時間じゃない」と陵南の仙道めいたポーズで未開封のまま棚に仕舞う有様。これじゃあイカンと思い意を決して勇気を振り絞るわけですが、一年寝かせた最高の素材を、粗末な調理器具、すなわち再生環境で調理したとて、それは最高の料理と言えるだろうか。である。

 お気に入りだった博多のシアタールームは、残念ながら店じまいになってしまった。目ぼしい施設など到底ありはしない地方民だが、昨今のカラオケルームは大人数でのパーティ利用、果てはテレワーク対応のためにプロジェクター等を完備している部屋もあるという。探せばあるじゃないか、ホームシアタールームなる部屋が!かくして、この時期にもかかわらず密な部屋で、劇場版グレンラガンの鑑賞会が密かに開かれた。そして、『キルラキル』『プロメア』を履修しておきながらグレンラガンはまったく未見(そんなやつおる??)のシャニマスPに同行いただき、「初見で劇場版は楽しめるのか」という人体実験も同時敢行した。

 …が、結果として最良の環境ではなかった、ということは一番の反省点に挙げられる。ホームシアタールームといってもモニターは家庭用のちょっと大きめの液晶テレビで、左右のスピーカーは正しく動作せずサラウンド効果など一切感じられない。最も誤算だったのは、カラオケ室は防音仕様などではない、ということ。ぶっちゃけ、近隣の部屋や廊下のスピーカーの音声がバッチリ聞こえてきて、映画の音声に集中できない。沈黙の余韻が、目障りな客の歌唱(失礼)にかき消される始末。自宅の環境を超える体験を求めて、自宅より劣悪な上映会になるという踏んだり蹴ったり。事前のロケハンを怠った私の、完全なる企画倒れ。

 果たして、「鑑賞した」と胸張っていいのだろうか。自室のPCモニターの方がまだ集中できたんじゃないだろうか。その無念に浸りながらも、なぜ上映中私の瞳は潤み、前のめりで鑑賞していたのだろうか。それは一重に、作品のパワーあってのものだろう。劇場版グレンラガンは恐ろしいことに、もうこれを超えるインフレはないだろうと思っていたTVシリーズ最終回を自ら超えてきた。アツい展開のフルコースを、尋常ではない熱量と情報量で放ってきたあの最終回を、自ら過去のものにしてしまった。なんてこった、今石洋之と中島かずきと【この頃の】GAINAXは化け物だ。一体人生何週したらこんなクライマックスを思いつく?10年以上前の作品にネタバレを気にする必要もないかもしれないが、もしあなたがTVシリーズでグレンラガンとの付き合いを止めているなら間違いなく劇場版を観るべきで、グレンラガンを全く知らない人はTVシリーズ全27話を噛みしめてから劇場版を観るべきだ。尊い犠牲になった同行者のためにも、どうかそれだけは守ってほしい。

 まずは紅蓮篇。冒頭から観たことない螺旋族とアンチ=スパイラルのかつての戦争から始まり、物語はグレン団結成に至るまでのあらすじをなぞっていく。この辺りは大胆な省略が多く、キタンやロシウなどとの出会いがバッサリ流されていくので、TVシリーズ鑑賞済みを前提とした総集編だな、と悟る。あと、ヨーコちゃんのお色気要素が若干増している気がする。

 それでも、カミナ戦死の辺りはそれはもう丁寧に、シモンが追い詰められ、ニアと出会い、そして復活するまでをじっくり描いていく。そしてそこから、残りの四天王3人が一気に襲い掛かってくるという、「キャラクターが尺に気を遣う」様子が見て取れる慌ただしいオリジナル展開に発展。強引にもほどがあるのだけれど、敵も合体!中川翔子が歌う!ギガドリルブレイクぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!で全部掘り進めるのはグレンラガンとして圧倒的に正しいし、何なら泣いた。めちゃくちゃよかった。

 で、螺巌篇、問題作。TVシリーズのクライマックスの一つだった螺旋王ロージェノムとの最終決戦の途中から始まり、そこに至る経緯はダイジェストという潔さ。紅蓮篇のラストで勿体ぶって登場した螺旋王あっさり退場…と思いきやなぜかハッキング機能が追加されるという劇場仕様で復活。この辺りで隣に座っている未見者へのフォローを諦める。

 そこからカミナシティ建設までを新規映像で示しつつ、「ニアがカミナに宛てた手紙」という形で状況説明をするのは唸った。その手紙というアイテムが、終盤に活きてくる。

 息つく暇さえ与えず、ニア奪還と人類を救うため宇宙に飛び出す大グレン団。TVシリーズでは短い登場だったアークグレンラガンの活躍が大幅に増え、そこからシームレスに超銀河グレンラガンにアップグレード。ぶっちゃけ宇宙に飛び出してからは改変が多く、実質フルリメイクでは…?という予感が走るのだが、それはものすごい予想外な画で確信と化す。

 基本的な流れは同じなのだ。シモンがニアに贈った指輪によってアンチ=スパイラルの居所がわかり、攻め入るグレン団。だが、そこに辿り着くまでにキタンが勇気の特攻を見せ、散ってしまう。悲しみに浸る暇もなく、彼らは最終決戦に臨む。

 アンチ=スパイラルは語る。螺旋族が螺旋力を使い進化を続ければ、そのエネルギーはとめどなく溢れ、いつかはブラックホールへとなり宇宙は無に帰る。だからこそ彼らは「個」を封じ、進化の可能性を自ら封じ込めた。その覚悟のない者に、宇宙を任せておくわけにはいかないと、螺旋族をねじ伏せる強大な力を見せる。繰り出される精神攻撃。多次元宇宙=パラレルワールドが織りなす様々な可能性の迷路に閉じ込められたシモンたち。そこでシモンが出会ったのはもちろんアニキ…とキタン!!TVシリーズでは尺の都合上「大勢その他」扱いだったのが気がかりだったキタンが、カミナと肩を並べる親友としてシモンを鼓舞する…。この辺りからずっと泣いてます。

 正気を取り戻したグレン団は螺旋力を高め、ついに降臨する天元突破グレンラガン!!アニメ史に残る名セリフ「俺達を誰だと思っていやがる!!」が響く時、いつも呼吸困難になってしまう…のだが、天元突破グレンラガン、劇場版だと敗北するのだ。ええっ!?!?

 驚いたのもつかの間、天元突破グレンラガンの各パーツとなっていたガンメンが天元突破したまま分離し、ニアが専用機を獲得。やったぁ劇場版専用メカ。それも全ガンメンの天元突破シリーズがお目見えする大盤振る舞い。劇場版で死ぬのはキタンだけなの何でだろうと思ったけど、このためか。思いもよらぬ展開に手に汗握る私を尻目に、シモンが驚愕のセリフを放った。

「みんな、アレをやるぞ…」
「アレ?」
「決まってるだろ!合体だああぁぁぁぁッ!!」
ぼく「???!!??!?!!!!?!??!?」

 は?合体??もうしたでしょ天元突破グレンラガンに。これ以上何に…でっかいカミナ!!!!でっかいカミナになった!!!!!なんで????!?!?!?

 突如現れたでっかいカミナ概念。困惑と同時に溢れて止まらない涙。何が起きている。一体何が。突如出現した超天元突破グレンラガン超巨大ギガドリル超天元突破ギガドリルブレイクを放ち、それに感化されたアンチ=スパイラルさんもノリノリで反螺旋ギガドリルブレイクを繰り出し両者は互角。その衝撃で全宇宙が一度破壊され、シモンのドリルが「天を創るドリル」となってそれを再生させ(ビッグバン)、新たな宇宙が創造された。宇宙を創生するの、速水ヒロとグレンラガンくらいでしょ。

全身は螺旋力の塊であり、「銀河の三倍」「身長十万光年」等とも語られる天元突破グレンラガン(実際は{(グレンラガンの体長×10)の25乗}のサイズとなるので約52.8億光年)が大体の顔大きさであり、全長は観測可能な宇宙(約930億光年)を優に超える約1500億光年である
必殺技「超天元突破ギガドリルブレイク」(全長約1兆5000億光年)は全身を巨大なギガドリルとしてぶつける大技、グランゼボーマの「反螺旋ギガドリルブレイク」とぶつかり合い全ての多元宇宙を‪一度終わらせ再び始めるほどのエネルギー‬をぶつけ競り負けるも、
超天元突破グレンラガン→天元突破グレンラガン→超銀河グレンラガン→アークグレンラガン→グレンラガン→グレン→ラガン→シモン
というマトリョーシカアタックを喰らわし、壮大な肉弾戦の末、遂にシモンはアンチスパイラルを倒すことに成功する。

 わけがわからんデカいロボットが、光年の大きさのドリルを振るい、人型になって宇宙を破壊して再生させるアニメ。とんでもないものを観てしまった。TVシリーズで天元突破グレンラガンが「銀河と同じ大きさ」になったのも爆笑と落涙を誘ったが、それを超えるさらなる合体が用意されていたなんて。この瞬間、『劇場版グレンラガン』に完全敗北した。TVシリーズのお手軽総集編なんかじゃない。完全新作だ。劇場クオリティを「もっとデカくする」ことだと思ってしまった作り手たちの、迸る命の輝き。デカけりゃ強いし、アニキの姿なら最強。度を越したインフレこそ今石洋之×中島かずきのお家芸で、その真骨頂を観させていただいた。中島氏がお気に入りだという[要出典]「地球をパンチする」概念のさらに上を往く何かに、私の涙腺のダムは紙、同然!になってしまった。

 ここまで、鑑賞当時の感想をなんとか文章化しようとして、感嘆符多めの支離滅裂な文章になったものの、『劇場版グレンラガン』は最高に滾る一作だった。これが土曜の朝に放送されていたという事実に驚くし、当時のファンが期待を高めて劇場に駆け付け、本作を観たら一体どうなってしまっていたのだろう。もし公開当時にSNSがあったら、そして自分もリアルタイムで盛り上がれていたらと、無いものねだりしてしまう。展開も情報量も増えていく一方なのにヨーコの布地だけ減っていく矛盾。あぁ本当に、グレンラガンは最高だ。一年越しに完走できたことを、今日は祝いたい。

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