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2018年ベスト【ヴィラン】を紹介する。


 記録的猛暑も過去のこと、すっかりお鍋が恋しい季節になりましたね。2018年も残り二ケ月。お歳暮の準備は済んだか?クリスマスプレゼントのライダーベルトは買ったか?そして何より、誰に頼まれたわけでもない映画ランキングは決まったか?頭の中もすっかり繁忙期な平成最後の年末、後悔のないように過ごしたいものです。

 そんなわけで、年の瀬になれば何かしら、総括めいたことをしたくなる。今回のテーマは悪役、すなわちヴィランについて。物語を盛り上げ、ヒーローが乗り越えるべき葛藤やテーマを象徴する重要な存在。その中でも、2018年映画史を盛り上げた最高の漢(おとこ)を二人紹介します。どうか怒らないで聞いてほしい。

 なお、【ヴィラン】の定義については諸説ありますが、今回は「主人公に敵対したキャラクター」ということにします。いいね?






映画『ブラックパンサー』より
キルモンガー


 マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)第18作目、ワカンダ国の若き王ティ・チャラの活躍を描く『ブラックパンサー』より、キルモンガーくん。「死の商人」とも呼ばれる凄腕の兵士でありながら、人間界には秘匿されてきたワカンダ国の存在を知る謎の男。

 彼については公開当時、映画の感想そっちのけで怪文書を投稿しているので、こっちを読んで下さると話が早い。ちなみに、筆者がこれまで投稿した記事の中で最もアクセス数が多いのがこちらになります。「キルモンガー」でGoogle検索すると結構上位存在。偉い。

 こちらのキルモンガーくんの良さは、まずは容姿。知性とセクシーさを兼ね備えた風貌で、王の風格を感じさせる所作と荒々しい攻撃性のギャップも素晴らしい。演じるは『クリード チャンプを継ぐ男』でアポロの息子アドニスを演じたマイケル・B・ジョーダン。「孤独」を意識して演じたというマイケルの熱演あって命が宿ったキルモンガーは、全世界の観客を魅了しました。

 そして欠かせないのが、彼自身が背負う動機と過去が、作品のテーマそのものを物語るストーリーテリング。王家の権威を守るために父の死を隠匿し、人種差別や迫害が蔓延る人間社会を見向きもしない故郷ワカンダへの恨み。この社会で虐げられる者に、現状を変える力を授けようとする心。「革命家」の如き気高い理想を抱くキルモンガーの理念は、悪者の戯言と切り捨てることができるでしょうか。それは、この世界で苦しんできた誰かの声を代弁したものではないでしょうか。

 その善悪を容易に裁くことはできず、作中のティ・チャラ同様に、観客も頭を悩ませます。国の安寧を保つための前王の決断も、キルモンガーの理想も、「誰かを救う」ためのものであるからこそ、尊重すべきなのだから。

 そしてクライマックス、彼がなぜ命を賭けてまで故郷に舞い戻ったのか、「あの声」の正体が誰だったのか…。あまりに切なく、孤独に戦い続けた男の顛末は、美しい夕焼けの映像と共に心から消えることはありません。キルモンガーはヒーロー映画における魅力的な悪役でありながら、作品が訴えかけるメッセージを体現するようなキャラクターで、だからこそ忘れがたい光を放つ存在なのです。エンタメ映画として最高級品を提示しながらこのバランスを成立させるマーベル・スタジオ、恐ろしいくらいの手練れ…!!






映画『バーフバリ』シリーズより
バラーラデーヴァ

 「オレたちの国じゃとっくに旧作なのに、なんで今ごろ日本であんなにヒットしてるんだ!?」と本国インドの民が驚くくらい、現在進行形でムーブメント真っ最中の映画『バーフバリ』シリーズ。古代インドのマヒシュマティ王国を舞台に語られる愛と復讐のドラマにおいて、国王として25年間君臨した男。獅子の荒々しさを有する、天使の姿をした徳高き戦士。その御姿を見た者は、誰もが永遠の #バラーラ期 に突入するため、用法・用量を守り正しく服用しなければならない。顔がいい


 作中でも語られる通り、バラーラデーヴァは従兄弟であるバーフバリとも引けを取らぬ知性と武術の持ち主で、どちらが王になってもマヒシュマティの繁栄は約束されていたほど。しかし、『伝説誕生』におけるカーラケーヤ戦において、国王としての大事な素質に欠けていることを国母に見透かされ、王座に辿り着くことができなかった。それでも顔がいい。

 その後は策略を持ってバーフバリを陥れ、マヒシュマティの王として25年間君臨するわけですが、バラーラデーヴァはそれでもなお「持たざる者」なんですよね…。自らを慕う国民も、母の寵愛も、美しき妻も、全てバーフバリに奪われていく。神がかり的なカリスマ性を有するバーフバリの、そのあまりに煌びやかな威光の前に霞んでいく闇の如く、しかし復讐と怒りに燃える炎は消えることなく、燃え続けている。そして顔がいい。

 都内での絶叫上映時、バラーラデーヴァが登場するシーンでは、赤色のペンライトが劇場を染めることが多く、イメージカラーとして定着しています。それは炎の「赤」であり、血塗られた「赤」のイメージが強いからでしょうか。立ちふさがる者をすべて葬る強さと、25年に渡り燻ることのなかった怒りの炎。とくに後者を象徴する「鎖」のイメージは作中でも象徴的に扱われ、バラーラデーヴァの最期にも大きく関係しています。己の復讐心によって炎に焼かれるバラーラデーヴァ…。その姿に心打たれる臣下が後を絶たず、「バラーラデーヴァ応援上映」なる催しまで開催されることに。再三言うが顔がいい。


 ところで、「暴君」のイメージで語られることの多い陛下ですが、『伝説誕生』から『王の凱旋』ラストまでの25年間、マヒシュマティ王国の安寧が保たれていることもまた事実なんですよね。作中では描かれなかったものの、他国からの侵略も退けたり、交渉事もこなしたりと、やはりバラーラデーヴァも王の素質を持ち合わせた人物だったのだ、と言う他ないでしょう。まぁ、国民をムチ打つ兵士がいる時点で悪逆非道間違いなしなのですが、恐怖で従わせるのも王のメソッドなのでしょうね。徹頭徹尾顔がいいしね。

 アメコミヒーローが時として正義が何だ悪とは何だと悩む時代、それでも「倒すしかない悪役像」としてスクリーンを席巻し、同時に狂おしく燃える炎で我々を魅了したバラーラデーヴァこそ、最高のヴィランの一人だと断言してしまいたい。最高の悪役がいるからこそヒーローが光る、という文脈においても申し分ないのだが、ヒーローに匹敵する魅力を兼ね備えた悪役のドラマに感情移入してしまう。そんな奥深さを秘めた映画『バーフバリ』が起こしたムーブメントは最高潮に達し、なんと中の人が来日します


 …えっマジで!?ってことで、おそらく世界一顔がいい男に会いに行きます。福岡から。


 筆者の #2018年はこれに捧げた 枠として、『ブラックパンサー』と『バーフバリ』のことを振り返りました。元からヒーローよりもヴィランに心惹かれてしまうひねくれ者なんですが、とくに今年は大好物ばかりでしたね。来年もアメコミ映画がたくさん公開されますが、凄まじい勢いで全世界のヘイトを集めつつあるサノスおじいちゃんは大丈夫でしょうか。楽しみですね。

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