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本物の芸術は舞台の上で花開く『グレイテスト・ショーマン』

 ヒュー・ジャックマンという罪深い男がいるんですよ。昨年、アメコミ×西部劇×『そして父になる』な大傑作『LOGAN』で我々の眼球から涙をカツアゲしたこの男。アスリート並に鍛えた肉体と聞き惚れるような美声を併せ持ち、トップのアクションスターかつミュージカル俳優としての地位を確立。しかしサービス精神旺盛でファンの心をわしづかみにし、その上共演者や撮影スタッフへのリスペクトを常に忘れない、まさしく PERFECT HUMAN なこの男。いやいや、ヒュー・ジャックマン嫌いな人類ってこの世にいないでしょ。好きにならずにはいられないでしょ。いえ、ヒューは大事なものを盗んでいきました。我々の心です!でしょ。そんなヒュー様の最新ミュージカル映画が公開なんですって。そりゃ観るしかないでしょ。

貧しい仕立て屋の息子として産まれたバーナムは、顧客の令嬢であるチャリティと結ばれる。愛する妻を幸せにするために彼が考え出したのは、“ユニーク”な個性を持ちながらも差別や偏見に悩まされている人々を集めたショーを開催すること。誰も見たことのないショーはたちまち観客を魅了し、バーナムはついに豪邸を手に入れる。しかし、フリークス(奇人)と蔑まれる人々を集めたショーには反発の声も強く、バーナムにもさまざまな苦難が降りかかる…。

 ミュージックビデオ出身のマイケル・グレイシー監督による、初の長編劇映画。音楽を担当したのはあの『ラ・ラ・ランド』の製作陣ということもあり、キャッチーで耳から離れない名曲だらけで構成された、堂々たる王道ミュージカル映画、というのが本作『グレイテスト・ショーマン』。

 本作の白眉は“全曲”と言ってしまっても良いのですが、予告編でも印象的だった「The Greatest Show」に乗せて圧巻のパフォーマンスが繰り広げられる冒頭がとにかく素晴らしい。一瞬たりとも目が離せない様々な振付や仕掛けを流れるようなカメラワークで追いかけ、作品全体のテーマを現す人間賛歌に近い歌詞を、ヒュー様の美声に乗せてスクリーンから放つ。そして映画はテンポを緩めぬままにバーナムの少年時代へと時間を戻し、やがて妻となるチャリティとの出会いから結婚までを凄まじいスピードで描く。ここで流れるのもこれまた名曲「A Million Dreams」で、主旋律がBGMとして流れるなど「This Is Me」と肩を並べるもう一つの主題歌として、存在感を現します。

 前述の通り、MV出身である監督の感性で描かれた本作は、楽曲と楽曲の合間のドラマパートの一つ一つが短く、数分おきに何かしら歌唱シーンが入るため、非常にテンポよく物語が進行していきます。上流家庭の令嬢であるチャリティと結ばれたバーナムですが、仕事を解雇され家は雨漏りするなど、現実は厳しいものでした。しかし、本作はそういった苦悩や葛藤を最小限の描写のみで描き進めるため、ビターなドラマを求める方にとっては物足りなく感じられる恐れさえあります。

 かといって、本作のドラマやテーマが浅薄で見応えが無い、ということは意味しません。バーナムという一人の男が妻と娘を想う一途な想いから生みだした前代未聞のショーが、観る者を熱狂させ、パフォーマーの心を満たしていくこと。その尊さを礼賛することこそ、本作が描き切ったショーの醍醐味に他なりません。

*以下、ややネタバレを含みます。

 バーナムが企画したショーとは、小人症や髭の生えた女性など、社会では受け入れられず日陰者として生きるしかなかった人々を集めたもの。コンセプトこそ見世物小屋じみた、イヤなものを感じずにはいられない試みですが、有無を言わせぬ圧巻のダンス&歌唱パフォーマンスでショーは大成功。バーナムはついに成功を手にし、幸せな生活を送ることになります。

 しかし、バーナムのショーを快く思わない人々や批評も存在します。ショーのキャストたちが持つ身体的特徴による差別や偏見の目からは完全に逃れられず、黒人への排他意識も根強い時代ゆえ、バーナムらは街の厄介者扱いを受けることもあります。また、芸術批評家からは「偽物」と評されてしまう一幕もあり、バーナムらの歩みは決して順風満帆とは言えません。

 そしてバーナムもまた、「本物」と「偽物」に囚われた人物でもあります。ショーの観客の笑顔は本物と確信する一方で、その出自ゆえに上流貴族やいわゆる“演劇”“コンサート”への嫉妬、鬱屈した思いを抱えています。それこそがバーナムの向上心の源ではあるものの、成功したい欲が強すぎるあまり、一時は家族の絆を失いかけます。

 本物と偽物、「芸術」という価値観の中で、その境界線はどこにあるのか。答えのない永遠の問いのようなものですが、バーナムは一つの答えを得ます。ショーを通じて確立されたキャストとの絆と、日陰者として生きるしかなかった者にとって舞台こそが自己実現の場所であったこと。そしてその先にある、「人を幸せにする」ことが「本物の芸術」であること。

 その想いが一気に爆発したのが冒頭の、そしてラストで反復される「The Greatest Show」のシーン。経緯を知るともう一度観直したくなる、本作屈指の名パフォーマンスに、誰もが胸が熱くなるのではないでしょうか。

 ヒュー推しで観に行ったものの、最終的にはあのサーカス団のみんな全員が愛おしい、人間賛歌の快作として大切な一本になりました。作中にはバーナムの相棒となるフィリップを演じるザック・エフロンとヒュー様のデュエットもあり、美声×美声=最強の語彙力破壊コンボも楽しめます。ミュージカルは基本大スクリーン必須案件ですので、音響にこだわった劇場での鑑賞をオススメします。

ありがとう!ボクたちのウルヴァリン!!!

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