見出し画像

すごくかわいくて腕相撲が強くてすごくかわいい『ファイティン!』

 マ・ドンソク。今最も筆者が推してるアイドルだ。丸太を思わせる厚みの上腕二頭筋と、筋肉質なのにまるっとした印象を抱かせる大柄ボディは「くまさん」のように愛らしい。頼れる用心棒を演じることが多い兄貴肌だが、真骨頂な何と言ってもキュートな困り顔。本国では「マブリー」の愛称で知られる、人気絶頂のアイドルだ。

 そんな兄貴(※アイドルです)の最新作の題材は、なんと腕相撲。すごい。腕相撲の映画を作ろうと思ってマ兄貴をキャスティングしたのか、マ兄貴の映画を作るとしたら「腕相撲っしょ!」と酔った勢いで企画書書いちゃったのか、製作に至るまでのドラマが気になってしょうがない、アツくて泣けるエンターテイメントが日本上陸。言うまでもなく可愛いのでみんな観て下さい。

幼い頃に養子に出され、アメリカ・ロサンゼルスで暮らすマークは、かつてアームレスリング選手だったが八百長疑惑をきっかけに除名されたという苦い過去を持ち、今はクラブの警備係として働いている。そこに、マークを「兄貴」と慕うスポーツエージェントのジンギが現れ、韓国のアームレスリング大会への出場を打診する。生まれ故郷の韓国に戻ったマークは亡き母の家を訪ねるのだが、そこにいたのは“存在を知らなかった妹”のスジンと、彼女の子どもたち。新たな家族との距離感に悩みつつも、マークは順調に大会に勝ち進んでいくのだが、ジンギの借金苦を知ったスポンサーのユ・チャンス社長により、スポーツ賭博での八百長を指示されてしまう。

 強面で寡黙だが、内に秘める優しさや弱さが愛らしい、マ・ドンソクみに溢れるアイドル映画。家族愛や友情の再生、他者と繋がることの尊さを描きつつ、持前の上腕二頭筋が醸し出す有無を言わさぬ説得力で強敵をなぎ倒していく、ロジック不要、力押しオンリーの腕相撲シーンが最高。こういう映画、観たかったんですよ。

画像1

 さて、映画の内容はさておき我らがマブリーのカワイイ要素について。

・ラブホの振動ベッドの使い方がわからず揺れてる。
・方向オンチ。
・基本的に食いしん坊。納豆汁を死ぬほどたべる。
・お刺身もたくさんたべる。
・缶ビールをたくさんのむ。
・マッサージチェアに恍惚の表情。
・料理の手際が抜群に良いのに味はマズい。

 というように、ドンソクさんをいかにカワイク魅せるか、に特化した見せ場の数々。本人の持つ愛嬌を際立たせるシチュエーションの満漢全席、これは完全に「わかっている」作り手が成せる技。ありがとうございます。今日もマブリーはマブリー。世界はこんなにも美しい。

 そんなアイドル映画としての側面を持ち合わせている一方で、本作の敵とは「貧困」と「偏見」である。主要登場人物であるジンギとスジンは借金を抱えており、特にスジンはシングルマザーにして二人の子どもを育てる、非常に厳しい状況にある。そうした状況ゆえ、時に直接的な暴力の餌食になることもあるのだが、マークは困った人を見捨てられない性格であることは序盤の警備係としての職務風景を見れば明らかだ。暴漢から彼女を守り、悪党どもをなぎ倒すシーンを経て、疑似的な父親としての立ち位置を確立していくマークの笑顔が泣かせる。ようやく手に入れた「家族」の温かみを知り、マーク自身もまた人間的成長を遂げる。

 また、アームレスリングを揶揄する人物を打ち負かすシーンがあり、人を見かけで判断する考え方をたしなめる場面がある。これまで、ドンソクさんの容姿でいろいろと好き勝手言っていた筆者のような無粋な価値観に刺さるシーンだ。アメリカで生きてきたアジア人という主人公マークの出自が、マ・ドンソク本人の実人生とリンクしている、という事実を知っていれば、このわずかな描写に込められたものの重大さが伝わってくる。

 ドンソクさんと用心棒のイメージは非常に相性が良く、スジンや子どもたちを借金取りや様々な暴力から守るマークは、まさしくヒーローそのもの。弱者に手を差し伸べ、心を通わせるという行為を文字通り「手を繋ぐ」というアクションで描き、「腕相撲」というこれまた手を繋ぐスポーツとリンクさせて描く終盤の演出がなんとも巧い。そしてクライマックス、マークが隠してきた心情をついに吐露するシーンで、こちらの涙腺を緩ませる。奇をてらわず王道な造りながら、これまでの積み重ねが丁寧だからこそ、ズシンと効いてくる。アツくて泣けて、スポーツ映画らしい爽やかな感動が押し寄せる一作だ。

作中、スタローンの名前が登場します。

関連記事


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

いただいたサポートは全てエンタメ投資に使わせていただいております。