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運転手の評価は☆5で。『イコライザー2』

 昼間はホームセンター勤務、夜はダイナーで本を嗜む男、ロバート・マッコール。その正体は、悩みを抱えた夜の住人たちを手助けし、陽の当たる世界に送り返す「イコライザー」だった。弱きを助け強きを挫く。その過程でロシアンマフィアがまるごと壊滅させられたり、ホームセンターが凶器の見本市と化したりと、さながらバイオレンス版「夜回り先生」なまでの勧善懲悪ぶりに、鑑賞後は心が晴れやかになったものだ。

 あれから4年、一時は降板が噂されたアントワーン・フークア監督が続投し、これまでのフィルモグラフィーでも初となる続編に挑戦。主演はもちろん、俺たちのデンゼル・ワシントン兄貴。共演は『キングスマン ゴールデン・サークル』のペドロ・パスカル。闇の仕置き人イコライザーの復活に心踊らないわけがなく、意気揚々と劇場に向かった。

元CIAエージェントのロバート・マッコールは、タクシー運転手として働く傍らで、悩める人々を救う活動を続けていた。そんなある日、マッコールは元上官であるスーザンと再会するのだが、直後に彼女が何者かに殺害されたことを知る。独自に調査を続けるマッコールは、スーザンが関わっていた事件の関係者が狙われていることを知り、自身にも危険が迫っていることを悟る。敵は同じ元CIAエージェント。殺しのプロとの戦いを前にマッコールは、ハリケーンが近づく田舎町に彼らを誘い込み、復讐を果たすべく力を振るう―。

 ハリウッド版『必殺仕事人』ことロバート・マッコールの活躍を描く第2作は、冒頭から「これが観たかった!!」と誰もが思うであろうシークエンスから始まる。列車内に居合わせた、静かに読書を嗜む大男。よもや彼がロバート・マッコールだと知らず、彼の警告を無視したばっかりに、悪者たちが秒で倒されていく。その際の大胆なシーンの省略やマッコールの神経質な一面にビビる悪党の描写など、これぞ『イコライザー』と言わんばかりのシビれるオープニングが炸裂する。

 これまたシリーズのお約束として、序盤は大きな事件が起こることもなく静かな日常場面が描かれてゆく。職業を変え、タクシー運転手として働くマッコール。それに乗り合わせた乗客たちの人生の悲喜こもごもに、マッコールは優しい視線を絶やさない。他者の気持ちに寄り添い、自分のことのように受け止め、悩める者には暖かい言葉をかける。見ず知らずの人々の生き様まで背負ってしまうその器の大きさを、短い台詞と表情で物語る一連のシーンは、思わずこちらも涙してしまう。

 そんなマッコールは、前途ある若者の未来を守るために疑似的な父親役を買って出る。芸術家を夢見る、同じアパートに暮らす青年マイルズのために世話を焼く姿もまた微笑ましく、ロバート・マッコールさんの株は右肩上がりを超えて天元突破。ずっとこんな時間が続けばいいのに…と思っていると、急に険しい目つきで窓から外を眺めるマッコールさんの不吉な表情。元CIAの嗅覚は今も衰え知らずで、またしても惨劇が繰り返されてしまう。

 そうした日常描写が積み重ねられるほどに大きなギャップを生むのが、イコライザーとしての仕置き人描写。一度力を振るえば無敵、こそが観客の溜飲を下げる大事な要素であり、女の子をクスリ漬けにするクズ男たちをなぎ倒す場面では、クレジットカードでさえ武器にしてしまう。更正の機会を与え、拒否した者には徹底した鉄拳制裁。これぞイコライザー伝統芸。

 とはいえ一筋縄ではいかないのは今作の宿敵、同じ元CIAエージェントたち。すなわち、マッコールの事を知り尽くした、同じ能力と経験を兼ね備えた男たちを、マッコールは相手にしなくてはならない。

 前作のキモは、襲われるロシアンマフィアたちがマッコールの正体も経歴も知らず、「何に追われているのかわからないまま壊滅させられる」点にあったことを思えば、シリーズならではの魅力が薄れ普通のジャンルムービーになったのでは、と一瞬危惧してしまう。しかし、実際のクライマックスバトルでは、思いもよらぬ別の面白さが浮上してくる。

 ハリケーンが迫る人気のない田舎町を舞台に、とある因縁の建物に籠城するマッコールと、彼を追う宿敵たち。視界不明瞭、立っているのもやっとな悪天候での戦闘を余儀なくされるCIAエージェントが、一人、また一人と討ち取られていく。そう、マッコールさんはついに天候さえも己の武器としてしまい、迫る敵を暗殺していくのだ!相手に気づかれず忍び寄り、素早い手つきで惨殺していく。さながらジェイソンやフレディのようで、後半はホラーへと大胆なジャンル転換が行われる『イコライザー2』、一粒で二度美味しい。

 誰よりも優しく、誰よりも強い最強の用心棒ことロバート・マッコール。虐げられる者を守るために人を殺めてきたヴィジランテが、私欲のために殺しを営む元同僚と戦う。それは己の分身との戦いであり、同時に若者の未来を守るための、尊くも苦しい殺し合い。その果てに待つ哀愁漂う漢気に、前作同様ノックアウトされてしまった。

 まさしく時代劇的な勧善懲悪で、日本人受けする要素満載の本シリーズ、どうか末永く続いてほしい。「正義」とは何かと悩むアメコミヒーローだって大好きだが、殺すしかない絶対の悪を描き、それを完膚なきまで叩きのめすヒーローだって、まだ必要とされるはずだ。救いを求める者のためにダイナーを訪れる闇のヒーローを、どこかの誰かが望む限りは。

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