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『ガールズ&パンツァー 最終章 第4話』いずれ来る“継承”のために。

 ガルパンを観た後に「ガルパンはいいぞ」と呟くことは最早お約束だが、何もこれは思考停止でやっているオタクの内輪ネタなどではなく、圧倒的にヤバいものを観せられて自身の語彙力が追いつかなかったり、そもそも視神経や脳の限界に達した時に発せられる辛うじてのワードはこれなのだ。

そう、「物足りない」。第1話では舞台設定(戦う動機の説明)と新キャラクターのお披露目を第一幕に、BC自由学園との決戦の一部が第二幕に置かれており、それらを47分という尺で走り抜けた。本編尺はTVシリーズ2話分に相当するため、今回は『ガルパン』2期の幕開けとしての印象が強く、全12話のTV放送が全6話の劇場公開に置き換わったものとして感じてしまったこともまた事実。

究極の生殺し『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』

 過去の自分の文章を読み返していると、1話の段階で、私は「物足りない」という言葉で締めていた。誰か、この愚か者を殺してくれ。この全6話からなるプログラムを、TVシリーズのバージョンアップ版の特別上映だと誤解していた阿呆を、雪の園に埋めてくれ。この男が6年後に観るそれは“アニメならでは”の極限に手をかけようとする意地と根気のフィルムにして、まだ誰も観たことない映像表現へのプリミティブな喜びに包まれ「いいぞ」としか言えなくなる、そんな「映画」なのだから。

※以下、本作のネタバレを含む。

 冬季無限軌道杯準決勝。継続高校との闘いは、序盤にして大洗絶対のエースあんこうチームの陥落という史上最大のピンチから幕を開けた。実質的な隊長を失った大洗は混乱に突き落とされる……と思いきや、彼女たちが動揺するシーンは思いの外短い。数々の激戦をくぐり抜けてきた大洗の戦士たちは、もはや自分たちで考え、行動できるまでの経験を度量を兼ね備えていたのである。指示待ち人間に陥ることなく、一人ひとりが考え有機的に作戦を始動させられる大洗チームの若手たちの姿は、一介のサラリーマンとしてこんなに羨ましいと思えるものはない。

 みほの助言は期待できない。ならばと先陣を切ったのは、卒業を控え「いずれ去りゆく」立場にある生徒会長の杏だった。危機的状況に陥った後輩たちを一度はまとめ上げ、それでいて主導権や考える隙を与え、アイデアに伴うリスクや時間などを明確化させるよう促す。あえて全ての言葉に疑問形で返し、後輩たちに冷静さを取り戻させるように務める杏の姿は、生徒会長として学園を支えてきた彼女の手腕の現れであり、同時に後輩を育てようとする意図があったことを、観客は自然に受け止められたはずだ。

 そう、この4話は徹頭徹尾、その話をしている。大洗はみほという精神的支柱を除いても動けるチームになることを求められ、澤梓が次期隊長になるだけの器の持ち主であることが今話でさらに強調される。継続のミカは一年のエーススナイパーであるヨーコを重用しつつ彼女の弱点をも見抜いており、ダージリンも「後輩に経験を積ませる」闘い方を重視する。

 そして、託された者という意味では現在進行系の俺たちの逸見エリカ。これまた絶対的エースで有り続けた西住まほの後を継ぐ者として巨大な期待を背負い、無限軌道杯を勝ち抜きつつも「自分なりの戦車道」に迷い続ける様子が前回描かれていた。が、ジョッキでノンアルコールビールを飲み干すエリカの勇姿に、その迷いは感じられなかった。強豪・聖グロリアーナを前に一歩も引かず、地形を活かした大胆な策に打って出る彼女だが、仲間の救援のために陣形を形作る決断を下した点に、TVシリーズから今に至るまでのエリカの心情の変化が胸を撃つ。

 仲間を見捨てないエリカのやり方に、全力の信頼を捧げる小梅やエミたち黒森峰。そんな逸見流戦車道はついに花開き、わずか2秒の差で敗退はしたものの、あの聖グロのフラッグ車を撃破というこれ以上ない実績を手に入れた。島田愛里寿という超特大級のジョーカーさえなければ、決勝戦の組み合わせはおそらく違った結果になっただろう。逸見エリカが良き隊長として花咲かせ、黒森峰はもっと良いチームになる予感が芽吹き、次世代はぐんぐん成長していく。一介の逸見エリカファンとして、感無量である。

 して、大洗戦車道チームの急成長の伸び代に驚き、そして前代未聞の「『大脱走』の面白いところ全部やる」「戦車でゲレンデでスキー」の異常映像に脳がショートしていたのか、これまで何度も伏線は張られてきた島田愛里寿から西住みほへのリベンジのことをすっかり忘れ、聖グロの制服を着た彼女のショットに劇場で出してはならない音量で「えっ」と漏らしてしまった私なのだけれど、みほと当たるならここだろうと聖グロを選ぶ愛里寿の頭脳というか、先見性に改めて畏怖するし、『ガールズ&パンツァー』というアニメを終わらせるには大洗VS聖グロしかない!という作り手の判断に、もう感服といった次第である。

 大洗の成長は一番肝心の川嶋桃を除き充分に果たされた。では、ある種の心残りとして宙に浮いていたのが作中最強クラスの聖グロへの勝利を勝ち取ること。大洗は廃校の危機を乗り越えたが、学校は、そして後輩たちの青春はまだ続く。大洗戦車道チームがより強く、ずっと長く存続するために(忘れがちだが、バレー部のように廃部のシステムはまだ存在する)、もっともっと高みを目指さなければならない。そうなれば必然、壁として立ちはだかるのは聖グロである。

 およそ二年置きに新作が公開され、観る度に「待たされた甲斐があったな!!」で劇場を後にするのも風物詩となったガルパン最終章だが、マジのマジでゴールが見えてきた。残り2話、VS聖グロで4年を戦い抜き、ファンもまたそれに応じようとするのだから、本当に熱量の高いコンテンツである。何はともあれ、これを見届けるまで死ねない!という位置にまでのし上がったという意味でもう一つのエヴァというか、それくらい重要な作品になってしまったし、この4話で自ら大きくハードルを引き上げてしまった映像表現のワンダーについても、再び更新することが出来るのか、期待と不安が入り交ざっておかしくなる。

 そして何より、名実ともに「おじさん」になってしまった我が身を振り返り、今から2年後そして4年後、何の憂いもなく公開日に劇場に駆けつけられる身体でいなければと、健康には気を遣わなければならない。彼女たちはノンアルコールを嗜むようだが、こちらは大人の飲み物がなければ毎日をサバイブできない痛みを抱えているので、身体も“それ相応”に近づきつつある。子どもの運動会で恥をかきたくないとジムに通い始めた先輩のことを思い出しながら、『ガルパン』のために自分もジム通いを始めるのもどうだろうと、入会金とにらめっこする日々が始まるのであった。

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