第1465号 郷土の偉人を調べるきっかけに

1、読書記録346

本日ご紹介するのはこちら。

https://bookmeter.com/books/21702804

古田義弘2023『仙台領に生きる 郷土の偉人傳Ⅴ』

住宅問題評論家から郷土史家へと変遷した稀有な経歴の持ち主の著者。

あとがきには米寿を迎えた、とありますからそのバイタリティに驚かされます。

しかもすでに郷土の偉人傳も5冊目ということ。

やはり継続することは素晴らしいですね。

2、文化人により惹かれる

既刊でも江戸から明治大正昭和の偉人たち、身近であって名前は聞いたことがあるのに、意外とよく知らない、そんな人々を取り上げて簡潔に要点をまとめて紹介しています。

コンパクトな冊子形態に15名分を掲載しているので、必ずしも生誕から最期まで詳述しているわけではなありません。

その人物のハイライトで、唐突に終わって、続きが気になる、という項目も少なくありません。

この号で紹介されているのは、仙台を代表するデパートの創業者、藤崎三郎助から始まって、初代仙台市長の松倉惇(じゅん)、東北大学の礎を築いた本多光太郎など郷土史の副読本でもよく登場するような人物も並んでいます。

そんな中で、私がこの本を購入するきっかけとなったのは、第一に落合直文。

明治時代に活躍した歌人で国文学者です。

ちょうど小学生の息子の国語の教科書にその詩が出てきましたし、

彼の生家にも一昨年行ったことがあるので、気になる人物でした。

落合直文はもともと伊達家の重臣鮎貝家の生まれで、

国学者の落合直亮(なおあき)の養子となったのです。

鮎貝家はもともと山形県長井の出身でしたが、江戸時代に現在の気仙沼市に所領を得ます。

居城としていた屋敷は煙雲館と呼ばれ、現在でも子孫が屋敷と庭園を守り伝えているのです。

本書で紹介されているエピソードのうち、印象的だったのは正岡子規との関係性。

新聞への連載記事の中で、直文の短歌を厳しく批判していたそうです。

ちょうどその頃、子規は持病が悪化し、リンゴの果汁しか喉を通らない、という状態だったらしく、それを聞いた直文はリンゴを贈ろうとしてたところだったといいます。

今送れば自分への批判が鈍ってしまう、と考えたのか贈るのを躊躇っているうちに、りんごは傷んでしまったとのこと。

直文の人柄がよくわかるエピソードです。

そしてもう一人気になったのは二階堂トクヨ。

日本女子体育大学の礎を築いた人物です。

彼女は2019年のNHK大河ドラマにも描かれ、とても印象的でした。

そして宮城県の大崎市三本木には彼女の先端の地として顕彰碑が建てられているのです。

当初は体育が嫌いで、国語科の教師を志していたトクヨが体育の教育を学ぶためにイギリスに留学し、

ただ体を動かすだけではなく、楽しさを教えられるようになったのはドラマチックな展開です。

これは次は大河ドラマではなく、朝ドラにヒロインになれるのではないでしょうか。

女子体育教師育成のため、自ら学校を設立したトクヨ。

この学校ではチャイムも鳴りません。出席簿もありません。何の資格も取れません。しかし、体育教師としての指導力を身に着けて卒業することは私が責任を持ちます

と語ったといいます。

志を遂げるため、自ら学校を設立する教育者も素晴らしいですが、それに応えようと学ぶ学生たちがいたこともすごいですよね。

100年前の学究者たちの生き様からは学ぶことが多いですね。

3、郷土史家の矜持

いかがだったでしょうか。

専門書ではなく普及のための冊子なので

参考文献は巻末にまとめられているだけで、どの記述がどの文献をもとにしているかは一見分かりませんが、

郷土の偉人、というテーマで5冊もシリーズを続けられるのはその編集力を評価されているからでしょう。

郷土史家、その面目躍如ですね。

本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

最後に宣伝です。

私も少し執筆している、松島のガイドブックが発売になりました!

ぜひお手に取っていただければと思います。


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