第269回 城館と街道からみる地域史

1、論文を読んでみよう Vor.1

東北学院大学の竹井英文先生から論文集をご恵送いただきました。

『東北文化研究所紀要』第50号

掲載されている規約を観ると、この研究所は東北地方の文化を調査研究し、その向上・発展に寄与することを目的として昭和48年に設立。

東北学院大学の教員と各地で活躍するOB達が運営と寄稿しているようです。

以前から論文を読み解くフレームワークをnoteでやってみようと宣言していたのでこの機会に挑戦してみようと思います。

2、東北学院大学の層の厚さがわかる目次

熊谷公男 「陸奥国上治郡考」

竹井英文 「中近世移行期利府地域史の研究」

岡陽一郎 「地域認識と幹線道路-いわゆる「あづまかいどう」を材料に-」

榎森 進 「ロシア国立サンクトペテルブルグ図書館所蔵「安永七年の津釜婦・しよんごおとな宛、蝦夷地奉行発給文書」に関する若干の考察」

中川正人 「「学都仙台」-その“学都”観をさぐる-(その二)」

野﨑準 「三条・粟田口と刀匠伝説-都からみちのくへの入り口に-」

酒井宣昭・中村淳一 「宮古市川井における地場産品を活かした地域づくり」

高野岳彦・中里明季 「〈地域調査報告〉長面浦の漁場利用と漁家経営の復興-少数精鋭漁村への展望― 」

佐藤和賀子 「沼倉たまきの生涯と業績-「米川新聞」(一九五一~一九六五)からみえる戦後東北の農村社会-」

佐々木和博 「国宝「慶長遣欧使節関係資料」木製鞍・鉄製鐙再論 -文禄の役との関わりを探る-」

いかがでしょうか。

考古学から古代・中世・近世・近現代と幅広い時代の歴史と現代の地域研究まで多様な研究論文が掲載されています。

気になる論文があった方は大学の付属図書館など大きな所でしか所蔵されていないかもしれませんが、お手に取ってみてはいかがでしょうか。

また東北学院大学はリポジトリという、学術情報の公開に力を入れているので、少し待てばそちらで全文見ることができるようになるかもしれません。

3、初のフレームワーク

さて本題の論文です。早速フレームに合わせて紹介します。

**①どんなもの **

現在の宮城県利府町域をフィールドに、城館と街道をメインテーマとして考察して、その地域の戦国時代から江戸時代初期までの空間構造の変化を明らかにしたもの。

**②先行研究との違い **

単に政治史を追うのではなく、地域に残る遺構(お城や石碑、寺社)や古文書の記載などの情報を総合的に把握することで具体的な空間構造を探ったもの。
利府町域では本格的になされたことはなかった。

③技術や手法のキモは

まずは竹井先生自ら学生さんと行った縄張り調査。

そして古文書に記された断片的な情報とフィールドワークで得た知識を組み合わせること。

関東などですでに実施されてきた同様の分析結果との比較。
**
④有効性の検証**

陸奥国府として栄えてきた岩切から利府へ城下町が移転したこと、

伊達家の影響力が強まり、勢力図が変化してきたことにより、主要な街道変化したこと。

利府の位置づけが次第に低下し、交通の要衝としてではなく、鷹狩り場としての役割が大きくなったこと。

これらを資料に基づいて説明したという有効性があります。

**⑤議論はあるか **

手法の有効性については議論はないでしょう。

あるとすれば県内で同様の研究がなされた地域が少なく、比較研究がまだできないということ。

⑥次に読むべき論文は

・三好俊文2015「戦国時代後期における宮城郡・黒川郡の交通について」『仙台市博物 館調査研究報告』第36号

竹井氏も街道の変遷についてこの論文から着想を得たようです。

・新井浩文2011「戦国期幸手領における領域概念と宗教」『関東の戦国期領主と流通- 岩付・幸手・関宿-』岩田書院

利府の自性院でも見られた戦国時代の修験道の勢力拡大について記載されているとのこと。

わが町にもかつて修験道系の寺院が影響力を持っていた時代もあったかもしれないと気づいたので読んでみようと思います。

最後に、竹井先生のスタンスを紹介すると、

出典を明記すれば縄張図の引用転載は自由とする

これにより次の研究者は竹井先生の書いた図を持って現地に行き、検証することができるのです。

4、企画は継続できるか

さて、いかがだったでしょうか。

出来るだけ専門用語は使わないように、

要点を簡潔に、というところに注力したつもりですが、

伝わるでしょうか。

人文系の論文をこのフレームに当てはめること自体がどうかということももう少し続けてみて検討してみたいと思います。

専門家の方からの、厳しい指摘でも構いませんし、

難しくてわからん、という感想でもいただけると次回の改善につながりますので、遠慮なくコメントしてください。

#毎日更新 #歴史 #コラム

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