empathy


いつしか視た夢。起き抜けは暖かく、柔らかだった。ぼんやりとした夢現の中で何故か涙が頬を伝っていた。
瞼を閉じて、その裏で思い起こす記憶。
ショートフィルムのような色調で甦る。ほの明るい寝室のベージュ。薄ピンク。イエロー。三色を、柔らかな水で薄く溶いて空間に零して、広げたような小さな部屋。
誰かが強く、だけどやさしく何かを込めたように私の手をベッドの上で握りしめている。
通じ合ってひとつになった心と心。抱きしめあったこころとこころ。
なんとなく、わかっている。
私は、わかっている。
きっとこの人も、わかっていたらいいのになあ。この同じ夢を、やさしい夢を、頭の中の映画館で眠る前に視ていればいいのになあ。
誰かが上から覗いている。見せている。
いつかこれが、ほんとうになればいいのになあ。
目を醒まして、抱きしめられて骨の髄まで持っていかれた私の心体はぬけがらで頼りなくぼうっと忘失している。記憶喪失とかそんなことではなく。存在を確かめるかのように自分の体を抱き締めた。私は誰かだったんだ。
愛おしいにんげんたちに、やさしい誰かが幸せになれと魔法をかけている。
何の為に生まれてきたのか。その意味を知る。
呼び起こす。記憶を呼び起こしてまた夢をみたいと希う。

生まれた言葉は、離して解けた手の指先から砂上に落ちていく。
砂上に落ちてまた宙に舞う。今日も言葉を失って落としてしまわないよう、かき集めては留めている。心の中。

2022/04/27

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