見出し画像

反ワクKARESHIと不親切な女③

男女の別れ話第3弾です。やっと別れるよ。
雨の祝日、今季はじめて暖房を入れ、膝にはおキャット様がのっております。そろそろ膀胱が限界なのと、歯列矯正のワイヤー調整に出かけなければならないのに。明日からまた咀嚼に難ある日々が続きます。さて、

反ワク・爆スピ・反ゴム
役満KARESHIの愚痴を周囲に振り撒き、なすべきことはあと一つ、ではあるが。その前にしたいことがあった。

私にKARESHIを紹介してくださった野郎の聞き取り調査だ。
この御仁は美容師で、私が高校生の時から髪を切ってもらっているので、かれこれ15年以上の付き合いがある。ついでに私は三姉妹の長女なのだが、次女、三女ともにこの美容師のお店に通っていた。美容師こと豆さん(45歳)は豊原功補にトータルテンボス藤田さんを添えましたという面持ちで、近頃は脂が削げて飄々としている。安心できるおいちゃんポジションだった。ここ1年ほどで呑み仲間となり、妹夫婦宅のホームパーティに現れたり、三女の彼氏になったりした。
三女と付き合うことになったと聞かされた時は、一回り以上離れた娘っ子に手を出しやがってと思わないでもなかったが、三女は社会性がある真っ当人間なわりに暴走機関車でもあるので、その暴走っぷりをうまく減速させ宥める様子を見るにつけ、妹が大変お世話になっておりますという心持ちに変わった。

「あいつ馬鹿だよなあ」

いつもの居酒屋での豆さんの開口一番。あいつとは勿論KARESHIのことで、KARESHIと豆さんは幼馴染である。保育園からの仲だという。45歳の保育園時代に思いを馳せそうになったがそれよりも

知っとったんかい。

「あいつさあ、人工地震の研究?とか信じてて。人工地震の予言日に、元カノに休みとらせて2人でカフェに居たらしいよ」
地震起こらなかったけど、とお猪口を手にする。
よくもそんな人を紹介してくれたなと恨み言を言いたくもなったが、正直、真偽を確かめようのないことを妄信していることはどうでもよかった。よくはないが、他方のよくない部分が自分にとっては重大だった。
美味しそうに盛られた刺身を眺めながらKARESHIの避妊非協力ぶりを愚痴る。あと女体を使って自慰行為をするかの如く、独りよがりな致し方も嫌いだと吐露する。幼馴染の性事情は知りたくないもだろうがこれは半分八つ当たりだ。大好きな鰹に手もつけずとにかく喋った。

それは流石に知らなかったと、豆さんは少し顔をしかめた。

「あいつがやばいのは、その通りなんだけど。女性に対する考え方も古いね。認識をアップデートしなきゃって思ってもないと思うよ。でもさ、『それ駄目だよアウトだよ』って言ってくれる人が必要だと思ってさ」
教育するつもりでさ、諭すように私に言った。

悪いやつじゃないんだよ、としきりに豆さんは言う。
それは私も分かっている。私の描く絵が好きだと言って、彼のLINEのアイコンは私のイラストだった。興味がある分野は割合似ていて、博物館と美術館をはしごした日は本当に楽しかった。
人間と人間、価値観が違うのが当たり前で、お互い違う人間なんだと認め合って生きていけたらそれでいい気もする。だがしかし

だっっっっっっっっる。だるすぎる。

口に出していた。

だるいかあ!と豆さんが笑う。
聞けばKARESHIの周囲はKARESHI本人に「いつまでそんなことを信じてるんだ」と常々言い含めているらしい。そんでもってそれが一連の流れと化しているのでKARESHIは嬉しそうにしているとのこと。コントじゃないのよ苦言なのよ、と私も酒をあおる。
幼馴染連中が常日頃伝えているのに、ぽっと出の彼女に聞く耳をもつだろうか。何より私は彼の母ではない。そこまで面倒をみるつもりはない。
つい先日、私は部署異動があり、不勉強である福祉の業務に就いた。DV、虐待、障害、孤独死、そういった単語が人ひとりの顔と人生がのって自分の目の前に現れ、とにかくいっぱいいっぱいだった。異動初日に安否確認で現場に出て、警察と消防と一緒に訪れた家の、部屋がゴミで埋め尽くされている様、食べ物と埃と時間が堆積された臭いが忘れられなくて打ちのめされていた。
そんなだから、KARESHIのとんちんかんさに追いていけない、気持ちが割けない。教育だなんて、そこまでの親切心は持ち合わせていない。
勝手に育って勝手に健やかに生きてくれ。

はい!ここまでは幼馴染としての発言!と、手を打つ豆さん。カウンターと小上がり2席の小さな居酒屋にとてもよく響いた。ここからは15年来の仲としての発言〜、と仕切り直したように豆さんが声音を変える。

「別れるんだったら全然いいよそれがいいよ。まだまだ紹介したい人が居るから」
今度は同年代がいい?陶芸家とかどう?工房に籠る時は音信不通になるけど等とプレゼンされたが丁重にお断りした。大振りの牡蠣が出てきて、つるんと食べた。

そしてその数日後にKARESHIに別れを告げるわけだが、ここまで長くなったので割愛、というか別れ話は電話5分で終わった。
避妊をしぶる人は無理!以上!だった。
何だかんだ声は震えてしまったが、電話切った後の開放感は筆舌を尽くしがたかったひゃっはー。

次の日は休みだった。久々に何の予定もない土曜日だった。明日は時間を気にせず寝ようアラームも切ろう。秋晴れとの予報だし、車でどこか出かけようかな、散歩してもいいかも、と夏用から秋冬用に変えた布団に包まれながら眠った。

ガッ、ガッ、チュイーーン‼︎
ガッ、ガッ、チュイーーン‼︎

けたたましい音で目が覚めた。家の1階で作業音と知らない人の声がする。
そういえば床のリフォーム業者が入ると母が言っていたような。
今何時だよお、と思いスマホを見ると、父から「家を出る時お前の車を擦った。すまん。」とLINEが入っていた。

ふおおおおおおおおおおお。

KARESHIと別れても大団円は迎えず週明けの仕事は依然きつく、これからも自分の未熟さに日々やられ過去の恥ずかしさを今のことのように思い出し悶絶するだろうが、土曜日の午前中は天高く馬と猫肥ゆる秋。リフォームしたのに段差の増えた実家を出て傷のついた愛車で古墳まで遊びに出かけたのだった。


長くなりました、完。
次回、後日談。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?