F1 2023 サウジアラビアGP観戦記「その領域で」

2023年のF1グランプリはたったの2戦を戦っただけだが、わかったことが2つある。
1つは2023年はレッドブルの年であるということ。
これは複雑極まりないパワーユニットの世紀になってからメルセデスが統治していたF1グランプリの実権が2年間の争乱の時代を経て、印璽の所有者がレッドブルに移ったことを示している。
2023年のF1はレッドブルがその重力の中心となり、各チームは衛星のようにぐるぐるとまわることとなる。

レッドブルという磁場をぐるぐる公転すると各チームは、それぞれぐるぐる自転もしている。
不規則で暴力的な自転を。
フェラーリは車両コンセプト責任者のデイビット・サンチェスの離脱が明らかとなり早くも人事にまつわるゴダゴダが発生してる模様。
メルセデスについてもここ2年間の彼らが大事にしてきた「ゼロポッドコンセプト」について軌道修正する決断を下した。
アストンマーチンのようなニア・レッドブルの装いになるのかはまだ不明だが、少なくとも彼らがゼロポッドコンセプトを全うするために積み重ねてきた膨大な時間は帰ってこないことは明白。
追う立場の2チームがこんなことでは、ますます今年のレッドブルの逃げは成功する可能性が高まるだろう。
制御できない自転は限りなくレッドブルに利をもたらす。

そんな状態のグランプリを盛り上げるのは、開幕戦の影のMVPでもあるアロンソ×アストンマーチンのコンビネーションだ。
ヴェースタッペンがドライブシャフトのトラブルで予選15位というまさかの順位に沈む中、アロンソの駆るAMR23はフロントローに滑り込む。
開幕戦バーレーンでの速さがフロックでないことを証明してみせた。
流石にもう一台のレッドブル、セルジオ・ペレスには届かなかったもののフェラーリ、メルセデスの4台を抑えてのこの順位は驚異的というしかない。
少なくとも開幕からのフライアウェイのマイアミあたりまではフェラーリ&メルセデスに対してアストンマーチンの優位性はたもてるのでは無いだろうか。

レースの展開としては、アロンソの蹴り出しが素晴らしくターン1でペレスをかわすことに成功。
アロンソのレース勘はまだまだ一級品であることを魅せつけるような鮮やかなドライブ。残念ながらスターティングポジションが規定位置よりずれているということで5秒加算のペナルティが下されたためアロンソのリーダーラップは4周目で終わってしまったが、それでもアロンソのテクを存分に堪能できた濃密は4ラップだったと言える。

開幕戦からこの手の厳しすぎるとも言えるペナルティ判定が続いているが、果たしてこれがF1のためになっているかというと疑問だ。
ハミルトンも序盤にストレートのムーブが警告を取られていたが、ワンムーブは正当なディフェンスである。
レースの面白さがスポイルされて、わかりやすい「正義」や「フェアプレイ精神」が前面に出て来ることを私は望まない。
それはスポーツの世界では歓迎されることであり必須のものであるが、我々が愛しているのは「モータースポーツ」である。
そこにはある種の狡猾さがスキルとして尊重されるべき世界である。
漂白された世界は確かに商品としては売りやすいが、それも度が過ぎれば非人間的であそびがない硬直した世界となってしまう。

後方からスタートしたヴェースタッペンはそのテクニックとレッドブルの車体の優位性を持ってあっという間にトップグループに襲いかかる。
予選が台無しになってもあっさりとこのポジションに戻ってこれる。
これが覇権をとったチームがなせる技だ。
これはもはやカテゴリが違うレースの混走を見ているようだが、その責任は当然ながらレッドブルにはなく、他の9チームが負うべきものである。
ヴェースタッペンはそのサラリーに相応しい仕事を遂行したのに過ぎない。

中盤にアロンソを交わしたヴェースタッペンはトップを走る僚友のマシンをひたすら追う。展開次第では(まだ2戦目とはいえ)ポイントリーダーから陥落するので出来ればトラック上で仕留めておきたい、それが出来ないのならファステストラップでポイントをとっておかないといけない。

ここで1点を、わずかに1点をとること、とれることがF1ドライバーとして、世界にわずか20席しかないシートに座れる条件なのではあるまいか。
サウジアラビアGPを見ていてわかったことの2つ目は実はそれである。
どんな展開であってもチームの期待に応える。
チームの期待に応えるということは、その背後にいるスポンサーの期待に応えることであり、ひいてはファンの期待に応えることである。
絶体絶命、土壇場、色々と形容詞はあろうがいわゆるそういう状況、「ミッション・インポッシブル」な展開で任務を遂行する。
300kmにわたるレースをやってきて、その一瞬、一点、一ポジションにこだわらないとダメな局面。そこで何ができるのかが、F1ドライバーの価値に直結するのだろう。

中盤、チーム毎にポジションが並ぶ面白い状況になった。
モータースポーツは残酷だ。使っている道具の性能が如実に順位に表れてしまう。
その中でアルファタウリだけが、その並びがバラバラであった。
3年目、チームを引っ張る立場となった角田が10位、新人のデフリースが15位。
これだけ見ても角田はよくやっている。
道具の性能からしてみれば、最後尾を走っていてもおかしくはないと言われている今年のアルファタウリ。そんな道具でポイント圏内でドライブさせるのは至難の技であろう。
様々な関係者が今年の角田について、その姿勢も含めて高い評価をしているのにも頷ける話である。

ラスト5周。背後から迫るマグヌッセンの駆るハースに角田はポジションを奪われる。
マグヌッセン/ハースも開幕戦はノーポイントに終わったドライバーでありチームである。
彼らも当然ながら背負っているものがある。
ここの1点を奪えるか、取られるか。

同じ頃、ヴェースタッペンはドライブシャフトにトラブルの兆候が出たクルマで懸命にファステストを狙う。
ペレスをかわすことはもう不可能。ファステストをとらなくてはリーダーとしてサウジアラビアを後にすることはできない。
チームはラジオで無理をするなと言う。当然だ。万が一のことがあれば2位のポジションも失ってしまう。
それでもリーダーとしてこのグランプリを終えたいヴェースタッペンはチームの心配をよそにファイナルラップでファステストを叩き出す。

更に同じタイミングで、アストンマーチンはアロンソに奇妙なオーダーをする。
念の為にペナルティ消化分の5秒の確保をするべく4位ラッセルとの差をコンマ1秒稼いでくれ。ファイナルラップで出たオーダーにアロンソは見事答え、短い距離でコンマ1秒をポケットから取り出してチェッカーを受ける。

このケースを持ってして、11位に終わった角田を批判する気は毛頭ない。
あのクルマでよくやっている。
だが、角田がこれからもグランプリでポジションをキープすること、そこで尊敬されること、そしてポディウムの最上段に立つことを望むなら、最後の1ミリの領域でマジックを起こさないといけないのだろう。

まだ残り22戦。
グランプリのあちこちに落ちている魔法の欠片が煌めく瞬間を追い続けていきたい。

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