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構造デザインの講義【トピック4:鉄・鋼による構造とデザイン】第1講:経験から科学へ

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



建築のデザインと科学の出会い

ルネッサンスがもたらした構造とデザイン

古代より、人類は身の回りのモノ(自然材料)を使い、構造を考え、建造物を作ってきました。
一方、古代の建造物は、構造と力学が十分でなく、自然災害の脅威にさらされて崩壊・倒壊の歴史を繰り返してきました。
パンテオンにおける力学の理解と建造技術による構造のブレイクスルーは、中世のフィレンツェ、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂で昇華しました。
その後、ミケランジェロによるサン・ピエトロ寺院では、崩壊に対する科学的アプローチが導入され、自然科学への信頼が高まりました。

サンタマリアデルフィオーレ大聖堂の尖塔ドーム、二重殻、引張リング
サン・ピエトロ寺院(pixabay)の崩壊荷重による科学的アプローチ
(写真:PhotoAC, https://www.photo-ac.com/
Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

万物の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ

万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチは、ヘリコプター、飛行機、工作機、そして建物や土木構造物などで、先験的で斬新なアイデアを手記に残しました。

フィレンツェにある科学博物館では、ダ・ヴィンチのアイデアと功績を学ぶことができる
万能の天才は、構造力学の原理原則を示し、今日の学問・設計・技術を支えている

建築、構造、力学、数学に関連して、力のモーメントの概念、力の合成、アーチの推力、梁の耐力、仮想仕事の原理など、基本的な力学問題をはじめ、てこや滑車、斜面と摩擦、くさび、ねじなど、建築の建造技術に通じる原理なども駆使し、応用しました。
それらは、自然の摂理や現象を理解し、自ら実践することで物理学を支配していたとも言えます。
「およそ彼の手が触れたもので永遠の美に変じないものはなかった」と評され、人類の文化的財産ともなる芸術作品を世に多く残しました。


材料力学の祖、ガリレオ・ガリレイ

材料力学の祖とも呼ばれるガリレオ・ガリレイは、ピサ大学教授として教鞭を執り、ピサの斜塔において落下運動を実験したと伝えられています。
また、医学部生だった17歳のとき、天井から吊り下げられたランプの動きを観察し、振り子の周期は糸の長さで決まることを発見しました。


実験により、落下運動の速さは物体の重さには依存しない、という結論は、自然科学史のターニングポイントとなった重要な場所でもある

力学と天文学で偉大な功績をあげ、落下運動の法則、慣性の原理、仕事の概念が確立されました。
科学的真理を信じ、強い信念のもとで進めた科学的アプローチをつきすすめ、天文学の成果により、地動説を説くことになります。
しかし、法王庁より宗教裁判にかけられました。

晩年になり、材料科学の刊行物をまとめ、1638年、新科学対話が出版されました。
寸法効果、片持ち梁の耐力、梁の曲げ理論などが記されています。

新科学対話では、片持ち梁の耐力についての議論がわかりやすく述べられている
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

その後の産業革命により、これまでの経験を重視し、宗教や教会が絶大なる力を誇っていた時代は終焉を迎え、科学の時代を迎えて世の中が大きく変わることとなります。


自然科学がもたらした建築空間の意識改革

世界が残業革命で飛躍的な発展を遂げる中、建築分野においても大きな変革期を迎え、数多の材料や技術などが開花し、実用化されました。
その中でも、2つの大きな革命は、鉄鋼材料と近代コンクリートの登場と、実用化です。

特に、線形弾性と弾性力学との相性が良く、数学的に・力学的に、唯一解ける構造として、鉄骨構造の発展に、自然科学は大いに貢献し、進化を遂げることになります。
自然科学の醸成と鉄鋼材料の登場は、運命的な出会いを遂げました。

ところで、日本の建築学科では、デザインやエンジニアリングを学びますが、欧米諸国では、異なる学科で教育が展開されています。
特に、ヨーロッパでは、シビル・エンジニアリングの分野において、構造デザイナーが活躍し、建築分野でも著名な構造デザイナーが活躍しています。
それは、大スパンや巨大な建造物の構造・力学、そして設計・デザインの基盤が高度に確立し、融合して実践されてきた歴史から、その潮流を理解することができます。


教会や宗教という存在は、中世から古代、教会が文化や文明などの中核を担っていた時代、現代の我々の想像以上に当時は尊厳であり、畏怖の念を抱き、心の拠り所であったと想像されています。
現代人が、観光名所として訪れる時の感覚とは、異なったものと考えられます。
そのような中で、学問が発展し、教育が普及し、自然科学、人文科学などの発展は、社会的通念や生活様式などの変革がもたらされました。
産業革命により、パラダイムシフトは決定的なものとなり、人々に与えた影響は甚大なものであったと想像されます。

このような時代背景と推移を考えますと、産業革命が建築分野にもたらした建築技術の発展や高度化、工業化は、これまでの大聖堂や教会などの壮麗な大空間の表現から、鉄鋼材料やガラスによる豪奢で繊細で透明性の高い空間表現、RCによる有機的な曲面構造の出現は、大変な驚きをもって迎えられたことも、容易に想像されます。

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