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【詩の森】589 逃げ口上

逃げ口上
 
自己責任ということが
いわれ出したのは比較的新しく
新自由主義以降の
ここ四、五十年程のことだろう
「それはお前の責任だ」
といえば済むものを
わざわざ自己責任などというのは
どういう魂胆だろう
天邪鬼の僕は
勘ぐりたくなるのだ
 
広辞苑第六版(2008年)には
自己責任が採録されているが
第二版(1969年)には採録されていない
因みに第六版には
「自分の判断がもたらした結果について
自らが負う責任」とある
自己責任とは責任の所在の追求を省略して
全て自己へ押し付けるとても乱暴な言葉だ
忖度が指示者Xの存在を完全に否定するのと
どこか似ている
 
公助や共助とともに使われる
自助も自己責任の言い換えだろう
ところで自己責任がいわれる一方で
我儘も未だによく使われている
自分が責任を負うのだから
我儘でもよさそうなものだがそうはならない
しかも我儘には身勝手の他に
思い通りにするという意味もあるのだ
我儘もだめだというのに
僕らは何に責任を取らされるのだろう
 
自己責任が吹聴されると
政治責任は鳴りをひそめていく
もはや政治家は政治責任のことなど
すっかり忘れてしまったようだ
あの福島第一原発事故でさえ
未曾有の津波のせいにして
誰一人責任を取ってはいないのだ
自己責任とは
政治責任を取らないための逃げ口上
なのではないだろうか
 
2024.1.20
 

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