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【詩の森】もっと美しく

もっと美しく
 
この世を去る日が
しだいに近づいたと知って
見納めとばかりに
人は俄かに気づくのでしょうか
こんなにも美しいものが
身の回りに
溢れていたことに―――
 
年を取ると
子どもの頃を思い出すのは
なぜでしょう
きっと世事から解き放たれた心が
子どもの心そのままに
遊んでいるのでしょう
今ここは僕らのステージ―――
 
目の前に広がるのは
子どもの頃に見たままの
ときめくような景色―――
水底を走る魚のきらめき
野に咲く花の可憐な彩り
ふと振り返って見た
真っ赤な夕日―――
 
昭和30年代
小学生だった僕には
わくわくするような未来があり
老人には語るべき物語がありました
僕らはただ懸命に
今ここを生きるだけで
よかったのです
 
方便に追われて
長い間気にも止めなかった景色です
子どもの頃のときめきを連れて
心が戻ってきたのです
かつて明治の歌人が
『ありがたきかな』と詠んだ
ふるさとの山河です
 
自然を美しいと
感じるのはなぜでしょう
しかも有難いことに
僕らはその一部なのです
そう思って自然に寄り添えたなら
僕らはもっと美しく生きられる
のではないでしょうか
 

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