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【詩の森】516 大きなお世話

大きなお世話
 
檀ふみさんのエッセイに
ありがとうございません
というのがあって
面白く読んだ記憶がある
その言でいえば最近では
大きなお世話様です
とでもいいたいようなことが
多すぎると僕は感じている
 
いつだったか
元ウルグアイ大統領の
ホセ・ムヒカさんが来日したとき
泊まったホテルのトイレの蓋が
自動でひらくのを見て
日本人はクレージーだといっていた
その意味は
大きなお世話だということだろう
 
僕はかねがね
便利は人を無能にすると思っている
こんなことをいうと
天邪鬼にしか思われないだろうが
多くの人にとっては
暇ができたらテレビやスマホで
すぐに時間が潰せるのは
ありがたいことなのだろう
 
僕にはスマホがないので
電車の中では大抵本を読んでいるが
向う側の席の人は殆どが
スマホをいじっている
ときどき使うならいいが
日に4~5時間ともなると
明らかに異常だ
スマホ依存症というらしい
 
彼らは
スマホでニュースを知り
有名人のゴシップで暇をつぶし
知らない場所では
道案内までしてもらう
それに声で検索できるとくれば
スマホは有能な
召使なのかもしれない
 
しかし王様がひとりでは
何もできなくなってしまうように
召使に囲まれた生活は
人を無能にしていくのではないだろうか
便利とは手っ取り早く目的を達成する
手段のことだろう
便利は僕らが試行錯誤するチャンスを
奪っているともいえるのだ
 
イタリアのサルデーニャ島は
世界でも長寿の島として知られている
彼らは100歳になっても
オリーブを育て蜜蜂を飼い
体を使って存分に働き夜ともなれば
仲間たちと飲みかつ踊って暮らしているという
働き者で有能な人たちなのだ
彼らに便利な召使は要るのだろうか
 
衣食住が整えば
とりあえず人は生きていける
今の日本でその供給に携わる人は
およそ三割といわれる
残りの人はいわゆるサービス業だ
やろうとすれば自分でも可能なことを
専門的な訓練を積んで
提供するということだろう
 
その草分けは旅館業かもしれない
そのホテルでトイレの便器の蓋に
自動開閉装置が取り付けられたのは
いわば自然の流れだろう
おそらく多くの日本人は
便利と感じるかもしれない
しかしムヒカさんはそれを
大きなお世話と断じたのだった
 
身体が萎えて
便器の蓋の開閉さえ覚束なくなれば
確かにそれは便利にちがいない
しかしあのサルデーニャ島の住民のように
体が動かせるうちは動かすに越したことはない
頭が使えるうちは使うに越したことはない
体は使うことによってはじめて
機能が維持できるのだから―――
 
便利を求めつづけ
便利に依存することで
体は貧弱になり脳は退化し精神的に衰弱すれば
僕らは隷従の道を歩むことになるだろう
突拍子もない考えかもしれないが
僕にはスイスのダボスに集うグローバリストたちの
練り上げられたシナリオが浮かんでくる
陰謀論者といわれそうだが―――
 
2023.6.27
 

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