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『燃ゆる女の肖像』『バクラウ 地図から消された村』映画星取り【11月号映画コラム②】

あっという間に目の前には師走。しっとり、じっとりした作品で寒い夜を長めに楽しんでみては。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:果たして今年の年末は、故郷でゆっくりとクリスマスとお正月を楽しめるのか? とても気がかりです。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:実は録画リストから真っ先に見ちゃうのが「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」。何気に超キュンキュンです。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:新進気鋭の注目株、内山拓也監督の熱作『佐々木、イン、マイマイン』の劇場パンフに寄稿しております。


『燃ゆる女の肖像』

燃ゆる女の肖像/メイン

監督・脚本/セリーヌ・シアマ 出演/アデル・エネル ノエミ・メルラン ルアナ・バイラミ ヴァレリア・ゴリノほか
(2019年/フランス/122分)

●画家のマリアンヌは、ブルターニュの貴婦人から、見合いのために娘・エロイーズの肖像画の作成を依頼される。エロイーズは結婚を拒んでいたが、マリアンヌは身分を隠して近づき、肖像画を完成させる。素性を知ったエロイーズは肖像画の出来を否定し、マリアンヌは描き直すことを決めるが、意外にもエロイーズはモデルとして協力する。そんな時間の中で、二人は徐々に恋に落ちていくが…。

12/4(金) TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ 他全国順次公開
© Lilies Films.
配給/ギャガ

渡辺麻紀
「短くも美しく燃え」
ミニマムなプロットとシチュエーションにもかかわらず、大きな広がりを感じさせるダイナミックな映画。あらゆるディテールから監督の作為と創意と計算が伝わり、それが作品を驚くほど豊かにしている。とりわけ素晴らしいのは音楽の使い方とラスト。これにはもう脱帽。映画が終わっても、あの曲が頭のなかで鳴り止まず、さらにはその音楽に大きな意味を持たせたラストを巡る解釈が心をかき乱し続ける。一生に一度の愛に燃え上がる女優ふたりがもっと力強く魅力的なら99点なんだけど!
★★★★☆

折田千鶴子
まさかの展開にビックリ
クラシカルな佇まい、美しい映像、そして胸を打ち余韻を長引かせるラストの秀逸さに魅せられる。とはいえ海外の大絶賛評から期待しすぎると、前半“なかなか核心にたどり着けない”的なもどかしさ、いや、まったり具合に少々心が離れかける。ところが中盤辺りから、ドキドキ前のめりに。女の生き方、どんな選択をしても自分らしさを貫くといった、まさに今に通じるのも素晴らしい。終盤、このロマンスの胸を締め付ける切なさに涙、涙!
★★★半☆

森直人
クラシックの最新仕様
古典的な面持ちと構造の恋愛劇に、現代的な主題を熱っぽく込める。その意図が端正な形で成功していて、特に文句をつけようがない作品。同時にどこか懐かしい感触を覚えたのは、ジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン』(1993年)と、サリー・ポッター監督の『オルランド』(1992年)を同時に連想したからか。特に前者に関しては、鍵盤曲を愛の交歓の装置として官能的に使うあたり、確実にその達成を踏まえているだろう。思えばこの映画を絶賛しているグザヴィエ・ドランは、90年代こそジェンダーの問題について「鉄のシャッターが上がった時代」だと語っていた。
★★★★☆


『バクラウ 地図から消された村』

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監督・脚本/クレベール・メンドンサ・フィリオ ジュリアーノ・ドルネレス 出演/ソニア・ブラガ ウド・キア バルバラ・コーレン トマス・アキーノほか
(2019年/ブラジル・フランス/131分)

●テレサが故郷の村バクラウに戻った日から、村で不可解なことが起こる。インターネットの地図から村が消え、上空で正体不明の物体が飛行し、村の生命線の給水タンクに銃が撃ち込まれ、村はずれで村人の死体が発見される。よそ者の来訪が、村に惨劇を招く。第72回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作。

11/28(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開
© 2019 CINEMASCÓPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINÉMA
配給/クロックワークス

渡辺麻紀
「僕の村は戦場だった」
上映時間は131分で、物語の方向性が掴めるまで50分はかかっている。この内容なら90分でも十分楽しめると思ったのだが、そうすると今どきの社会問題意識が薄くなり、エンタテインメントだけが強調された、ありがちなB級映画になる危険性があると、関係者は考えたのだろうか。個人的にはそっちのほうも潔くてよかったかもしれないと思ったものの、その前半の50分が個性と取れなくもない。ソニア・ブラガの別人っぷりは役作りなのか、それともそういうふうに老けちゃったのか、気になりました。
★★半☆☆

折田千鶴子
まさかの展開にドびっくり
“国家の陰謀を描く社会派か!?はたまたドキュメンタリーか!?”等々想像しながら観たら、ビックリ仰天。何を描こうとしているのかサッパリ分からない前半でさえ、つい“なんちゅう映画や!?”と思いつつ妙に目が離せない。中盤以降はもうガン見必至! さらにラストにもう一山、薄々感じていた“え、やっぱり!?”な驚きが。カンヌ受賞が示すように色んな解釈は並べられるが、作り手の憤りが漏れ出すような映像――どのシーンも脳裏から離れないパンチ力が絶大。
★★★★☆

森直人
サプライズ連発の暴動
「今から数年後……」という冒頭のテロップから始まり、破格の近未来像が混沌と渦巻く怒濤の展開。これにいちばん近いのはブラジル映画の伝説的カルト作、グラウベル・ローシャ監督の『アントニオ・ダス・モルテス』(1969年)だろうか。西部劇を軸とした超ジャンル的な前衛性と土着性。劇画的な残虐性で固められた映画のボディに、さらにエンタメ度を加算した秀逸な後継だ。おそらくは最初からカテゴライズ不能を志向して作られ、どんな形容も許容する(呑み込む)迫力がある。バクラウとは鳥の名を指すらしいが、『異端の鳥』のウド・キアがここにも登場(村を襲撃する武装集団のリーダー)。彼は昔も今も、狂った傑作映画のシンボル!
★★★★半

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