見出し画像

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』『狂武蔵』映画星取り【8月号映画コラム③】

記号に★印を半分にしたものがないため、「0.5」の点数を取りやめていましたが、星取りライター陣のたっての希望で「0.5」表記を復活しました。0.5の大事さを痛感。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:やっぱり海外ドラマは英国の推理モノや刑事モノが面白いと思う今日この頃です。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:第一波の頃の自粛が嘘のように、よっぽど日々の感染者が多いのに、猛暑の中、取材にほいほい出かけてる毎日。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:コロナ禍の盆休み、川崎市民なので川崎市内の藤子・F・不二雄ミュージアムに家族で行ってきました。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

画像1

監督/オリヴィア・ワイルド 出演/ケイトリン・デヴァー ビーニー・フェルドスタインほか
(2019年/アメリカ/102分)

●高校卒業を目前に控えたエイミーと親友モリーは、同級生たちがハイレベルな進路を決めていることに自信を失う。成績優秀であることに誇りを感じてきた2人は、勉強で失った青春を取り戻すべく、卒業パーティーに繰り出すが…。『トロン:レガシー』などに出演した女優オリヴィア・ワイルドの長編監督デビュー作品。

8/21(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
配給/ロングライド


渡辺麻紀
女子たちのアメリカン・グラフィティ
女性監督&女子おたく主人公、さらに時代は2019年。この要素を組み合わせることで、男子中心だったアメリカの高校卒業コメディが新しくなり、爽やかかつ朗らかになった。ポイントとなる爽やかさ&朗らかさは、いわゆる敵キャラ的な存在が登場せず、いじめられる存在もなく、下品なセックスネタもほぼないところ。ガリ勉な女子たちが悶々とせずにポジティブに青春する姿は、これが初長編監督作となった優等生オリヴィア・ワイルドの経験が反映されているのかもしれない。ある意味、とても真面目に作っているので。
★★★半☆

折田千鶴子
ガリ勉JKの痛快!卒業前夜
自意識で頭パンパンなガリ勉女子2人組の、卒業前夜の珍騒動に抱腹絶倒! 2人の考えや言動がイタいのに共感必至、且つその片腹痛さが最高で。リアルな下ネタ周りの会話、適度にベタつく友情もリアルで理想的、一夜にして恋心やアイデンティティが向かってく先も自然にストンと心に入る。しかも、妖艶美女オリヴィア・ワイルドの初監督作とは、余計に熱狂したくなる。キャラ濃いユニークな大勢の同級生の描写も絶妙で、それを見事に捌いた手腕に感嘆。鼻の奥ツン系感動と笑いに包まれるラストも、気分最高!
★★★★半

森直人
ティーンムービーの最新進化形
これは傑作だな。アメリカン・ティーン映画おなじみのテンプレ――高校卒業前夜のワンナイトという『アメリカン・グラフィティ』(73年)からジョン・ヒューズへ、そしてジャド・アパトーなどに受け継がれてきた伝統の形を踏襲しつつ、シスターフッドのバディ物として素敵にアップデート。スクールカースト(序列)と最初見せかけて、実はダイバーシティ(多様性)が主題。人種はもちろんジェンダーやセクシュアリティにも大らかで、教師陣もやたらファンキー。チャラいパーティー映画の中に「いまの時代」が溢れるディテールの詰め方にも痺れる!
★★★★★


『狂武蔵』

狂武蔵

監督/下村勇二 原案協力/園子温 出演/TAK∴(坂口拓) 山﨑賢人 斎藤洋介 樋浦勉ほか
(2020年/日本/91分)

●慶長9(1604)年。宮本武蔵の道場破りで師範・清十郎やその弟を失い、面目を失った吉岡道場は、清十郎の嫡男で幼少の又七郎と武蔵の決闘を仕組み、400人を擁する一門全員で武蔵を倒す計画を立てる。77分をワンカットで撮影した本格アクション。主演の坂口が9年前に撮影したまま日の目を見なかった作品を、『キングダム』下村監督が仕上げた。

8/21(金) 新宿武蔵野館より全国順次公開
©2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners
配給/アルバトロス・フィルム

渡辺麻紀
武蔵さんの400<フォーハンドレッド>
400人を相手に武蔵が闘い続ける姿を77分ワンカットで撮影。『1917』と違い、本当にワンカットで撮影しているようだ。ということは、本当にひたすら闘い続けるだけ。徐々に血みどろになって行くとか、死体がどんどん積み重なる等の変化があればいいのだが、その辺はほぼクリーン。血しぶきが上がっても地面はサラサラだし、死体だってほぼ転がっていない。唯一の変化は武蔵の疲労困憊っぷりだろうか。これに付き合うのは正直、キツかった。ワンカット撮影はあくまで映画をよくするための手段であるべきで、それが目的になっては作品のバランスが崩れてしまうのでは?
★★☆☆☆

折田千鶴子
殺陣!殺陣!殺陣!
闘い続けの77分ワンシーンワンカットという試みには目を剥いた。その凄まじさ、肉薄するカメラの執念みたいなものが伝播してきて、ひたすら闘ってるだけなのに不思議と飽きはしない。一方で、斬新と言えばいいのか、武蔵の上に“狂”が付くとこうなるのかなと思いつつも、高めの構え、剣術等々に終始違和感が消えず…。しかも中盤以降、斬っても斬っても復活してくる敵に見覚えありで、ゾンビ感覚に陥ったり。とはいえ拓さんの本気と迫力にリスペクト!
★★★☆☆

森直人
ミニマリズム活劇の凄味
「はじめるか…!」という武蔵(坂口拓)の合図から始まる77分のメインパートは、予告編で観た爆発力のあるチャンバラとは良い意味で印象が違っていた。マラソンのように長い呼吸で持続する剣劇アクションは、どこかモーリス・ラヴェルの『ボレロ』にも似たトランシーな昂揚をもたらす。9年間眠っていたお宝なわけだが、お蔵入りにならなくて本当に良かった。プロフェッショナルな映画人たちによる一種の実験映画とでも呼べるかもしれない。
★★★★☆

ここから先は

0字
「TV Bros. note版」は、月額500円で最新のコンテンツ読み放題。さらに2020年5月以降の過去記事もアーカイブ配信中(※一部記事はアーカイブされない可能性があります)。独自の視点でとらえる特集はもちろん、本誌でおなじみの豪華連載陣のコラムに、テレビ・ラジオ・映画・音楽・アニメ・コミック・書籍……有名無名にかかわらず、数あるカルチャーを勝手な切り口でご紹介!

TV Bros.note版

¥500 / 月 初月無料

新規登録で初月無料!(キャリア決済を除く)】 テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、テレビ、音楽、映画のレビ…

TV Bros.note版では毎月40以上のコラム、レビューを更新中!入会初月は無料です。(※キャリア決済は除く)