見出し画像

『DAU. ナターシャ』『リーサル・ストーム』映画星取り【2021年2月号映画コラム②】

今回は制作規模が壮大な作品と、強大な嵐が吹き荒れる作品の2本。でかいスクリーンで拝見したいものです。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:『ノマドランド』で話題の監督クロエ・ジャオの、その前の作品『ザ・ライダー』が素晴らしかった。Netflixで観られますよ!
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:遂に双子のお受験終了。アッという間の小学6年間に対し、受験期間の約半月は永遠みたいに長かった。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:動画番組で『さらば!2020年/Death to 2020』などNetflixの面白いドキュメンタリーについて長々語り合いました。

『DAU. ナターシャ』

DAU. ナターシャ/メイン

監督・脚本/イリヤ・フルジャノフスキー エカテリーナ・エルテリ 出演/ナターリヤ・ベレジナヤ オリガ・シカバルニャ ウラジーミル・アジッポほか
(2020年/ドイツ・ウクライナ・イギリス・ロシア/139分)

●撮影期間40カ月、主要キャスト400人、エキストラ1万人と莫大な撮影費用で“ソ連全体主義”の社会を完全再現、圧政の実態とその中でたくましく生きる人々を描く大作。ソ連のある秘密研究所では科学者たちが軍事的研究を行っていた。その食堂で働くウエイトレスのナターシャは、研究所に滞在していたフランス人科学者と惹かれ合うが、その関係は当局の厳重な監視下にあり…。第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(芸術貢献賞)受賞作。

2/27(土)シアター・イメージフォーラム、アップリンク吉祥寺 他全国公開
© PHENOMEN FILMS
配給/トランスフォーマー

渡辺麻紀
「天地創造」
映画の舞台となる世界を丸ごと創り、役者たちをそこで生活させ、その様子をカメラに収めたという映画。コンセプトだけはあって、ちゃんとした脚本はなかったようだからか、まるでドキュメンタリーを観ているような感覚。人間のくるくる変わる、さまざまな感情が伝わってくる。世界を創ることは映画制作の上ではとても重要だが、それは手段であって、目的はあくまでいい映画を創ること。この手段と目的を取り違えた映画の多くはのちにカルト作品になるが、本作もすでにそういう匂いが濃厚だった。
★★★☆☆

折田千鶴子
A級風格における★2.5
ベルリン銀熊賞が示す通り“どこまでも深読み解釈できる、志の高い芸術映画”的な空気感や風格たっぷり。観終えた後、脳裏に蘇るシーンも多々。でも知識を何も入れずに観ると、共感皆無、嫌悪感が先走る。ヒロインのナターシャに対してさえも。ところが実は本作、壮大なプロジェクトのほんの一部であること、成そうとしていることを知ると“とんでもねぇ~!!”と身震い。多分、ホントに前代未聞。実験映画『DAU』をシリーズ全部観なきゃって気にさせる。
★★半☆☆

森直人
全体主義下でのモルモット
これの驚嘆すべき点は「史実の再現」ではないこと。1952年というスターリニズム末期と同様のシステム=「環境」を作り、そこに放り込まれた人間たち(キャストは素人で、役柄は本人に準じたキャラクター)はいかに蠢くか――という人間の邪悪な本性をリアルにあぶり出すための生体実験。壮大なアートプロジェクトの一部であり、独裁下の『テラスハウス』とも言える異色のリアリティドラマ。『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019年)や、破格のアーカイヴ再編集ドキュメンタリー『粛清裁判』(2018年)や『国葬』(2019年)など、最近「ソ連の記憶」を呼び起こす“恐怖映画”群が戒めのようにせり上がっているようだ。
★★★★☆

『リーサル・ストーム』

画像2

監督/マイケル・ポーリッシュ 脚本/コーリー・ミラー 出演/メル・ギブソン エミール・ハーシュ ケイト・ボスワース デヴィッド・ザヤスほか
(2020年/アメリカ/100分)

●超巨大ハリケーンがプエルトリコに襲来する中、警察官コルディーロは避難しようとしない元警察署長の説得を行うが、そこに武装した強盗団が現れる。ハリケーンのために脱出は困難とみた2人は、強盗団と決死の戦いに挑む。

2/26(金)新宿バルト9ほか 全国ロードショー
© 2020 by Force of Nature Film, LLC, and FON Film Production, LLC
配給/クロックワークス

渡辺麻紀
「嵐を呼ぶ男」
未曾有のハリケーンが襲うなか、さまざまな過去や欲望を抱えた人間たちが一棟のマンション内で死闘を繰り広げる。この手のストーリーはありがちとはいえ、うまく作ればちゃんとしたB級映画になりえる。が、この監督は手際が悪く、あらゆるところでモタつきまくり。しかもマンションの構造を教えてくれていないので、誰がどこにいるかもわからずサスペンスも盛り上がらない。メルギブを主人公にすれば、そんなマイナス部分がさほど気にならなかったかもしれないが、主人公はエミール・ハーシュ。久しぶりに見たけど、この映画でさえも、背負うには頼りなさすぎだったなあ。
★★☆☆☆

折田千鶴子
B級テイストの★2.5
大ハリケーンの中、孤立したアパート一棟、取り残された人、そこへ警官と冷酷な悪党を投入。いやはや、どっからどこまでも“観たことある映画”な既視感がてんこ盛り(笑)! とりあえず暇なら観て損はない程度に、ドキドキハラハラ感もワケアリ過去を背負う人物設定もしつらえてはある。キャストも意外に豪華で、観ていて飽きはしない。でも、伏線の張り方やら行動パターンやら各人の事情やら、ほぼ“だと思った~”な感じ。それを良しとすれば、ま、楽しめる。
★★半☆☆

森直人
是非とも大らかな気持ちで
ぶっちゃけ出来は少々しょっぱい。肝心のストーム(嵐)をはじめ、いろいろ用意した仕掛けが全部ぼや~っとしたまま活きていない。ただ、こういう昔ながらのB級娯楽映画を「ユルいな~」とか思いつつ、スクリーンで味わう時間こそが映画ファンの優雅な愉しみだと思うわけです! 特にアメリカでは否応なく配信に回されたので、日本での劇場公開はめでたい。ジジイモードのメル・ギブソンは『ブルータル・ジャスティス』(2018年)や『博士と狂人』(2019年)など異様かつ濃厚な迫力を湛えて好調なのだが、この作品ではゲスト程度の扱い。実質主役のエミール・ハーシュは、たまに昔のチャーリー・シーンみたいに見えたな。
★★☆☆☆

ここから先は

0字
「TV Bros. note版」は、月額500円で最新のコンテンツ読み放題。さらに2020年5月以降の過去記事もアーカイブ配信中(※一部記事はアーカイブされない可能性があります)。独自の視点でとらえる特集はもちろん、本誌でおなじみの豪華連載陣のコラムに、テレビ・ラジオ・映画・音楽・アニメ・コミック・書籍……有名無名にかかわらず、数あるカルチャーを勝手な切り口でご紹介!

TV Bros.note版

¥500 / 月 初月無料

新規登録で初月無料!(キャリア決済を除く)】 テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、テレビ、音楽、映画のレビ…

TV Bros.note版では毎月40以上のコラム、レビューを更新中!入会初月は無料です。(※キャリア決済は除く)