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『異端の鳥』『フェアウェル』映画星取り【10月号映画コラム①】

今回、またも★5が出ました。劇場が活気づくことを願ってやみません。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:押井守監督の新刊『押井守のニッポン人って誰だ⁉』、11月2日に発売です。押井さんらしすぎる、ユニークな日本人論です。ぜひ手に取ってみてください。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:好きなのに上手く聞き出せず後悔が残る監督とか、また見下されたなと気分が落ちる女優とか、相変わらず悪戦苦闘。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:10/4(日)下北沢映画祭、13:00から配信の行定勲監督×曽我部恵一さんによるオンライントークにMC出演してます。


『異端の鳥』

異端の鳥

監督・脚本/ヴァーツラフ・マルホウル 原作/イェジー・コシンスキ 出演/ペトル・コトラール ステラン・スカルスガルド ハーヴェイ・カイテル ジュリアン・サンズ バリー・ペッパー ウド・キアーほか
(2018年/チェコ・スロヴァキア・ウクライナ/169分)

●ナチスのホロコーストから逃れるため疎開した少年は、預かり先である老婆が病死した上に火事に見舞われ、身寄りを失い、旅に出ることに。行く先々で異物とみなす周囲の仕打ちに耐えながら、少年は生き延びるために懸命にもがき続ける。第76回ベネチア国際映画祭ユニセフ賞受賞作。

10/9(金)TOHOシネマズシャンテ 他公開
©2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN ČESKÁ TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKÝ
配給/トランスフォーマー

渡辺麻紀
「イントレランス」
生きるため、たったひとりでさすらい続ける名もなき少年に注がれる、目を覆いたくなる悪意の数々。舞台は第二次大戦中のヨーロッパ某国だが、その悪意のほとんどは一般人によるもの。本作が恐ろしいのはそこ。彼らは決して“異端者”を許してはくれないのだ。そういう意味では十分、今に通じまくるテーマがあり、あたかも自分たちのダークサイドを抉り出されたような居心地の悪さ! 淡々とした演出にリアリティが宿り、モノクロの美しい映像に寓話性が潜む、169分の恐るべき野心作。
★★★★☆

折田千鶴子
人間の残酷な正体、本能、愛
なぜこの少年にそんな酷い仕打ちを?どこまで過酷な運命に弄ばれるのか!? 疑問を抱えながら、人々の不可解な憎悪や残酷さに目を覆いたくなりつつ、なぜか詩情が流れ込む魔的な映像に恍惚とし目が逸らせない。役者自身のリアルな成長や変化もまんま取り込んだ、11年かけた監督の情熱や執念が凄まじく、物語に圧倒的な迫力とリアルをもたらす。結末までたどり着き、ようやく合点がいくと同時に深い感慨がこぼれだす、とにかくスゴイ逸品。
★★★★★

森直人
煮えたぎる傑作
素晴らしい。まさか新作でこんな破格のモノクローム映画が作られるとは! 東欧で映画史の常識を塗り替える伝説のフィルムが新たに発掘されたんですよ、と言われたら信じてしまいそう。「躍動する壁画」のごときシネマスコープ画面の広大さに、本能の壊れた動物としての人間たちが凶暴に蠢く。ホロコーストと同等の暴力と残酷が、無垢な村の農民たちからも発動される恐ろしさ。少年の冒険譚としてもセクシュアルかつダイナミック。ウド・キアーやハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズといった有名俳優たちは余計なスターオーラを見事に消し去り、歴史の中に棲息する無名性の肉体として自身を供物のように捧げている。
★★★★★


『フェアウェル』

フェアウェル

監督・脚本/ルル・ワン 出演/オークワフィナ ツィ・マー ダイアナ・リン チャオ・シュウチェンほか
(2019年/アメリカ/100分)

●アメリカに暮らすビリーは、中国に住む祖母が末期がんで余命数週間もないことを知る。このことを受けて、ビリーをはじめ、世界各国で暮らしていた家族や親せきが中国の祖母のもとに集まる。ビリーは祖母が後悔なく過ごせるように病状を明かすべきと考えるが、大叔母らは反対し、意見が分かれてしまう。ルル・ワン監督の体験をもとにした物語。

10/2(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
© 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給/ショウゲート

渡辺麻紀
「家族の肖像」
アメリカンになりきっているはずの中国系の若い女性が、自らのルーツと向き合い、自分の居場所を確認するまでをウェルメイドなタッチで描いた作品。ダイバーシティな思想を重要視し始めたというか、そうしなきゃいけなくなった現代だからこそ、米国で高く評価されたんだと思う。中国人は血縁しか信じないとはよく言われるが、それがよーくわかる映画でもある。みんなで囲む中華料理がおいしそう。
★★★☆☆

折田千鶴子
共感・感涙必至の家族ドラマ
団結力が強く逞しい中国系の人々も、こんなにも異国で紛らわしようのない孤独に苛まれるのか。ヒロインの等身大の心模様が興味深く、同時に痛いほど伝わってくる。だからこそ家族に対する思いの強さも。祖母の死を前に親戚一同が繰り広げる家族の大騒動は、故郷や親元から離れて暮らす世界中の人々に通じる普遍性を持ち、誰もが共感せずにいられないハズ。リアル、ナチュラル、温かい。つまり演出も演技も抜群。泣かせた後のオチもお茶目!
★★★★☆

森直人
折り目正しい秀作
アジア系の主人公や主題を装備した米国映画は『クレイジー・リッチ!』『アメリカン・ファクトリー』『いつかはマイ・ベイビー』など様々なタイプのものが生まれているが、これは初期のアン・リーに近い(『推手』『ウェディング・バンケット』『恋人たちの食卓』)。エリート階級のファミリードラマの中で文化衝突を扱いながら、すべてを「中庸」に収めていく劇運びにバランスの良い知性が表われている。自身も中国系アメリカ人であるルル・ワン監督は1983年生まれ。『はちどり』(韓国)のキム・ボラとか、それこそグレタ・ガーウィグとか、この辺の世代は優れた女性の気鋭監督が続々出てきているなあ。
★★★★☆

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