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『カサノバ 最期の恋』『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』映画星取り【7月号映画コラム⑤】

今回の映画星取りは『カサノバ 最期の恋』『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』の2本。現実の世界に起こったコロナ禍も、SFの世界だけにしてほしかった。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:Saga of the Swamp ThingのAlan Moore runを給付金買いしました。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。言いたい放題最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は8月7日(金)20時からTwitchで。アーカイヴはYouTubeにもアップしてます。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:『愛の不時着』でブーム再燃の韓国ドラマには、その実熱い経済、政治ドラマも沢山。今も『砂時計』は私的NO.1です。

『カサノバ 最期の恋』

カサノバ

監督/ブノワ・ジャコー 出演/ヴァンサン・ランドン ステイシー・マーティン ヴァレリア・ゴリノほか
(2019年/フランス・ベルギー・アメリカ/100分)
●数々の浮名を流した、18世紀のイタリアの文筆家ジャコモ・カサノバの最期の恋を描く。パリからロンドンへ亡命していたカサノバは、若い娼婦シャルピヨンと出会い、猛烈に心酔。カサノバはあらゆる手段でシャルピヨンを手に入れようとするが、彼女は巧妙にかわしていく。

7月31日(金)シネマカリテ、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺他全国順次ロードショー
© CHRISTOPHE BEAUCARNE / LES FILMS DU LENDEMAIN - JPG FILM
配給:ギャガ GAGA★

柳下毅一郎
マーティンのお尻に★一つ
プレイボーイ、カサノバと彼を小悪魔的に翻弄する美少女の恋のゲームと言いたいところだが、それが老境に入った助平親父と最初から金をむしり取る気満々の小娘とでは寂寞たる思いに駆られるばかりである。立派な衣装を着て、古いお城にロケしていたとしても、ステイシー・マーティンのヌードがいちばんの売りという時点で使いふるしの文芸ポルノでしかない。マーティンのお尻に★一つおまけする。
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤
カサノヴァ的男性に何を観るかが見えてこない。
格調高く文芸的だが悪趣味ではあるエロ時代劇作家、ブノワ・ジャコーぽいカサノヴァ映画だが、なんだか薄味。「最期」というほどには老いさらばえてない(だって本人が色気むんむん)V.ランドンが、ファム・ファタルとしては三流の小娘(S.マーティンなのになあ)にやらずぼったくりされる話、の域を出ていない感。どことなくブニュエルの『欲望のあいまいな対象』ぽいモヤモヤさが面白くもあるが、晩年のカサノヴァに性の無間地獄を視たフェリーニとはやはり格が違う。
★★☆☆☆


地畑寧子
ステイシー・マーティンの持ち味
カサノバのイメージから遠い骨太名優ヴァンサン・ランドンが、枯れたカサノバ像を構築しているのが新味。枯れている分物語は意外にあっさりしているが、カサノバ譚に欠かせないエロティシズムを担っているのが、小悪魔なステイシー・マーティン。『ニンフォマニアック』でのインパクトに乗っかっている感は否めないが、そそる系の彼女の魅力は同性でも納得。ちなみにこの作品、邦題が酷似のアラン・ドロン主演作とは全く別物です。
★★★☆☆

『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』

カラーアウトオブスペース遭遇●メイン大

監督/リチャード・スタンリー 原作/H・P・ラヴクラフト 出演/ニコラス・ケイジ、ジョエリー・リチャードソン、マデリン・アーサーほか
(2019年/ポルトガル・アメリカ・マレーシア/111分)
●閑静な田舎に引っ越してきたガードナー家の前庭に、隕石が落下する。一家は心と体に害を及ぼす地球外変異体との闘いに明け暮れ、都会の喧騒を離れての理想の暮らしは悪夢へと変わる。SF小説の先駆者H・P・ラヴクラフトが原作のSFホラー映画。

7月31日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて公開
© 2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved
配給:ファインフィルムズ

柳下毅一郎
日常性で宇宙的恐怖も退治
ニコラス・ケイジが家族と暮らす農場に隕石が落ちてくるところからはじまるコズミック・ホラーと思いきや、待ち構えているのはケイジの圧倒的平常心。家族の中でケイジ一人だけ狂気のベクトルが異なり、家族を虐待する狂った父さんになってしまうのである。ケイジの圧倒的日常性の前にはコズミック・ホラーなにそれ食えるの? 不味い! ゴミ箱へバコーン! てなもんである。
★★★★☆

ミルクマン斉藤
紫の色彩に冒されていく視覚的恐怖。
人知を超えた宇宙的恐怖の表現に果敢に挑んだという点で、初めてマトモなラヴクラフト映画の誕生だ。R.スタンリーのサイケな映像と色彩感覚は長年のブランクが惜しまれるほど炸裂、まったく笑いの要素を採りいれるつもりがないのも潔い。いや、おなじみのニコケイ的演技や「何故にアルパカ?」といった狂った設定は可笑しいんだけど、それさえサイケならぬサイコな味付けに。『ヘレディタリー/継承』よりはオーソドックスだがコリン・ステットスンの音響的音楽も素晴らしい。
★★★★★

地畑寧子
オスカー俳優、迷走の行方
都会から移住した5人家族が、地球外変異体の浸食で崩壊する地獄絵図。田舎暮らしのストレスを抱える妻子をよそに、必死に理想の家族の家長を演じる夫が痛々しい。この夫に狂気ぎりぎりに扮した“ニコケイ”はやはりさすが。ミステリアスな浸食の過程もいい。だが、変異体への科学的アプローチや悲劇に見舞われた家族への悲哀が中途半端で消化不良。原作への傾倒が強すぎた制作側が、観客を置いてきぼりで疾走した惜しい作品。
★★☆☆☆

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