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この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜 ⑦

勝手にぃ〜、ラジオ議会〜♫
ーラジオから、若者たちの楽しげな声が、聞こえてくる

高虎)いつの時代でも猛威をふるっていた重病、恋の病。その中でも症状の重い、好きな人に彼氏・彼女ができたパターン。あきらめるべきか否か、教科書ですら教えてくれません!住民投票を実施して市民の声を聴き、議会として早急に対策を練る必要があると思います。
龍太郎)議長!
央)はい、龍太郎くん。
龍)個人的すぎるのではないかと思います。そもそもこの議題は、我が議会で扱う内容ではない!重病であるなら、八重山病院の禁煙外来ならぬ「恋愛外来」に行ってはどうでしょう。
虎)議長!
央)はい、高虎くん。
虎)龍太郎くんは家庭を持っています。恋愛について、もうやらなくていいと軽視している傾向があるので注意してください。
龍)いやいやいや。
央)龍太郎くん、厳重注意です。議会に私情を持ち込まないでください。
龍)え〜〜〜〜。

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左から伊良皆 高虎さん、金城 龍太郎さん、宮良 央さん
(写真提供/金城龍太郎さん)

ハルサーズの3人のトークは、何度聞いてもゆるっとしていて笑ってしまう。
「勝手にラジオ議会」
3人が議長と議員に扮し、毎回議案を提出。議論ののちに(勝手に)住民投票に持ち込むのだが、その議題は、食事会でお皿に残った最後のひとくちを食べるか食べないか、「一生のお願い」を廃止すべきかどうか、などなど、相当にゆるい。
FMいしがきサンサンラジオで5分間の枠をもらい、昨年(2019年)2月19日から4月12日まで、9回放送された。
本来は、住民投票条例案の可決を想定し、投票に向けて様々な意見の人をゲストに招いて対話する番組内容を放送するつもりだった。2月1日の否決を受けて、急遽その枠を(ブラック?)ユーモアたっぷりのコントに転じた彼らのセンスとたくましさには、脱帽する。
けれど、当初はやはり何ひとつ手につかなかった。

まだ終わりじゃない

否決翌日に、龍太郎さんはSNSを通じて、署名、あるいは応援してくれた人たちに対し、謝罪とこれまでの感謝を述べるメッセージを送った。それが精一杯だった。

求める会のもとには数多くのなぐさめや励ましの声が届いていた。
ありがたかったが、それに応える力すら出なかった。

数日が過ぎたある日、届いたメールを見ていた龍太郎さんは、次のような言葉に目がとまった。

「よくがんばった。人生はいろいろ、今後につながる。」

何かが心に引っかかった。
・・これって、終わったことになっていないか。

僕らには14,263人の市民から託された使命がある、ここで終わるわけにはいかない。

労をねぎらったこの優しい便りが、 むしろ龍太郎さんの心にふたたび火をつけた。


求める会は、再び議会に掛け合い、2月7日には与党側7氏、野党側6氏の議員と、同12日には議長を含む「中立」とされる公明党の2氏と、それぞれ面談する機会を得た。
策らしい策はなく、一体どうしたら住民投票が実現できるのかという気持ちで必死だったという。それでも冒頭で、

「人生では思い通りにいかないこともありますが、その結果を分析して次につなげたい。謙虚にお話をうかがいたいです」

と議員側に配慮を見せ、議会で何が起こっていたのか、その経緯を市民に説明する責任が自分たちにはあるとし、意見を傾聴する姿勢を示した。

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与党系議員との面談
テーブル左手前が与党系議員、右奥が「求める会」
(出典:八重山毎日新聞

この面談から1年以上が経った今でも龍太郎さんの印象に残っていたのは、与党議員からの次のような意見だ。

「(条例案を)可決したければ、議会で野党が過半数をとればいい」
「陸自配備の問題は市民には理解するのが難しい。判断を委ねられない」

耳を疑うような発言だったー。

野党側からは、議員発議による道筋をつけたいとの言及があった。
市民による発議の条例案は否決されたが、議員からの発議による条例案ならばもう一度議会にかけることが出来る。
否決を招いた経緯について、審議を急ぐ理由があったものの調整不足だったことを認める声があり、この言及につながっているわけだが、中にはあくまで「自分たちは最善を尽くした」という声もあった。

後日、求める会は、中山義隆市長への面談を申し入れる。
経過を報告し、今後についての意見を交換して見通しを立てたいと考えたのだ。
しかし「今のタイミングでは面談に意義を感じない」と、拒否された。

この島で起こっていること

一方で、市は紆余曲折の後に可決された「名護市辺野古の米軍新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票」の準備を進めていた。同日開催を目指し、同じ日に採決され、可決と否決、運命を分けたふたつの住民投票ー。

2月24日の投開票。
県全体では、辺野古埋立て「反対」が全体の72.15%と圧倒的に多かった。
石垣市だけの結果では、投票率が44.63%、うち「反対」の得票率は71.6%だった。

この日、龍太郎さんはひとりの沖縄県民として、投票所へ足を運んだ。このとき感じていたことを、聴かせてもらった。

「海の向こうで起こっていることに意見できる機会があるのに、自分たちの島で起こっていることに意見できないことが、ただ哀しかったです」

島の人たちの声を置き去りにしたまま、3月5日、平得大俣(ひらえおおまた)地区のジュマールゴルフガーデン跡地で、土地造成のための掘削工事が開始された。それが、陸自石垣島駐屯地建設の事実上の始まりだった。
周辺の4地区、於茂登(おもと)、開南(かいなん)、川原(かわはら)、嵩田(たけだ)の住民は、これまでそれぞれの公民館をとおして反対の立場を明らかにしてきた。龍太郎さん達より上の世代の人たちだ。彼らは、2月末に沖縄防衛局との面談を初めて行ったが、議論は平行線に終わっていた。工事の開始は、その直後のことだった。

4月に入ると、4地区の住民は中山市長とも初の面談を行う。ここで住民側は、
明確な答えが出る2択での住民投票が行われた時、私たち4公民館はその結果を尊重する
と、住民投票の実現を訴えた。これまでお伝えしてきたように、「求める会」の活動は反対運動ではない。この訴えは、「求める会」の活動を見守りつつも、それまでは個々の立場で協力していた4公民館の人たちが話し合い、初めて共同で表明した、「石垣市住民投票を求める会」の理念への支持だった。投票結果によっては、これまで掲げてきた反対の旗を下ろすことになる。それでも若者たちを支える覚悟を感じた。

この中には嵩田公民館の元館長である、龍太郎さんの父親、哲浩さんもいた。「求める会」結成時には、頼りない息子に会の代表など務まらないと思っていた。そしてやはり、父親として息子を矢面に立たせることを案じていたー。
その哲浩さんは、今では龍太郎さんの言動を尊重してくれている。

*  *  *

同じ頃、近隣の島々の状況が大きく動いていた。
3月26日、建設工事が進められていた奄美大島(鹿児島)、宮古島のそれぞれで陸自駐屯地が開設される。与那国島では2016年に既に配備が完了しており、「南西諸島の防衛力強化」は、着々と進められていた。
島の人たちの小さな声は、届いているだろうか。

諦めが悪くてすみません

龍太郎さんは議員たちとの面談後に、改めて石垣市民へメッセージを送っている。

「第三章へ」〜諦めが悪くてすみません〜
    石垣市住民投票を求める会 金城龍太郎

 先日、与野党の議員さんとお会いして直接お話を伺いました。そこでわかったことがあります。双方、今回の結果に至った理由を述べるにあたって「与党が」「野党が」と対立を意識するあまり、一番大事なはずの署名した市民の願いは蚊帳の外に、「住民投票条例案」については十分に審議されていないということです。私たちは運動の中で「話そうよ」と呼びかけてきましたが、一番話し合いが必要な議会という場所でしっかり審議されなかったのは本当に残念です。

 ですが、一度動き出した島の流れは止まりません。たとえ否決されても「島内での意思を示したい」という1万4000人余りの思いを消すことはできないのです。また、署名で表れなかった数を考えると本当に思いの多さは未知数です。島外に住む石垣島を思う島んちゅもたくさんいます。石垣でも辺野古の県民投票が実施されることへと一転したのですから、一番身近な島の賛否が分かれる問題についてみんなで考えるきっかけがあってもいいはずです。

 私たち「住民投票を求める会」としては、より多くの方の思いが報われるような着地点を探したいと考えています。諦めが悪くてすみません。まだ世の中にとらわれない若者たちです。どうか今後とも温かい目でお見守りください。

 そして、もしよろしけれ、もう少し一緒に走りませんか?
 あなたのユーモアが冷めないうちに。

勝手にぃ〜、ラジオ議会〜♫

虎)2ヶ月ほど続けてきた我がラジオ議会にも、ついに終わりが来ました。市民から議会リコールの署名が届きました。(一同、笑)よって本日をもって、ラジオ議会を解散したいと思います。
央)はい、議長!今まで勝手に住民投票を行ってきて、本当に市民の声や想いが聴けたと思っています。
龍)我々の議会の目標「市民のため」。そこがぶれなかったので、与野党を超えて議論できたのかなと思います。

ーラジオから、若者たちの楽しげな声が、聴こえている。

次はあなたの街で、あなたのそばで。勝手にラジオ議会。

つづく

文・表紙写真 / 蔵原 実花子


■石垣市住民投票を求める会
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■ハルサーとは、沖縄の方言で「畑仕事をする人」の意味。石垣島の中心部への陸上自衛隊基地配備計画。地元のハルサーである同世代の若者たちが、住民投票をおこなうことで、自由に語ることが難しい閉鎖的な空気を変えて、計画への賛否ともに意見を言い合える、認め合えるそんな島にしたいと行動してる。


ーArchiveー

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜①

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜②

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜③

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜④

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑤

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑥

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑧

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑨

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