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第1回 1回目っぽすぎる?

[編集部からの連載ご案内]
「SIDE TRACK」の新連載は、ぼく脳さんです! アーティストなのかパフォーマーなのか(スメルジョッキーやたけしワイン)、芸人なのか構成作家なのか(広辞苑ガチ考察や有吉弘行の脱法TV)、グッズ業者なのかSNS界のマルジェラなのか(札束ロンTや鈍足)、一言ではくくれない(SNS界なのに)ぼく脳さん初の文章連載、スタートです! ※( )内はググってみてください(月1回更新予定)


インターネットで文章を読むという行為は、目線の動きとスワイプさせる指の動きとで十字を切っている。我々はみんなスマホでネットの文章を読みながら無意識にその文章の墓を作っていたのだ。実在する紙の本よりもネットの文章を読み返すことが確かに少ない気がする理由がそこにある。読む=殺す、になっている。いったい今まで自分が立ててきたネットの文章の墓標は何個になっているだろうか(この文章もあなたによって殺されてしまう……)。どうせ誰も読み返さないのだから気楽に書こうと思うようにする。
 
この連載の題名である「もはやお笑い」というのは「もはやアート」のもじりである。
 
攻めた漫才やコント(お笑いに限ったことではないが)は「もはやアート」と評されることが多い。アートは偉い、という感覚が世間一般に深く根づいているのだと思う。もはや、という言葉の後に来るのは「アート」か「これまでか」の二強である。面白い作品を作る芸術家に「もはやお笑い」と言ったら、きっと曇りの七夕みたいな顔をして一切口をきいてくれなくなるだろう。もはや、というか漫才やコントはそもそも最初からアートだし、この文章も「文学」というアートである。この連載がアートであるか「もはやお笑い」であるか、皆さん是非これから読者として確かめてみてほしい。
 
「連載」というものは本当に存在するのか? 連載といっても感覚的には読み切りが続いているだけ。昨日や明日など存在しなく「今日」が続いているだけという話に似ている。連続読み切り。次回の記事のことなど考えないで今この読み切りに全力で挑んでほしい。
 
この記事は読み物ファンだけではなく純粋な(?)「文字ファン」の方にも読んでもらいたい。そのためにはになるべく五十音をすべて使うべきだと思う。漢字や英語なども含めるとキリがないのでここでは音としての五十音とするが「せっかく読んだのに今日は【に】が出てこなかった最悪」みたいな人が出てきてしまわないように、五十音をすべて使うか、もしくはシフト表を出してもいいかなと思う。文字のシフト。今日の文章は【へ】と【ま】と【じ】がお休みです、みたいな。そうすればそのファンたちは無駄読みをしなくて済むし、そのぶん【へ】と【ま】と【じ】が沢山出てくる読み物を読む時間に充てることができる。
 
僕は子供のころ本があまり得意ではなかった(今も好きだが得意ではない)。自分が今読んだ文字がまだその本に存在しているのが不思議で、頭に入った気がしなかったからだ。食べ物は食べたら減るし、お腹がいっぱいになるのに、なんで、と思っていた。読んだらその読んだ文字が消えていく本(一度しか読めない本)を作り、タイムマシーンに乗って過去の自分に届けたい。消えていくといっても、読者の頭の中に移動しているだけなのだが。
 
文章とは無縁のまま歳月が過ぎ、文学の真逆のような学生生活を送っていた。通っていた高校はひと昔前、スラムダンクの三井が不良を引き連れて暴れるシーンの最後に安西先生が来ないバージョンみたいなことがよくあったらしい。そんな高校生活を経てインターネットに行き着き、ネット大喜利(インターネットで大喜利する競技)の沼にハマり、そこから筒井康隆の小説を好きになる(なぜいきなり?)。なぜいきなり?と思ったかもしれないが、コイキングもギャラドスになるわけだし、僕は文化のギャラドスだった、それだけの話である。筒井康隆の名前を出して思い出したのだが、『残像に口紅を』という小説に影響を受けて10年ほど前に考えていた作品がたしかあった(これは先ほど出した文字のシフトにも関係する話なので書いておこう)。
 
殺人事件をテーマにした普通のミステリー小説なのだが、犯行がなされていたであろうページに五十音の特定の一文字が出てこなくてその一文字が犯人だったという話だ(例えば「ぬ」が犯人だとしたら、犯行がなされていたであろうページには「ぬ」が出てこず「ぬ」以外のひらがなを全部使って文章を作っていく)。探偵が「その時間、ぬ、あなたが出てきていないんですよ。どこで何をしていたんですか!」みたいな感じである。アリバイの無いひらがなが犯人。犯行時刻以外には全ひらがなが書かれている。結局面倒で頓挫してしまい脳の深いところに眠っていたので、誰かにこのアイデアは差し上げます。
 
今回連載(連続読み切り)の依頼をもらって素直に嬉しかった。僕はもともと漫画を描いていたのだが、どちらかというと言葉遊びのほうが好きで、絵については仕方なく言葉に付けた図みたいな感覚だった(言葉だけでは表現できないボケが多すぎた)。だから漫画は全然上達しなかった。おじいちゃんがいよいよだというときに僕(孫)がどんな活動をしているか教えてあげようと思って描いている漫画を病院のベッドの横で見せたのだが、「これは綿棒で描いているのか?」と言われた。それがおじいちゃんとの最後の会話だった。僕の絵が下手すぎて、孫が綿棒で絵を描く特殊なアーティストだと思ったまま旅立ってしまった。きっと天国でも心配してくれていることだろう。おじいちゃん、僕は綿棒で絵を描いているアーティストじゃないよ。ちゃんと文章の仕事とかももらえてるよ。(あなたの目と指で墓地にしてください)


おじいちゃんに「綿棒で描いているのか?」と言われた漫画。©️ぼく脳


ぼく脳(bokunou)
芸人・パフォーマー 。吉本興業に所属し芸人としてキャリアをスタートした後、漫画や音楽、ファッションの分野で作品を制作。ツイッターやインスタグラムなどで作品を発表し、日常に転がるアイテムを使った独創的なアートセンスが巷で話題を呼んでいる。文章の連載はこれが初めてとなる。渋谷PARCOの「金三昧」by Chim↑Pom from Smappa!Groupで商品販売中。
Twitter: @_bokunou | Instagram: @bokunou | YouTube: ぼく脳 bokunou

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