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「営業の科学」は今後の営業本の前提となるかも

前回の記事では、プリセールス向けに営業本を紹介しました。

その記事で紹介した高橋浩一さんの新刊「営業の科学」が出ましたので、今回はこの本を紹介します。自らの経験をもとに「頑張る」「行動量を増やす」先行の営業指導をいさめ、調査結果や具体的な会話例を交えながら営業ノウハウを記述した本です。

スポーツの世界で言う『名選手必ずしも名監督にあらず』と同じように、営業の世界にも効果的な指導を行えないマネージャーが存在します。この本では、そうした問題に対処するための具体的な手法が紹介されています。

説明にあたっては、高橋さんの経験に基づくものだけでなく、TORiX社が行った営業1万人調査お客様1万人調査の結果をふまえて説明されている箇所が多いです。営業については、ハイパフォーマーローパフォーマーの回答結果を比較して違う部分に着目した物もあります。なかなか細かい質問もあり、どうやってこれだけの回答を集めたのかなと驚きます。

調査結果を見るだけでも、意外な回答(と高橋さん自身が驚いているものもある)もあるので、この結果を見るためだけでも本書を買う価値があると思います。書籍内の図表は書籍購入者はまとめてダウンロードできるようになっています。

さて、ここからは書籍で触れられていたいくつかの内容を紹介しつつ、私の意見も記載したいと思います。まずは、商談の流れに沿って。


質問の使い分け

この本では「意思決定に関するデリケートな(お客様にはぐらかされる可能性のある)情報」としてBANTCH (Budget, Authority, Need, Timeline + Competition, Human Resources) が取り上げられています。

P111の表では、BANTCHそれぞれについて、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョン、条件付きオープンクエスチョン、選択肢付きクローズドクエスチョンの4つの質問例を載せています。これはかなり実践的といえるのではないでしょうか。

ただ、個人的には、BANTCHよりMEDDICC (Metrics, Economic Buyer, Decision Criteria, Decision Process, Identify Pain, Champion, Competition) を得たいところです。残念ながらMEDDICCは本書内では触れられていませんでしたので、質問例は自分で考えてみたいと思います。
追記:著者の高橋さんからコメントいただきまして、もしかすると今後MEDDICC版も公開されるかもしれません。

さらに追記:勉強を兼ねて自分で作ってみました。なお、本文にあるように、オープン質問で答えてもらえる場合はオープン質問で聞いた方が、お客様としても気分良く話してもらえますし、選択肢に引っ張られた回答になることもなく好ましいです。特定質問はあくまで「仮面」をかぶられてしまった時に使うのが良さそうです。この辺りは過去の「オープンエンド質問とクローズドエンド質問」の記事もご参照ください。

具体的に聞き出す「特定質問」MEDDPICC版(岩崎作成)

また、タイムラインについては、検討、契約、導入などいろいろなタイミングがあるので、Mutual Action Planの紹介など、もう少し具体的に掘り下げてあるとわかりやすいかなと思いました。

仮提案

P227では、お客様への質問で、課題やニーズを伝えてから最初の提案を受けるまでの期間を聞いています。半数弱が2営業日以内に欲しいと回答しています。これは驚きですが、お客様の意見を素直にとらえない方が良いのかなと思いました。

このスピード感ですと打ち合わせの都合がつかずメールで提案書を送ることになりかねませんがそれは好ましくありませんし、仮に作った提案でお客様がピンとこない可能性もあるので、ここは早くても1週間ほど間を掛けた方が良いのではないかなと私は思いました。

レスポンスを示すことの重要性

P412で、提案の最後にどう言われると響くかをお客様に聞いています。この提案はお客様が前回仰っていたことを踏まえたものですよ、と言うことが一番だった、ということで、高橋さん自身も意外だと仰っていました。

客観的ともとらえられうる、優先順位に基づき、などと言うよりも、より一層、あなたに耳を傾けている、あなたの発言を大事に思っている、ということをはっきり示すことが重要なのかもしれません。

検討待ち中の対処

P54/P329で、「「検討しますのでお待ちください」に何のアクションもしないのはただの損」ということで、見積提示後に営業担当を待たせたお客様にその言葉の裏にある意図を聞いています。

他社からの提案待ち、社内の検討待ちなどのほか、提案内容に不満、リスク要因、などの理由も多いことを踏まえて、書籍では「お役立ち情報の提供を続けてチャンスを探り、反応があったら再アプローチ」を勧めています。

さて、ここからは私の意見ですが、まず前提として、見積提示は(メールではなく)商談ですべきで、どうしてもメールを求められたとしても、電話でフォローアップするべきですね。

また、見積を提示するに、検討スケジュールや他の選択肢(競合製品、社内開発など)については無理のない範囲で確認しておくべきですね。先にスケジュールを聞けていれば、待ってと言われても「先日仰っていたように、○日頃を目処でご検討されるということでよろしかったですか」みたいな感じで自然に聞けると思います。仮に聞けていなかったとしたら、まずは「大体いつ頃までにご検討されますか」と聞き、言葉を濁すか具体的に教えてもらえるかで先方の温度感がわかる場合があると思います。

その上で、「それまでに追加でこのような資料があれば良いな、というものがあればもしご用意したいと思いますがいかがでしょうか」のように聞くのはどうでしょうか。これにより、こちらから想定で役立ち情報を送るよりも、競合比較、機能、リスク、など、お客さんの求める資料をお送りできて良さそうな気がしました。

役立ち情報

P407では、お客様視点で、営業担当から受け取る嬉しい役立ち情報を聞いています。セミナーやイベントの案内やまとめは意外と低評価で、商品の説明や導入実績、調査レポートなどが上位に上がっていました。一方で他の顧客の講演録などの評価も低く、密度の高い情報をもとめているのかなと感じました。

とは言いつつ、商談が進行中のお客様にはセミナー情報なども送り、本気度を見定める目的に使えるかもなと思いました。

ちなみに、以前ウェビナーを見た関係か、TORiXさんからも役立ち情報メールが結構届いているのですが、ためになりそうなので機会があれば読もうかなと思って削除せずに貯めています。営業トレーニングを選ぶ立場にはいませんが、もしそういう機会があれば、きっとTORiX社のお話を聞きたくなることでしょう。


ここからは、いくつか個別の項目についてコメントします。

提案中のお客様への接触頻度

P222では、提案中のお客様との商談、および電話・メールなどを通じたやり取りの頻度を聞いています。週に2-3回以上商談をしている人が4分の1、毎日何らかのやり取りをしている人が15%などとなっていました。

プリセールスがお客様とお会いするのは、要件周りでのメールでの質疑が多くなる時期を除けば基本的には商談の場で、週に1回程度のことが多いかと思いますが、営業担当はより頻繁にお客様とやり取りしているということになりますので、プリセールスとしては、営業担当の方への感謝を忘れないようにしないといけませんね。

対面商談

私自身は人の名前を覚えたり表情を読んだりすることが得意でないこともあり、オンライン商談の方がメリットが大きいという意見なのですが、P241にある、2022年5月の調査では、対面商談を一番重宝する人が43%、オンライン商談を一番重宝する人は13%でした。

上記記事内で紹介した書籍「The Model」ではアメリカではオンライン商談による契約締結が当たり前になって、という話もありましたが、日本ではまだ少数派のようです。設定しやすさなどオンライン商談のメリットも活かすことを考えると、対面訪問は契約を迫るタイミングなどここぞというタイミングで実施するのが良いかもしれませんね。客先に営業担当にのみ訪問してもらい、プリセールスはオンラインで繋ぐ、という商談を行うこともあります。これも両方のメリットを得る方法の一つだと思います。

気になることを尋ねる

P337で、気になることを聞くタイミングについて触れられていました。「質問はありますか」なら良いと思いますが、「(ネガティブな)気になることはありますか」という質問は、ネガティブな内容に注意を向けてしまう恐れがあるので、確かに注意が必要です。担当者自身が概ね満足感があるかどうかを確認した上で「社内で稟議をあげる上で、指摘されそうな点はありますか」のような感じで聞くと良いかもしれません。

SPIN

この本で意外だったのが、他の書籍や営業手法に触れない中「SPIN」を取り上げていることでした (P122)。SPINのIやNは売り込みぽくなりやすいので「超人」ではないと利用が難しいと感じています。

当て馬ぽい案件

お客様1万人調査優秀な営業は6分の1程度、という前提に立ち、高速な応答で優秀さを感じてもらう、という戦略を取っています。ソリューションセリングの本では、確度は低いので何回かヒアリングのための時間を取ってもらないようならば対応しない、と言っていましたが、現実的に対応を迫られることもあるわけで、一つの戦略としてありえると思いました。

SFAについて

P38で、SFAが活用されない理由は、指導力不足が露呈するのを恐れるマネージャーが利用させたがらない、とあります。営業担当側の理由としては、投資対効果の話だと思っていて、つまり、入力したとしても、契約獲得に役立つフィードバックがマネージャーから得られないから入力したくないのだと思います。

マネージャーとして、本来「接戦案件」の受注確度を高めるアドバイスをすべきところ、売上フォーキャストだけの目的になり、ステージが進んでいる案件や金額の高い案件の確認だけで案件確認の時間が終わってしまうことがあるのではないでしょうか。

Xactly社などSFAにさらに機能を追加するソリューションの中には、特に注意すべき案件が目立つように表示されるものがあるので、マネージャーからのフィードバックが得やすい状態になるのかなと思います(使ったことありませんが)。


おわりに

長くなりましたので、他の書籍でもあげられていたようなポイントについては省略しますが、かなりさまざまなポイントが網羅されている本で、自分の進め方を確認したり、新しい気づきも得られるのではないでしょうか。

営業担当やお客様からの生の声にもとづいているため、これまでの、自身の成功体験にのみ基づく営業本とは違い、今後営業の話をするにあたる基本となる本と言えるかもしれません。あらためてリンクを記載します。

なお、経験が浅めで、本にあまり慣れていない方には、前回の記事で紹介した同じ著者の「質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか?」の方がとっつきやすいと思います。


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