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不完全の具現体験


ある赤い花が咲いていた。


とても綺麗だった。

私は毎回そこを通るたび、いつか撮りたいと思っていた。

私が通る時はいつも、日陰になってしまっていたからだ。

いつ撮ろうかな、と思いながらいつも、家に帰っていた。

ある日そこを通った時、私は絶望した。

枯れていたのだ。

綺麗だった、あの赤い花が、枯れていたのだ。

花がいつまでも咲き続けることができないことは、無論知っていた。

「ヴァニタス」という言葉があるように、またそう名付けられた人生の儚さを描く美術品があるように、

生命はいつか終わりが来ることは、知っていた。

なのに私はその簡単な事実を忘れていたのだ。


花は枯れた。私は忘れた。

生命の"不完全さ"というものは、こういうことなのかもしれない。

次に綺麗な花を見た時は、このことをきっと思い出すだろう。

そして私は思う、

来年こそは、必ず。


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