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1クール13話の「大氷原の小さな家」を妄想する 第7話

1月は年末年始のお休みの影響もあり皆さんお忙しいと思います。
暇で暇でしょうがない方だけご覧ください。今回も長い。特に注釈からが無駄に長い。考えたことを全て書こうとするな。でも全然全てじゃない。わかったからもう(以下略)

※『聖闘士星矢』の二次創作
※小説ではありません。筆者の脳内アニメです。頭のおかしいオタクの妄言が好きな人向け
※↓↓この第6話の続き


【ノーザンクロス】

三人の髪の毛が床に落ちて混ざり合っている。
アイザックがカミュの前髪を切る。氷河がアイザックの髪を切る。カミュが最後に氷河の髪を切る。
氷河の首元には光るものが見える。(※1)
 
朝。村から離れたツンドラの野辺でカミュは言う。
「このバケツいっぱいにベリーを摘む。人の口に入ることを考えて、丁寧にな。種類ごとに別のバケツを使え。できたら呼びにこい」(※2)
カミュの姿がほとんど魔法のように消えると
「……バケツ、何個ある?」
「20。できなかないけど手間だよなあ。氷河気づいてるか。カミュがこういう面倒で時間かかることやらせるときは」
「自分の修行がしたいとき、だろう」
「そうそう」
「じゃあさっさと終わらせてカミュを驚かせようぜ!」
「その前向きさ、兄弟子として誇らしいよほんとに」

【汝がために祈る母の】

カミュは一人、凍った海の上にいる。気合い一閃、氷を割って海中へ……
暗い海の底に、廃船の帆がゆらめいている。
 
暗闇にぼんやりと見える光に導かれるように進む――
一つの船室の扉を開くと、光が広がり――(※3)
 
小さな子どもの手を取る、母親の美しい手。その爪先は赤く輝いている。
赤毛の子どもがほほえむ。母親の口元も笑みを形作る(が、口元から上はぼやけている)。
子どもの手がぬいぐるみをつかむ。ぬいぐるみが凍る。
犬をなでる。犬が逃げていく。
友だちと手をつなぐ。友だちの手が――
 
夜、パジャマを着た赤毛の子どもは、居間の扉の隙間をのぞく。
母が両手で顔を覆っている。父がテーブルを拳で叩いている。
ふるえる母の背中にかかる、長い赤い髪。
 
ある日、知らない大人がやってくる。聖域からの使者は、赤毛の子どもを連れていく。
母はロザリオを渡そうとするが、使者はそれを許さない。
父にしがみついて泣いている母の背を覆う、豊かな赤い髪……(※4)

【幻の影を追いて】

夕飯後。アイザックは掃除をしている。洗い物をしている氷河の肩にカミュが手を置く。2人、家の外へ出る。薄明るい夜空に白鳥座が輝いている。(※5)
「シベリアには慣れたか」
「はい。……でもここは寒いです」
「寒い、か」
「変ですよね。今は冬よりずっとあったかいのに。カミュは寒くないですか」(※6)
「私とて寒さは感じる。この広大な空の下、夏にも解けぬ永久氷壁に囲まれていると……自分の命の炎の小ささを、感じない日はない。――お前の母親の眠る船だが」
カミュは氷河にマーマの眠る場所を教えてやるが、同時にそこへ近づいてはならない、と言い渡す。
非常に危険な海域であること、そして何より、マーマを求める心を乗り越えなければ、聖闘士になる望みは薄いということ……
「そんな……マーマに会うためにオレは……」
「目で見なければ、見えないか。
すぐそばに行かなければ、会うことができないか」
氷河は息をのむ。
「お前の母が望んでいると思うのか。母の亡骸を見ることだけを目的とした人生をお前が歩むことを」
師の、小さな炎を宿す瞳。瞼がそれを隠し、顔がそむけられる。
「氷河。過去を振り返るな。常に前を向け」
師の背中が遠ざかる。氷河は胸元に手をあてる。
ノーザンクロスが見下ろしている……

【なんのために聖闘士に】

翌日。村人たちの干し草集めを手伝う。大量の干し草をアイザックと氷河は手早くトラックに積み込む。(※7)
「アイザックはなんで聖闘士になろうと思ったんだ」
「そうだな、最初はよくわかってなかったんだけど……」
「お前も孤児だったんだよな?」
「うん。色々あってカミュについてきて……なんていうかさ……人より大きな力を持てたら、こうやってみんなのことを助けられるよな?」
「……そうだな」
 
――アイザック、本当はお前の方が聖闘士にふさわしいと、オレはあの頃ずっと思っていた。(※8)
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――

注釈という名の零れおちた妄想

※1 
 氷河がマーマからもらったノーザンクロスのロザリオ。これがカミュをマーマ探索に向かわせるきっかけとなる。
なお、キグナス=白鳥座の別名が北十字星であることを今回初めて知った。あまりに迂闊。こんなことは(少なくとも星矢ファンには)常識なのだろう……

※2
今回、8月辺りを想定した。夏のベリー摘み。
極北でも夏はあるらしいが、ベリーが採れる野辺と凍ったままの海が混在してしまうのはありなのか。ここはだいぶ長距離移動していると考えたい。ベリー摘みは南の方で行い、カミュは北の海へ走る。聖闘士なら楽勝のはず。
(当初秋ごろを想定していて、仕事は鮭漁・湖の氷切りだしのセットのつもりでいた)

※3
ここでカミュはマーマを目にするが、そこは映さない。マーマを見たカミュが想起した過去を映す。扉を開くと、ずっと閉じ込めてきた思い出が……。
あれほど弟子を愛したカミュが親の愛を知らないはずはないので、母親との思い出はあたたかいものにしたい。
しかし母親の顔は口元までしか見せない。カミュは母親の顔を覚えていないか、思い出すことを自らに禁じているか、どちらかである。
過去回想であることを示すために、輪郭のぼやけた光の中に、やや暗めの色で展開する。邪魔にならない程度に、水のゆらめき的なエフェクトが入るとよい。(謎の注文の多さ)

※4
この物語の設定では、カミュは幼少時から・先天的に凍気を発していたことにする。触れるものを凍らせる異能。修行はむしろそれを適切にコントロールするためのもの。
ご近所さんに疎まれ、母親は泣いてばかり。何らかのルートで聖域に有望な子どもと認識され、連れていかれる。この時点で戸籍上は死んだ者となった。
ちなみにカミュの生家は少し良い家柄としたい。あの気品はそうでもないと説明がつかない。

※5
ここで白鳥座、すなわち北十字星を出現させるために夏にした。とはいえ、日本の夏の星座だということしかわからず、緯度がだいぶ違うシベリアでも同じかは自信がない。(そもそも茶ぶどうはオリオン座しか判別できない)同じ北半球ではあるのでなんとか見えてほしい。
極北なので夏は夜も明るいはずというのもネック。でも星は見える感じでお願いしたい。
そしてやっぱり「永久氷壁は、あります」ということにする。

これは私の脳内アニメなので自然科学的な正確性とか妥当性とか蓋然性とかはちょっと緩めていきたい所存。「実際はこうだよ」などの情報は歓迎。

※6
氷河の感じる寒さは気温というよりも精神的な寒々しさ、母のいない寂しさである。あと一応、夏でも日没後はぐっと冷えるはず。
カミュも氷河のマーマを求める心について無理解ではない。しかし自分がとっくに断ち切った(と思っている)母への憧憬に浸りきっている氷河を眼前にして、彼が何を思ったか。

※7
ベリー摘みもそうだが、修行というよりはボランティア活動。村人たちとの信頼関係を保つことも大事、というのが代々ここで修行する聖闘士の間で受け継がれる方針。

※8
聖戦後に戻ってきた14歳の氷河の独白。

見出しについて

今回も元は1000字程度だったのに書き始めたら増殖した。
そしてnoteにあげる段階で見出しを考えていたところ、なぜか一つの讃美歌が心に通い、それで話の中身まで一部変わってしまった。ノーザンクロスの出現である。

「幻の影を追いて」という讃美歌がある。
我が子を思って涙ながらに祈る母親の歌。

まぼろしの影を追いて 浮き世にさ迷い
移ろう花に誘われ行く 汝が身のはかなさ
春は軒の雨 秋は庭の露
母は涙 乾く間なく 祈ると知らずや

讃美歌510番

今回、マーマはセリフがもちろんないが、話の背景にマーマの愛、そしてカミュの母親の愛があると考えた。

元の歌では「幻の影を追いて」=「空しいこの世の楽しみを求めて」の意味だが、今回これを「なき母の姿を求めて」と全然違う形に読み替えた。

「汝がために祈る母の いつまで世にあらん」という一節もある。
この讃美歌は私の母が葬儀で必ず歌ってほしいと言っている曲でもある。
私が小学生のころから言っている。母は舌がんだったから。今は普通に元気にしているが、30代の母は(今の私よりも若かった母!)本気で、自分がいつまで生きるかわからないと思っていたのだろう。
我が母のためにこの歌を歌う日の、なるべく遠からんことを。


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