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総理大臣のいない国家、それが日本!!(憲法夜話)⑩

明治憲法を“殺した”軍部大臣現役武官制

伊藤博文はイギリスやドイツのこうした制度を細かに研究したにもかかわらず、明治憲法には内閣総理大臣が行政権力を一手に握るのだという規定を設けなかった。

ばかりか、内閣総理大臣という語さえ載せなかった。

かくて、戦前日本における総理大臣の権限は、まるで蜃気楼のように実体のないものになってしまった。

憲法の後ろ盾がなければ、それは当然のことである。

事実、昭和に入ると日本の内閣総理大臣は、陸軍大臣をクビにすることもできなくなった。

というのも、たとえクビにしたくても、その後任となる大臣が見つからなければ、どうしようもないからである。

このような事態が生まれた直接の原因となったのは「軍部大臣現役武官制」という制度であった。

陸軍大臣、海軍大臣に就任できるのは、現役陸海軍の大将もしくは中将に限る。

これは陸軍省官制、海軍省官制に定められたものであって、もちろん憲法にはそのような定めはない。

しかし、この規定あるがゆえに内閣総理大臣の権限はますます有名無実になってしまったのである。

というのは、たとえば現役の陸軍大将・中将のすべてが陸軍大臣就任を拒否すれば、その内閣は存立しなくなるからである。

このことは、陸軍の意向一つで内閣をいつでも潰せるということを意味する。

なぜならば、軍部内において、現役の大将・中将は数も限られているし、しかも、その意見を一致させるのは容易なことである。

陸軍の将官たちは共同体を作っていて、いわば一心同体なのだ。

だから、自分たちの意に添わぬ内閣を打倒することは陸軍にとって容易なことであった。

内閣が陸軍の言うことを聞かなければ、陸軍大臣を辞職させた上で、その後任を出さなければいい。

そうすれば、内閣は成立せず、首相は辞任せざるをえない。

かくして軍部大臣現役武官制は、時の政局を左右しえたのである。

もし、これが予備役に編入された大将・中将も大臣になれるとするならば、話は全然違う。

軍隊において、予備役に編入されることは事実上、軍人生命の終わりを意味する。

現役であってこその軍人なのである。

それゆえ予備役の軍人は、軍人であっても軍人ではない。

現役軍人の共同体には入っていない。

ゆえに、予備役の大将・中将が陸軍大臣になった場合、かならずしも軍と共同歩調を取るとは限らないわけである(いわんや、いわゆる後備役軍人においてをや)。

同じ大将・中将であっても、現役と予備役とではかくも意味が違うのである。

つづく

【参考文献】『日本国憲法の問題点』小室直樹著 (集英社)

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