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映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のこと

なにか他人に褒められる経験をしたとしても、信じきれない。
普段の生活では理論武装し、他者を退け、生身の自分を守ろうとする。

マッドデイモン演じる、スラム街で生まれたウィルは、ある特別な才能を持ち、ひょんなことからMITの教授に目を付けられます。才能の発見。その豊かな才能を伸ばさなければ!あるべき場所で活かせ!と教授は急き立てる。
ただ、周りの意見とは対照的にウィル本人は冷めて、素行が悪く、悪友とバーに入り浸り、自分のことに向き合おうとしない。何か意見を言っているようで、実はそれは優秀な頭脳ゆえに記憶していた名著の一節の引用。自分をさらけ出すことを放棄して、自分の意見のように発した言葉は、正しいが実は空虚であること。

ウィルは「持ってる人間」の象徴です。その人間であっても、人生を無意味に、成功がむなしく感じている。実利主義の頂点に立てる存在にあっても、それをむなしく感じるのは何か。この映画はそこから始まります。

ウィルは作中、恋に落ちます。
好きになった彼女が宿題で困ってた時、ウィルはこんなの簡単だよって答えを渡します。すると、彼女はこう答える「ありがとう。でも、自分で解きたいの」。

ウィルは、のちメンターになる心理学者のショーンが描いた絵を見て、得意にまくし立てます。
「あんたは絶望の中にいるな!この絵のタッチからあんたのことがわかるぜ!あんたは奥さんとうまくいかなかったんだろ?」
得意の理論で、他者を分かった気になっている。
それにショーンは強い口調で対応する。
「妻のことを悪く言うのは許さない」。

人間は簡単には理解できない。他者も、もちろんウィル自身も。

悪友役のベンアフレックが素晴らしかった。ともにバカやりながらも、実はウィルの才能に気が付いていて、それを卑下するわけでも、排除するわけでもない。ここにいてもいいと安心感を与えつつも、本当にここがお前の場所か?と問う。その問い方がほんとーーーーにかっこいい。ぶっきらぼうながら、なんて優しい背中の押し方だと思いました。

自己肯定はどうやってできるのか。もちろん他者の喝さいや拍手でうれしく思うこともあるでしょう。ただ、ウィルとショーンが遂にたどり着くゴールは、より根源的な点に着地します。

とても良い作品でした。ラストカットがとても素敵。




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