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【Bar S 】episode6 バカボンのおまわりさん



ウチの店の数少ないフードメニューの中で唯一 定番商品にしているメニューがありました。(書きたいけど、このメニューを書くとバレる可能性が高くなるので秘密) その商品を気に入ってくれて、近所のスナックのママさんがテイクアウトしてくれるようになりました。

ある日、ママさんは自分の息子を連れてやって来ました。

「この子に持って帰ってきてもらうから、あとはよろしくね」と言ってママさんは会計を先に済ませスナックに戻ってしまいました。

残された息子。成人しているのはわかるが、歳の読めない顔してる。っつーか 天才バカボンに出てくるおまわりさんじゃねーか!

そう思いながら心の中の爆笑が顔に出ないように、商品を準備した。

待っている間、所在なさげにキョロキョロ おどおどしてるおまわりさん。身長は158センチくらいで、ずんぐりむっくりした体型。

「歳は今おいくつですか?」

声をかけてみる。

「さ、さんじゅう よ、よんです」

緊張している。

「へー 見えないですね。っていうか年齢わからない顔してますよね!」

「はっ はぁー」

「お母さんのお店手伝ってるんですか?」

「い、いや て、て、手伝っているというか た、ただいるだけです」

「へー 居るだけってカウンターとかに座ってお客さんとお話しとかしてるの?」

「ん、んーと は、話しかけてくれれば お、お話ししたりしますけど・・・」

「ふーん そーなんだ」

お持ち帰りのしたくが出来たので、その辺でなかなか進まない話しを切り上げた。

帰りがけに名前を訊いた。

「わ、ワタルです」


2日後、ワタルは一人で現れた。

「おっ 今日もおつかいですか?」

「い、いえ この間マスターが話しかけてくれたのが嬉しくて きょ、今日は飲みにきました」

「あっそう 嬉しいね。どうぞお掛けください。何を飲まれます?」

奥から3番目の席を進めると、ワタルは少し嬉しそうな顔をして

「お、オレンジジュースください」と元気よく言い放った。

「えっ オレンジジュースでいいの?お酒は呑めないの?」

「ぼ、ぼく しゅ、週に1回しかお酒呑んじゃいけないんです」

オレンジジュースをグラスに入れ、ワタルの前に差し出す。

ワタルは一気にグラスの半分を減らした。

「あっそうなんだ⁉ 医者にでも止められてるの?」

「い、いや、体は悪いとこありません」

「じゃあ自分でそう決めたっていうだけの事?」

「お、お母さんにそう言われてるんです」

「えっ うそでしょ!お母さんに止められてそれ守ってるの?」

「マスター 当たり前じゃないですか。お母さんの言う事は絶対です」

〈うわっ 気持ち悪いヤツ〉と思いながらも他にお客がいなかったので、ワタルと話しを続けた。


1時間ほどして、ワタルのグラスもとっくに空いていたので

「他に何か注文くれる?」と訊くと

「あっ ぼ、ぼくご飯食べて来ちゃったんで、もう食べられません。」

「じゃあもう一杯なんか飲みなよ」

「ちゃぷちゃぷになって、お腹痛くなっちゃうと困るからもういりません」

ワタルは注文することを拒否した後もずっと居座り続けた。

だんだんイライラしてきた私は、ワタルの相手をするのをやめた。

そのうちに他のお客さんが入ってきてワタルはやっと帰った。お会計350円。


次の日もワタルはやって来た。350円。

その次の日も。350円

1日飛ばして次の日も。350円

来る日も来る日も 350円

だらだら話しかけてくるようになった。もう私に対してはどもらずに話せるようになってきた。

話しかけても返事をしなくなった私に向かってワタルは

「ねえマスター相手してくださいよ。一応ぼくだってお客さんなんですから」

「知らねえなぁ 第一お前のお母さんとこのお客さんで毎回350円で何時間も居る客なんていねえだろ⁉」

「・・・」

「お前みたいなのは、もう来なくていいから お母さんとこで相手してもらえ!」

「だ、だってお母さんが ま、マスターの店で か、会話の練習してきなさいって言うから」

「知らんわ! 俺は酒呑んで金使ってくれる人しか相手しねえんだよ だからもうくるんじゃねえぞ」


出禁2号が誕生した。


はずだった。。。


ワタルはしばらくは顔を見せなかった。

1ヶ月ほど経ったある日、ワタルは現れた。

「マスター 今日はぼくお酒呑める日!!」

「梅酒くださーい」

ワタルは満面の笑みを浮かべながら注文した。

私はワタルのその勝ち誇ったかのような笑顔にムカつきながら梅酒のソーダ割りを作った。


しかし、この日私はワタルに関する興味深い情報を持っていた。ワタルのお母さんとこのスナックの常連さんがウチの店に来たときに仕入れた情報だ。だから実はワタルが来るのをこの時ばかりは楽しみに待っていたのだった。そして今こそ、それを本人にぶつけられる瞬間。

「なぁ ワタル。お前さぁ 毎月1回、お母さんからお金もらってソープランド行ってるんだって?」

「ま、ま、ま、マスター な、な、なんでそんな事知ってるんですか?」

動揺したワタルはまたどもり始めた。

「うるせえなぁ そんな事よりなんで風俗行くのに自分の金でいかねえんだよ」

ワタルは昼間、ワタルのお父さんの会社で働いていた。

「えっ えっ だ、だ、だってお給料全部 お母さんに渡してるから。そ、それにお母さんが月に1回ソープランドに行って来いって言うんだもん」


この調子でずっと書くと長くなるので、ワタルの話しをまとめると

ワタルは毎日必要な分だけお母さんからお金をもらって出かける。ウチでのジュース代もそう。

ワタルは素人童貞で(当たり前だ)、お母さんが心配して月に1回ソープランドに行く金を渡し、ワタルはお母さんの言う通り月に1回ソープランドに行く。

月に1回のソープランドはいつも決まった店で、熟女系のお店。いつも決まった50歳くらいの女性を指名している。

終わったあとの残りの時間で、その人とお話しするのが好き。

その人はワタルに対して一番優しくしてくれる人。

若い女性より年上の女性との方が落ち着けて好き。


だそうだ。


にやつきながら話すワタルを見て、鳥肌を立たせながらも笑えた。

「お前そーやってソープランドの話しを、他のお客さんがいるときにしてあげればみんな喜ぶぞ」

「えっ なんで ぼ、ぼくがそんな話ししなくちゃいけないんですか」

「まっ どうでもいいけどさ」

ワタルはこの日 500円で帰った。


2日後にワタルは来た。

最近来てくれるようになったケンとムツミちゃんカップルの隣に座った。

「ワタル ソープランドの話してよ」

「えっ じょ、女性も い、いるじゃないですか」

私はそんな言葉を無視して ワタルに質問していく。

最初は嫌がっていたワタルは、ケン&ムツミカップルの爆笑を勝ち取って調子に乗りどんどん話した。

それからワタルは店に来る度にソープランドの話しをして、他のお客さんから笑いをとった。

若い女性からは思いっきりひかれ、気持ち悪がられた。

そうやってワタルはみんなからの弄られキャラとなった。

しかし、いつまでたっても同じソープランドの話しをして、すぐに飽きられていった。

半年くらい経つと、ワタルはたまにしか顔を出さなくなった。

でも、夜な夜な自転車でキョロキョロしながら徘徊している彼をよく見かけた。


丁度、店に入って来るお客さんが、外にいるワタルを見かけると

「そこに自転車に乗った気持ち悪い人がいる」と言う事がある。

そんな時は、店内にいるみんなで声を揃え

「ワタルでしょ!」と答える。

それからワタルのソープランド話を、みんなでその新規のお客さんにしてあげるのだ。

そのお客さんの反応は、爆笑するか ドン引きするかだ。



今、ワタルのあの天才バカボンに出てくる おまわりさんのような顔を思い出しても、なんかムカムカしてくるのだが、ワタルというM男によって、私の中のS要素が目覚めてしまった事は間違いないだろう。


そして私はそれ以降、客いじりを得意技とするようになるのである。



ーepisode 6 おわりー









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